地震
魔城ゼルレタに向けて、悠然と歩む。
魔族の魔導師の姿の姿が見え、彼らはゼルレタの道を塞ぐように、俺の前に立っている。
「くらいやがれっ!」
魔導師たちは、それぞれ魔法を放つ。躱すことも防ぐこともせず、俺はその攻撃をその身に受けた。
「やったか!?」
彼らは声を上げる。
煙が消え、影が露わになる。そこには傷一つ負っていない俺の姿があった。意に介していない様子を見せ、俺はただ歩を進める。
彼らは必死に、魔法を放ち続ける。
それでも結果は変わらない。
「やめておけ。これ以上やっても無意味だ」
「うるせぇっ!」
忠告を荒げた声で掻き消すが、魔導師たちの呼吸は荒い。額からは嫌な汗が流れ、それを拭う。
直撃してもダメージを負わない。自分の魔法が通用しないというその事実を突きつけられている。
逃げ出したい、死にたくないという想いと、魔王の勅命には逆らえないという想いが葛藤して、結果彼らは通用しないと分かっている魔法をただ打ち続けるという結論に至ったのだ。
それでも止まらない。一歩ずつ、確かに近づいてくる死の恐怖。やがて彼らは魔法を撃つのをやめた。いや、撃つことができなかった。というのが正しいだろう。
これ以上どう抵抗しても、天地がひっくり返ったとしても敵うことはない。戦意は既に失われていた。
俺は彼らの間をすり抜け、歩みを進める。
「……殺さないのか?」
一人の魔導師が問いかけてくる。
「愚問だな。戦意を失った兵士など殺すまでもない。戦うという気力を失った兵士など、もう死んでいるのも同義だ」
俺は振り返って、そう言い放つ。
殺すつもりなどない。せいぜい気を失ってもらう程度の魔法を撃つ魔法術式を組み立てていたが、戦意を感じられない兵士に使う必要などない。
しばらく歩き、俺の目の前に魔城ゼルレタが映った。
瞬間ーー地面が少し揺れた。建物は少し軋みを上げるが、崩壊するほどではない。たまたま偶然発生した地震か?
そんな俺を、建物の隅に隠れてる息を潜めている兵士が十数人。俺が気づいていないと思い、ひそひそと話をしているようだが、既にバレバレだ。
セリナとシヴァのところも終わったようだな。二人とも、こちらに向かってきている。
彼らは意を決したように、お互いの顔を見て頷くと、雄叫びをあげながらこちらに向けて突進してくる。
「≪氷結世界≫」
凛とした声が響くと、辺り一帯凍てついた空気が広がった。突如として氷壁が出現し、彼らの身体を覆い自由を奪っていく。
「ぐっ……!ああぁぁぁっっっっ……」
せめて一矢報いろうと彼らは抵抗するが、身体が凍え言うことを効かない。つま先から腰、腰から肩あたりまで凍りついて、やがて彼らの顔まで覆っていった。
顔を上げると、シヴァとセリナが≪飛翔≫で浮いていた。二人はゆっくりと地面に足をつける。
「待った?」
「いや、俺も今来たところだ」
問いかけてくるシヴァに、俺はそう返す。
今のところメンタルの乱れはない。ノヴェンレビィアを制御できている。
「アムル。彼らが来てたの、気づいていたでしょ。どうして躱す素振りも見せなかったの?たまたまタイミングよく私たちが、ここに来ていたから良かったけど」
兵士たちが動けなくなったのを確認して、セリナが咎める。
「たまたま二人が、ここに向かっているのが分かったから何もしなかった」
仮に兵士たちの存在に俺が気づいていなかったとしても、二人なら守ってくれるだろう。
だからあえて何もしなかった。信頼していたのだ。
「だからって……心臓に悪いわ」
セリナが呆れたように愚痴を漏らして吐息する。
そして魔城ゼルレタに目をやった。俺とシヴァからしたら何度も目にした魔城だが、セリナにとっては初めて目にする。禍々しく、近寄りがたい威圧感を放っているのだ。
「ここが……?これまた随分と不気味ね……」
視界に広がる魔城を見て、セリナは第一声を放った。
「実は、魔城そのものが持つ圧倒的魔力量は、この魔界都市すら創り出したと言われているんだ」
シヴァが魔界の豆知識を披露する。
それは初耳だな。
「正確には魔城が持つ魔力量を利用して、初代魔王が地形を形成したり、建物を創り出したらしいんだけどね。実際、建物にはシンベルファルスの魔力が送られているから滅多に壊れることなんてないし」
そこで俺に、一つの疑問が浮かび上がる。
「シヴァ。シンベルファルスに地震が発生したことはあるか?」
「いや、俺が魔界にいたときはなかったよ。地形を形成したときも自然災害が発生しないように形成したって聞いたから」
初代魔王の地形形成操作の技術がどれほどかは知らない。それこそ何千年前にも遡るだろう。当然、魔法技術も今よりは格段に劣っているのだろうが、初代魔王と言われていた者の魔法がそこまで杜撰なものだったとは思えない。
俺は地面に手を当てて、魔力の流れを読む。
魔力の流れがおかしい。俺はゆっくりと手を離して、
「このままでは、シンベルファルスそのものが崩壊してしまう」
俺がそう言うと、シヴァとセリナが驚愕の表情を浮かべる。
ゼルレタの魔力を利用して、この地形を形成しているのならば魔力の流れはゼルレタを中心として、地形に流れ出しているはずだ。
だが今は、地中の魔力がゼルレタに吸い寄せられている。魔力が元あるべき場所へと戻ろうとしているのだ。当然、魔力が元に造られている地形や建物は、形そのものが魔力であるため存在そのものが失われてしまう。
「一体何のために……」
セリナが考え込む。魔界都市を創り出すほどの魔力だ。使い道はいくらでもある。だがそれは同時にーー
「白フードを仕業だ。一刻も早く奴を止める」
俺はカリュエヴァマを異空間から取り出す。
ゼルレタに張り巡らされた魔法陣は、たとえノヴェンレビィアでも斬ることはできない。
俺はカリュエヴァマを一振り。魔法陣はたちまち崩壊していき、俺たちを阻むものはなくなった。
魔城ゼルレタの門に手をかける。
ギギギギイイィィッッ!っと重い音を立てて、門が開く。
いよいよ最終決戦が始まろうとしていた。




