異様な魔力
リューア森林の周辺は、≪白雷鳴王≫によって荒れ果ててしまったのだが、瞬時に≪復元≫の魔法で元通りの状態へと戻す。
気を失わせる目的のため、威力は落としてある。しかしそれは、魔界軍の兵士たちのレベルに合わせて、だ。そのレベルだと、魔界十傑雄は重傷こそ負っているが、まだ動けるだろう。
現に、彼らは震えた足を必死に叩き起こして立ち上がろうとしていた。
「見上げた根性だ。だが……」
立ち上がろうとしていた魔王十傑雄に≪神聖封印陣≫の魔法を行使する。これで動くことはできない。やがて限界がきたのか、彼らも気を失い倒れた。≪聖治癒≫で彼らの負った傷を治していく。
「シヴァ。セリナ。もう大丈夫だ」
二人にそう呼びかける。
やがて、この場に再び三人が集まった。
「凄い魔力量の魔法だったわね。もしかして古代魔法?」
この場に転がる魔界軍たちの姿を見ながら、セリナが尋ねる。
「あぁ。まあ本気で使えば、このリューア森林一帯黒焦げになっていたかもな」
≪白雷鳴王≫の由来となっているそれは、領土を消し去るほどの威力を持っているからな。さっきはああ言ったが、本来の威力のまま放とうとしたら、リューア森林どころかフェルメイトすら消し飛ばしてしまったのかもしれない。
そう答える俺を見て、セリナの表情が固まる。
「アムルには敵わないね。まったく」
肩をすくめるようにしながら、シヴァは苦笑いを浮かべていた。
「みんな、聞こえるか」
俺は≪魔力経由通信≫で話しかける。
「聞こえるよー!」
「終わったのか!?最後の魔法、なんかビビッときて凄かったぜ!!」
「あぁ、人間界にいる魔界軍はひとまず片付けた。俺とセリナとシヴァは今から魔界に乗り込む。こいつらは気を失っているし、この戦いが終わるまで目を覚ますこともないだろうが警戒を続けてくれ」
「「了解!!」」
当初の予定通り、≪聖祈楽園≫を解いた。ここからは正真正銘、己自身の力のみで戦うこととなる。
「行けるか。二人とも」
「もちろん」
シヴァは迷いのない返事を返す。
セリナは息を吸って、吐く。緊張からか身体が震えていた。先ほどまでの戦場は、あくまでも人間界。これから魔界へと移っていくのだ。見たことのない景色、そして環境。不安で胸がいっぱいというのが伝わってくる。
「セリナ。手を出せ」
セリナは手を前に出す。
俺はその手を握りしめた。白く細くて、冷たい手だ。
「安心しろ。セリナは強い。俺がそう言っているんだから大丈夫だ」
セリナの顔は赤くなり、俺の手を振り解く。
「表情が固いぞ。もっと肩の力を抜け」
「……もう、大丈夫」
「嘘つけ。口ではそう言えても、身体は正直だ。心拍数が通常のセリナよりも上がっている」
≪創始の聖眼≫でセリナの脈を見ているが、むしろさっきより早くなっている。
「だ・い・じょ・う・ぶ!!」
セリナにそう強く言われてしまい、思わず黙り込んでしまった。シヴァはその光景を暖かい目を浮かべながらクスクスと笑っている。
気を取り直し、≪召喚≫の魔法陣を描く。そこから身体が白い鱗で覆われた一匹の飛竜が出現する。魔界の飛竜とは対称的にくりくりとした丸い目をしており、首を横に小さく振った。
「二人とも。こいつに乗れ」
俺は飛竜の背中に乗る。魔界の飛竜と比べると、鱗は柔らかく座り心地が良さそうだ。戦う必要がない人間界の飛竜は、そのように進化していったのだろう。
魔力消費が少ない≪飛翔≫とは言え、二人に負担はかけられない。
セリナとシヴァも、飛竜の背中に飛び乗った。
「行け」
そう言うと飛竜は、大きく白い翼をはためかせて魔界へと向かった。
空から地上を見下ろすが、魔界軍の援軍が進軍している様子はない。やがてカンビレア山を超えて、魔界へと入っていった。
「セリナ。気分はどうだ?」
「ちょっと気持ち悪いかも」
セリナの身体は、既に魔気の影響を受けている。顔色もあまり優れていない。右手をセリナの前にかざして、彼女に魔力を送る。
「これでどうだ?少しは楽になったと思うが」
「ありがとう。だいぶ楽になったわ。これなら戦える」
セリナの魔力も安定している。これで問題はないだろう。シヴァの目は真っ直ぐ、魔城ゼルレタにいるであろう白フードの方に向けられていた。
やがて、魔城ゼルレタが視界に入る。
そこには三百年前となんら変わりない魔法陣が施されている。いや。より複雑に、より緻密に組み込まれている。
「……!二人とも、戦闘態勢をとれ」
魔界都市シンベルファルスの正門前に設置されている監視塔から、数人の魔導師が撃ち落とさんと魔法を放ってくる。その下には、魔導師と兵士たちが数百人待機していた。
飛竜を操作して、放たれる魔法を華麗に躱す。
「行くぞ。準備はいいか?」
「当然」
「いつでもいけるわ」
俺たちは飛竜の背中から飛び降りて、魔界の地へと足を付ける。
「死ねえぇっ!」
剣を振りかざす兵士。俺は指を鳴らすと、その武器は粉々に破壊された。その兵士は驚愕の表情を浮かべる。
「死なないさ。俺も、お前も」
首に手刀を落とす。兵士は意識を失い、パタリと倒れた。
俺はゼルレタに目を移す。
以前訪れたときには、感じれなかった異様な魔力を感じたのだ。バハルに限りなく近い、だがバハルではない何者かの魔力をーー




