決戦の地 リューア森林
リューア森林は動物たちが生息しやすい森として有名だ。今から起こる出来事を本能が察知したのか、小鳥は遠くに飛んでいき、鹿の親子は身の安全が保証できるであろう洞窟に逃げ込んでいた。
戦場となり得るリューア森林は、静まり返って薄気味悪さを感じさせる。
俺はシヴァとセリナと共に、迫り来る魔界軍を待ち構えていた。
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「シヴァ。セリナ。二人は俺と一緒に魔界軍の侵入を食い止める。その中に五人ほどかなり魔力量が桁違いな奴らがいる。二人はそいつらを無視して構わない。それは全て俺が片付ける」
二人は頷いた。
「スピカ、イジェル、シルミー、ミラ、メリア。五人は学院で、≪聖祈楽園≫でサポート。カジムとゼノンは、五人の護衛だ。一応、迎撃用の魔法を展開してある。俺たちが取りこぼした魔族を、フェルメイトに侵入させるな」
一つ星のみんなも気合い十分のようだ。
「彼らを戦闘不能にした後、俺とシヴァとセリナは魔界に乗り込み白フードを討つ。俺たちが魔界に乗り込んだら≪聖祈楽園≫は解除してくれ」
そう言った俺に、一つ星のみんなは目を丸くした。≪聖祈楽園≫は個々の能力を飛躍的に向上させる。人数という点において圧倒的不利な状況、それを補えるのは≪聖祈楽園≫しかないと考えていた彼らにとっては、そう驚くのも無理はなかった。
「俺たちが魔界にいるときは、当然人界を守ることはできない。お前たちが人界を守るんだ。それでお前たちに一つやってもらいたいことがあるーー」
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「かなり無茶なことを言ったわね」
左隣でセリナがボソッと呟く。右隣にいたシヴァも同意を示すかのように笑みを見せていた。
「ああ、だが≪聖祈楽園≫を完成させたスピカたちと、偶然にも互いの魔法を融合させることごできたカジムたちが力を合わせれば不可能なことではない」
この案を彼らに言ったときは、驚きこそしていたが、無理、できないと後ろ向きの言葉は誰一人とて発さなかった。
今は学院で待機しつつ、準備をしているはずだ。
その間にも、魔界軍がリューア森林を進んでいる。やがて魔界軍の姿が見えた。
「ん?……あれは……人間!?」
前を歩いていた魔族の兵士が目を細めながらこちらを見る。そして敵とみるや、戦闘態勢をとって威嚇するように睨みつけてきた。
「待て!!あれはレーベック様がおっしゃっていた人間だ!!至急、レーベック様たちに連絡!!敵は……三人!?しかも後の二人も……学生!?人界軍の姿は見当たらない!!」
いるはずだと思っていた人界軍の姿が見当たらず、困惑する様子を見せていた。
「後ろにもう数人控えているが、人界軍はそれだけだ。余計な犠牲を出すわけにはいかないからな」
「ふ、ふざけやがって……」
兵士たちは剣や槍を取り出し、後方のいる者は魔法陣を展開する。
「レーベック様が警戒するほどの人間だ!決して油断するな!」
「へっ!いくら強くても、二十人で一斉に襲い掛かりゃ問題ねぇだろ!」
俺は二人に声をかける。
「下がれ」
二人は頷き、後ろに下がる。
魔導師たちが火、水、風、雷の魔法を放つ。それは生き物のように動き、俺の逃げ道を塞ぐように迫る。魔界軍とだけあってなかなか繊細な技術だ。
だがーー
俺は息を吸い、足に力を込める。
そしてその魔法を吹き飛ばした。
俺から発せられる衝撃波に木々が震え上がり、魔界軍の兵士や魔導師たちは踏ん張りきれず、飛ばされた。
「馬鹿な!魔法障壁を展開し防ぐわけでもなく、魔法で相殺するわけでもなく、気だけで全ての魔法を打ち消しただと!」
魔族の一人が、必死に耐えながら言葉を漏らす。
「シヴァ。セリナ。スピカ。イジェル。ジェシカ。シルミー。ミラ。メリア。カジム。ゼノン」
≪魔力経由通信≫を繋ぎ、それぞれの名前を呼ぶ。
「気を引き締めろ。誰も殺さない、殺されない戦争の始まりだ」
「オッケー」
「えぇ」
「「「「「「「うん!」」」」」」
「「おう!」」
俺は目の前にいる魔界軍に言った。
「聞け。俺は≪剣聖≫アムル・シルフィルク。この先を進みたくば、俺を倒してから進むがいい」
カリュエヴァマを出現させ、それを天に掲げる。それと同時に、上空に巨大な魔法陣が浮かび上がる。それは黄金色の輝きを放った。
「来た!アムルくんからの合図!」
ミラが言った。
それを確認したスピカたちは魔法陣を展開する。
「「聖祈楽園≫!!」」
虹色の輝きを放つ魔法陣が出現し、五つの光が彼方へ飛んでいく。それは俺たちの身体に纏った。
魔法祭のときよりも効力が上がっている。
それほど時間は経過していないのだが、彼女らなりに研究を重ねたのだろう。≪聖祈楽園≫を纏った俺たちの急激な魔力の高まりに、魔界軍は思わず後退りをした。
「≪氷結世界≫」
リューア森林の一部が、一瞬にして白い世界へと変貌する。反応が遅れた魔族は、≪氷結世界≫に呑まれ、その場に氷漬けにされた。
「少しだけ大人しくしててね」
あくまで時間稼ぎ。シヴァはノヴェンレビィアを抜くと、魔界軍に切り込んでいった。目にも止まらぬ速さで兵士たちを倒していく。
彼らはこの学生がいつ目の前に現れたのか、そして自分が何をもってどうして倒れたのか、理解が追いつかぬまま気を失っていった。
「くそっ!」
「よそ見をする余裕があるようだな」
そう悪態をつく兵士と、その周辺にいた兵士一帯にカリュエヴァマを突き刺した。
「ガハッ……!」
神剣を突き刺された魔族は死を覚悟しただろう。だが、死ぬことはなかった。
それどころか、血が噴き出すこともなく痛みすら感じなかったのだ。彼らはそれに違和感を覚え、不可解な面持ちを浮かべる。
「≪神聖封印陣≫」
カリュエヴァマに展開しておいた魔法だ。
魔族の兵士の心臓に魔法陣が浮かび上がり、彼らの動きを封じた。少なくともこの戦争が終わるまで動くことはできないだろう。
「おいっ!なんかあいつらヤベェぞ!」
兵士が声を上げる。学生三人。そうたかを括っていた彼らは気がつけば数百人の仲間が倒されている。その動揺は瞬く間に広がった。
「奴らを分断しろ」
そう言ったのは魔王十傑雄第二位ーーレーベック・ニンシュだった。
レーベックの指示に従い、魔界軍は左右中央に散らばった。
「アムル」
魔界軍の行動を見て、シヴァが≪魔力経由通信≫で話しかける。
セリナの広範囲魔法で足止め、シヴァと俺が兵士たちの倒す。俺たちを一人にすることで連携攻撃を防ごうということなのだろう。そんなことで二人がやられるとも思えないけどな。
自身の魔力を高める。
俺はここにいると奴らに示すためだ。
魔王十傑雄も狙いは俺だろうからな。
五つの魔力は中央に集まっていた。
「シヴァは左方向、セリナは右方向に行った魔族を対応してくれ。中央の魔族と魔王十傑雄は俺が引き受ける」
二人は頷いて、森の中へと消えていった。
「カジム。ゼノン。兵士たちが各方向に攻め始めた。もしかすれば取りこぼした兵士たちがそちらに向かうかもしれない。準備しておけ」
「「おう!!」」
俺は目の前にいる魔族の兵士たちと魔王十傑雄を睨みつける。発せられるオーラに兵士から冷や汗が流れる。
地面を蹴り、魔界軍に突っ込んでいった。
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魔城ゼルレタにてただ一人ーー
白フードは玉座に座りながら、戦場にいる魔族たちの視界を遠隔魔法で受信し、戦況を眺めていた。
やがて立ち上がり、奥の部屋のドアに手をかける。開くと、そこには魔剣やら魔道具やらが綺麗に置かれていた。
白フードが向かったのはそのさらに向こうだ。
「ほとんど定着しているな」
ある場所の前に止まり、白フードは言葉を漏らす。そこは複雑な魔法陣が組まれており、その中心に二人の人物がいた。
一人は深海のような深い青髪に、鍛え抜かれた肉体を持つ男性。もう一人は桜のような桃色の髪とまだ幼さが残る顔立ちの少女だった。
白フードは歪な笑みを見せる。
「これで、ようやく果たせる……」
深く長い眠りにつく二人を見て、白フードはそう言葉を漏らした。
新作恋愛小説家執筆しました
美少女を見かけてから、ブラックコーヒは甘々です
是非一度、見てみてください
12月24日現在
書き溜めを行なっているため、少々更新が止まっております。気長に待ってくだされば嬉しいです。
年明け前には書き溜め分更新したいと考えています。




