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魔界の兵力

 俺は魔法陣を描くと、それは身体を覆って光を放つ。その白き輝きは、暫くしたのち徐々に消えていった。


「ふん。その忌々しい姿を見るのも、実に三百年ぶりだな」


 怪訝そうな口調で、白フードは言葉を漏らす。

 さっき使った魔法は≪衣装転換(ラコン)≫。

 俺が今着ている服は、魔法学院の制服ではない。地味で特徴のない上下白の服装であるため、見た目には目を瞑ってほしいが、代わりに簡易な反魔法術式が組み込まれている。

 こいつを纏うのも久々だが、まったく違和感を感じない。


「これ以上、関係のないものたちを巻き込むのはやめろ」


「断る」


 そう言うと、魔界から再び≪無・虚滅(デル・エグザトス)≫が放たれる。一発目よりも、威力が増している。いや、それだけではない。俺に対する負の感情も上乗せされている。


 俺はカリュエヴァマを≪無・虚滅(デル・エグザトス)≫を断ち切り、跡形もなく消滅していく。


「何度やろうとも、結果は変わらん」


 カリュエヴァマは主と選んだものに、最大限の力をもたらす。フェルメイトの守護者として魔法結界の核となり存在していたが、それでも本来の力の一割も出せていなかった。

 白フードの言うとおり、カリュエヴァマの魔法結界では≪無・虚滅(デル・エグザトス)≫を防ぐことはできなかっただろう。

 だが、俺が使用することによって本来の力が発揮され、結果として≪無・虚滅(デル・エグザトス)≫を打ち払うことができたのだ。

 

「別に俺に恨みがあるのならそれでいい。何度でも受けて、返り討ちにしてやる。だが、人界に暮らす人間を巻き込む必要がどこにある。この平和な時代で暮らす彼らは無関係だ」


「ならば、あの戦争の時代であったなら、誰でも殺してよいと?まだ小さな幼子が、必死に命乞いをしようとも関係なく殺してもよいと?」


 白フードが怒りを言葉にのせて言う。


「許さん。今が平和だというのならば、何度でも血生臭い戦争の時代へと変えてやる。そして貴様を殺し、人間一匹残すことなく殲滅してやる。これは我の意志でもあり、魔界に暮らす魔族全員のの意志だ」


「そうやって三百年前とはまったく関係のない魔族すらも巻き込み、惨劇を繰り返そうというのか」


 白フードの意志には間違いないだろうが、魔族だって戦争を嫌うものだっている。大切な存在が命を落としていなくなっていく悲しみを、もう味わいたくないと思うはずだ。


「あぁ、人間を滅ぼすためならと、皆協力してくれている。それだけ我らの意思は固く、揺るがないものなのだ。これより、我ら魔界軍はフェルメイトへ侵攻する。兵力は三万。我が側近ともいえる魔界十傑雄、我らがもつ戦力を全て注ぎ、フェルメイトを落とす」


 白フードは宣言する。

 そして、俺に一言放った。


「≪剣聖≫よ。我らがもつ怒りと憎しみに、せいぜい苦しんで死んでくれ」


 ブツンッと通信が切れて、魔法陣が消え去っていく。静まりかえっていた王都は、これから起こる事態に恐怖し、叫ぶ。


「ああああぁぁぁっっっ!!」


「ふざけんな!ふざけんなよ!」


 悲痛な叫びが王都を包む。中には取っ組み合いを始める国民の姿もあった。近くにいた魔導師たちは、耳元に手を当てて小さく頷くと、次々と走り出していった。フェルメイト宮殿の方向であり、おそらくオーシスからの指示が飛んできたのかもしれない。


 やがて一人の国民が、こちらを睨んで指をさす。


「元はと言えば、全部お前のせいだぞ!分かってんのか!!」


「くだらん争いに俺たちを巻き込みやがって!」


「返して!わたしたちの生活を返してよぉ!」


 非難を声が俺に向けて、飛び交う。

 彼らの言い分は最もだ。


「そうだ。この戦争を引き起こした元凶は俺だ。だから、この戦争を止めるためにここにいる。誰も死なせないし、誰も殺さない。人間も魔族も」


 彼らが無駄に血を流す必要などない。

 流すのはーー


 ≪魔力経由通信(ロズア)≫で、セリナたちに話しかける。


「みんな、聞こえているか?」


「アムル?さっき言っていたことって本当?」


 ここまで来てしまっては、もう隠すことも隠す必要もない。


「あぁ。俺は三百年前、≪剣聖≫として魔族と争いをしていた。奴も三百年前のことを知っている。だが本当の魔王ではない。偽りの魔王を名乗り、こうして戦争を仕掛けてきた」


 三百年、俺を恨み復讐をするためだけに。


「だから、俺は奴を討つ。まずはリエルに報告。ほとんどの魔導師はフェルメイト宮殿に向かい、避難誘導する者がいない。お前たちが国民を魔法学院に避難させてくれ」


「ちょっと待って!わたしたちにだって他にできることがーー」


「悪いが、これは俺の問題だ。セリナたちを巻き込むことはできない」


「だからーー」


 セリナが何か言いかけていたが、強制的に≪魔力経由通信(ロズア)≫を切る。そして、恐怖に染まった表情を浮かべている彼らに目を向けて、言った。


「みんな。今この場に魔導師はいない。これから魔法学院の生徒と教員が避難誘導に来る。その指示に従い、行動してくれ」


「ふざけんな。そんなことより、まず真実を教えろよ!」


「そんなガキの言うことなんて信じられるわけないだろうが!」


 魔力を込めて話すが、彼らの怒りは増す一方だった。それだけ戦争が始まる恐怖に、感情が支配されているということだ。


「この戦争が終われば、全ての真実を話す。だから指示に従ってくれ」


 俺はもう一つ、行かなければいけない場所がある。ここであまり時間を割いている余裕はない。


 ≪転移(ゲイラス)≫で、俺はこの場を去った。

 この場を去る瞬間まで、俺への罵声が消えることはなかった。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * *


「時はきた!今こそ忌まわしき魔族を討つときがきたのだ!恐れることなどない!勝利は我らにあるのだ!」


 場所はフェルメイト宮殿。

 戦闘魔導師隊、医療魔導師隊、偵察魔導師隊、その他にも鎧に身を包んでいる兵士たちなどをかき集め、オーシスは彼らに語りかけていた。


「国王様。≪剣聖≫というあの者の力を借りるというのは……」


 一人の側近が国王に耳打ちする。

 魔力量から、ダンテと同等の立ち位置の者だろう。


「ふざけるな!あんな者の力を借りる必要などない!それともお前はあの魔王と、あの一つ星の言うことを信じるというのか!」


 オーシスは激情し、怒号を飛ばす。

 仕切り直すように咳払いを一つ入れて、魔導師たちに今一度目を向けて、


「きみたちの勇姿は、誰しもの記憶に永遠と残り続け、伝説となる!例え命を失おうとも、最後の一滴まで力を振り絞り、魔族を皆殺しにするのだ!」


 魔導師たちが、割れんばかりの声を上げた。


 すると、オーシスの目の前に、一人の男が現れた。純白の服に身を包み、その腰には黄金の剣を下げている。


「貴様……何をしにきた」


「あんたに頼みがあってきた」


 俺はオーシスに真っ直ぐ目を向ける。


「彼らを戦地に赴かせるな。こんなくだらん争いなんかで命を失う必要などない」


「なぜだ?≪剣聖≫だがなんだが知らんが、なぜ貴様の言うことを聞かなければならない?」


「誰かが死んでいくのを見るのは、もうごめんだからだ」


 沢山の魔族を殺してきた。沢山の仲間が死んでいくのをこの目で見た。彼らの顔は、一度たりとも忘れたことはない。


「せいぜい苦しんで死んでくれ、と白フードは言っていた。奴の標的は俺だ。だから俺一人で、魔界軍を食い止め、戦争を終わらせる」


「笑わせるな。魔界の兵力は三万だぞ。それをたった一人でだと?≪剣聖≫とて、数の暴力にはーー」


「それがどうした。三万だろうと十万だろうと、人界を守るために剣を振るい、皆を導く。それが≪剣聖≫だ」


 俺は声を張り、王座の間に集まっている魔導師に叫んだ。


「聞け!お前たちの強さは、命は戦争へと出向き、失うためにあるのではない!これまでの、これから出会う大切な者たちを守るためにあるのだ!こんなところでその尊い命を捨てるな。生きて、その先の未来に向けて進め!」


 心から願った本心だ。その言葉が、どれだけの魔導師たちに届いたかはわからない。


 俺はオーシスに鋭い視線を向ける。


「あんたの仕事は、魔導師を死なせることじゃない。国と国民の両方を守るためにはどうすればいいのか、常に考え続けることだ」


 オーシスは奥歯を噛み締め、俺を睨みつけていた。

 ≪転移(ゲイラス)≫で、フェルメイト宮殿を後にする。


 始まるーー

 白フード率いる魔界軍と、≪剣聖≫。

 三百年前の争いの続きがーー

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