広がる噂
黒髪に紫紺の瞳を持つ一人の学生が、フェルメイトを攻め落とそうとした魔族四名を退けたーーという情報は、あっという間に王都中に広まっていた。
あの場に集まっていた魔導師隊の中の誰かから情報が漏れ、国民がその情報を広めていったという感じだろうな。
そしてその人物は、一つ星のアムル・シルフィルクではないかと噂されていた。一年生、しかも一つ星にして≪四帝≫、そして前大会優勝の≪怪物≫バルドを倒した、魔法祭優勝の立役者そんな彼ならば、魔族を倒せるのだってありえない話ではない。などと話をしていた。オーシスたちがただ黙ってそれを見てるわけにもないと思うのだが。
そのせいで魔法学院の正門前には、大勢の国民が押し寄せていた。
「ーーじゃあ、アムルはわたしが屋上から出ていったと同時に、魔族の魔力を感じてその場所に向かったってこと?」
授業が終わって早々、ものすごい剣幕でセリナに問い詰められた。授業中何やらずっとそわそわしていて、チラチラとこちらを見ていた。ずっと気になっていたのだろう。
「あぁ」
「うそ……まったく感じなかった……」
自分の実力不足を気にしてか、セリナは誰が見ても分かるように肩を落とした。
おそらくカリュエヴァマの魔法結界の効果だろう。外部からの魔力を遮断しているそうだ。俺は魔力に覚えがあったためその影響もなく察知できたわけだが、白フード以外の魔力を感じたことがないセリナたちにそれを感知しろというのは無理な話だろう。
「気にするな。今は無理でも時期に慣れるさ」
気をおとすセリナに俺は声をかける。
「あぁ、あとなシヴァ」
「ん?どうしたの?」
他の生徒に聞かれないように小声で、俺はシヴァに話しかけた。
「お前は気がついていたんだろう」
「うん。本当は行きたかったんだけどね。タイミング悪く授業が始まっちゃったから」
シヴァは申し訳なさそうに苦笑いを浮かべた。
「まさか、もう彼らを使ってくるなんて……」
元は魔族で、バハルの息子なのだ。当然、魔王十傑雄とも面識があるはず。ということは必然的に魔力も分かるはずだ。
「それだけ白フードも本気だということだろう」
フェルメイトはアグンネスタ大陸に存在する数々の王国の中でも軍事力は、頭ひとつ抜けているらしい。まぁ、そのうちの一つの要因として魔法結界が入っているのだが。そんなフェルメイトが攻め落とされた時点で、人界は破滅へと向かうだろう。
だが、それならフェルメイト以外の王国から落としてしまえばいいと考える。戦争は軍事力だけではない。食料や物資が不足してしまえば、戦争どころではなくなってしまう。本来、資源が豊富な王国を最初に潰してしまえばよいのだがーー
「だが、奴は俺に固執している。まず俺がいるフェルメイトを滅ぼさなければ、気が済まないようだ」
それが分かってしまえば話が早い。
奴を真正面から迎え撃ち、叩きのめす。それだけだ。例えどんな手で来ようとも。
「ねぇ。二人で何の話をしているの?」
セリナが首を傾げながら、青い瞳をこちらに向けてくる。白フードが現れて以降、特にシヴァと二人で絡むことが増えたため、セリナも気にしているようだ。
「いや、聞きそびれていた授業の内容を聞いててな」
そう言うと、「ふーん」と言いながらセリナは納得を示した。
「わたしたち、もう帰ろうと思ってるんだけど……アムル、今日は≪転移≫で帰ったほうがいいんじゃない?」
セリナが提案する。
俺は教室を出て、廊下を窓を見下ろした。正門前には、国民たちが今もなお、押し掛けてきている。これではまともに外に出ることもできないだろう。
「そうだな。そうするとしよう。ついでといってはなんだが、それぞれお前たちの家に送っていこう。こんなに人がいては、お前たちだって帰るのは一苦労だからな」
俺は一つ星の生徒にも、それぞれ声をかける。みんな丁度帰ろうとしていたところだった。
俺は≪転移≫の魔法陣を、足元に出現させる。
「自分の家を思い浮かべてくれ。そのイメージを辿って、一人ずつ送っていく」
「俺は≪飛翔≫でそのまま帰れるから大丈夫だよ」
シヴァはひらひらと手を振って、そう言った。
「そうか。また明日な」
「うん。じゃあね」
シヴァは教室のドアを開き、誰もいない廊下をコツコツと歩いていった。
「よし。それじゃあまずはーー」
そうして一つ星のみんなを順番に送っていく。
そして残るはセリナだけとなった。
「待たせたな」
「ううん。大丈夫」
気にしていないと、セリナは柔らかな表情で応える。≪転移≫の魔法陣を展開し、セリナはその魔法陣の中に入ると、セリナのアパートのイメージが俺の頭に流れてきた。
≪転移≫の魔法が起動して、光が俺たちを包んだ。
意識が肉体に追いつき目を開けると、セリナのアパートの目の前に立っていた。幸い、周辺に人は見受けられなかった。
「相変わらずすごい魔法ね」
セリナが感心したように呟いた。そういえば今度教えると言いながら、結局教えられてなかったな。
「この騒ぎが落ち着いたら、今度こそ教えてやる」
「うん。それじゃあ、また明日ね」
セリナは静かに頷き、自分のアパートへと帰っていく。自身の部屋のドアに手をかけようとした瞬間、こちらをチラッと見て、
「背負いすぎちゃダメなんだからね。分かった?」
セリナは確認をとるように、言った。
「あぁ、分かってるよ」
俺も微笑みを浮かべながら、言葉を返した。セリナは安心したような表情を浮かべて、セリナはドアを開き部屋へと入っていった。
それを確認して、俺も≪転移≫で家へと帰った。
「おかえり!」
ドアを開くと同時に、お母さんの声が響いた。
魔力を感じとる力は持っていないはずなんだが、子供が帰ってくるのを感覚で感じ取れるというのが母親というものなのだろうか。
「ただいま」
「怪我はしていない!?テレビで今日フェルメイトに、魔族が来たっていうからお母さん心配で……」
「問題ないよ。ご飯まで課題でも済ませてくる」
「うん。できたら呼びにいくね」
俺は頷き、二階へと上がっていく。
自室のドアを開き、ベットで横になる。
白フードが魔王十傑雄を使ってきたというのは想定内。だが何故だろう。
それ以上の手札を隠し持っているような、確信もないそんな考えが頭の中をよぎった。
剣聖だけが感じた予感ーー




