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焦りと不安をかき消す声

 魔法学院にたどり着くと、魔導師たちの教員が押し寄せてくる国民の対応に当たっていた。


「聞いたぞ!魔族が攻め込んできたんだろ!」


「早く中に入れてよ!こっちには小さな子供がいるのよ!」


 フェルメイト宮殿に向かう前に、魔導師隊にレーベックたちは去ったと伝えたのだが、情報が行き届いていないようだ。彼らからは焦り、不安、恐怖、などと負の感情が溢れ出している。  

 俺は溢れんばかりの魔力を発した。全員の視線が俺に集中する。

 

 俺は言葉に魔力を乗せて、言った。


「聞こえるか。フェルメイトの国民よ」


 魔法学院に集まる国民、魔導師、教員までもが耳を傾けた。


「迫り来る闇は打ち払った。ここに魔族はいない。皆の安全は保証された。だからもうそんな不安に押しつぶされそうな表情をするんじゃない」


「ほ、ほんとうか!?」


 男性が食い気味に確認を行う。


「あぁ」


 国民は感情を爆発させるように喜びを見せたーーかと思いきや、ホッと胸を下ろすように安堵する様子を見せた。そして次々と、魔法学院の正門から去っていく。残ったのは対応に当たっていた魔導師と教員たちのみとなった。その中には、リエルの姿も見えた。


「おい、一つ星」


 一人の男性教員が、低い声で言った。

 一つ星、俺のことだろうな。


「ほんとうにいないんだろうな?そもそもお前はなぜ外をほっつき歩いているのだ。授業中だろう。リエル先生、どうなっているのだ君のクラスは」


「す、すみません……」


 リエルが申し訳なさそうに、頭を軽く下げて謝罪した。


「その魔族を追い払いにな」


「は……?ふん。嘘を並べるのもいい加減に……」


 一瞬、驚いた様子を見せたが、すぐさま呆れたようにその教員はため息を漏らす。他の教員も似たような反応を示していた。


「いえ、彼の言う通りです」


 声が聞こえる方向へと振り向くと、一人の魔導師が立っていた。魔王十傑雄と対峙したときに、俺に声をかけた魔導師だ。

 

「彼は恐怖で動けなかった私たちに指示を出し、そして四人の魔族にたった一人で立ち向かい、そして迫り来る脅威を払ってくれたのです」


 近くにいた魔導師たちも、うんうんと頷き肯定する。魔導師の言葉に、教員たちは絶句していた。それでも決して、信じることはないだろうがな。リエルも似たような反応だったが、どこか納得しているようにも見えた。


「この魔法陣は残しておくぞ」


 地面に描かれている魔法陣は、異空間へと繋がっている。今回は使う機会がなかったのだが、このようなことが起きる毎に魔法陣を描くのは正直面倒だ。


「おい。アムル・シルフィルク」


 さっきの教員が俺に声をかける。


「なんだ。俺の名を知っているのか」


「魔法祭であれだけのことをやってのけたのだから、嫌でも覚える。間近にいた魔導師たちがああ言っているのだ。信用するしかない。が、感謝の言葉は言わんぞ」


 教員は吐き捨てるようにそう言った。

 二つ星としてのプライドというものだろう。


「あぁ、分かっているさ」


 俺は魔法学院の正門を潜り、校舎へと向かった。後からリエルが足早に追ってくる。


「まぁ、そういうことだ。迷惑をかけてすまないな」


「……叱れば良いのか褒めれば良いのか分からないのですが……」


「褒める?先生は魔導師たちが言っていたことを信じるのか?」


「最初こそ驚きはしましたけど、アムルくんだったらそれぐらいのことは平気でやってのけるでしょう」


 そう言って、リエルは柔らかな笑みを浮かべる。彼女は俺の戦いぶりを何度も間近で見ている。つまり、信頼してくれているのだろう。「そう言えば……」とリエルが呟いた。


「アムルくんがみんなに声をかけたとき、みんな不思議と落ち着いていましたよね。わたし自身、もっと喜ぶものなのかと思っていたのでしたが……」


「俺が言葉に魔力を込めていたのは分かったか?」


 リエルは首を縦に振った。


「あの場に集まっていた国民たちは、負の感情で溢れていて興奮状態にあった。先生も見ていたのなら分かるだろう」


 助かりたい、死にたくないという負の感情は視野を狭くする。下手をすれば取っ組み合いに発展していたかもしれない。そんなくだらないことで怪我人を出すわけにもいかないからな。しかしただ語りかけるだけでは、彼らは聞く耳を持ってくれなかっただろう。


「だから一度、彼らの意識をこちらに向けさせ、落ち着きを与える魔力の波長に合わせた声音で話した」


 良くも悪くも、あの場での興奮状態は避けたかった。とにかく落ち着きを取り戻させる必要があったのだ。


「まさか……そこまで考えて……?」


「そこまで考えなければ、戦場では一瞬でやられてしまうからな」


 俺は学院の方へと目を向ける。

 外には出られないように、魔法がかけられていた。生徒たちは教室を出て、廊下の窓を覗き込むように見ていた。


「さて、ひと段落ついたことだし授業に戻るとするか」


 まだ驚きを隠せていないリエルに笑みを見せつつ、俺は校舎へと入っていった。

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