アムルVS魔界十傑雄 ベイグズ、ラウラ編
魔王十傑雄である四人は、不可解な面持ちを浮かべてこちらを見つめていた。
「はて。まるで僕たちのことをあたかも知っているような口ぶりですが、貴方のような人間とお会いした覚えはないのです」
呆れたような目をこちらに向け、小柄の魔族はそう吐き捨て捨てるかのように言った。
「そうか。俺はよく覚えているんだがな」
少女は細めで俺をじっと見つめる。
「きみ、見たところ学生さんなのにゃ。こんなところあぶにゃいから早く何処かに行ったほうがいいのにゃ。そうは言っても、もう遅いけどにゃ」
「カリュエヴァマの魔法結界も突破したことだし、とっとと片付けちまおうぜェ。そんであわよくば、『剣聖』ってのをお目にかかりてぇもんだァ」
ズン!ズン!っと足音を立てて、歩を進める。その一歩一歩に大地は震え、地震が起きていると思わせるほどの地響きが起きていた。
大柄の魔族は俺の目の前で止まると、肉食動物が獲物を威嚇するような目つきで、こちらを見下ろした。
「退けェ。あいつも言ったが、ガキが来るとこじゃねぇよォ」
大柄の魔族が、顎で少女の方を指す。だが俺も一歩も引かず、目の前の男を見上げて一言。
「だったら退かせてみろよ」
「じゃあ、死ねェ」
短い言葉と共に、魔族は鍛え上げられた右腕を俺の顔面に向けて放つ。俺は左手で真正面からそれを受け止めた。奴の表情からは、今にもありえないと言いたげな表情を浮かべていた。
「そう驚くほどでもないだろう。魔王十傑雄第八位、ベイグズ・アンドラー」
「なァッ!!なんでェ、俺の名を知ってやがるゥッ!!」
掴まれていた右拳を強引に振り解き、大柄の魔族ーーベイグズは、目にも止まらぬほどの両手の剛拳を放った。一撃一撃が重く、まるで弾丸を思わせるほどの攻撃だが、俺は全てを躱し、捌いていく。
「チィッ!!」
ベイグズは舌打ちをしながら、あからさまに嫌そうな顔を滲ませながら、見た目とは想像もつかないほど機敏な動きを見せて、俺と距離を取る。
「学生一人に何を手こずっている。脳筋が」
「うるせェ!そんなことよりあいつゥ、俺の名を知ってやがったァ!」
ベイグズはギロッと睨みつけるがそんな視線を気にすることなく、俺は制服についた砂埃をポンポンと払い落とす。黒髪短髪の魔族は、据わった目で俺に向けて、
「ほう。なら俺の名も知っているのか?人間」
「ああ、魔王十傑雄第二位。レーベック・ニンシュ。そしてそこにいるもう二人は第四位、アイン・チェルム。第十位、ラウラ・ソイーラ」
黒髪の魔族ーーレーベック・ニンシュは表情を変える様子もない。緑髪の少年ーーアインは、目を軽く見開いたようにこちらを見て、少女ーーラウラは、感心しているのか手を叩いていた。
「すごいにゃ!よく勉強しているのにゃ!最近の人間って、私たちのことも勉強しているのかにゃ?」
「さぁな。俺もまだ魔法学院の一年生だから、どこまで教えているのかは知らん」
おそらく授業ではやっていないだろう。以前、図書室に足を運んだが、魔界に関する書物はほとんど存在しなかった。おそらく、その話題にすら触れたくないんだろう。授業で最低限のことは教えることにはなっているのだろうがな。
俺はレーベックたちの瞳を凝視した。彼らの瞳には、ベイラムと同じ複雑な魔法陣が描かれていた。ということは、こいつらも白フードに操られているということだ。
魔界十傑雄の奴らは、決して弱くはなかった。にもかかわらず操られているということは、白フードは気を抜いていたところを襲ったか、それとも相当の術師なのか。
すると、崩れた城壁の隙間を抜けてきたのか、魔導師たちが次々とこの場に現れた。
「……って、なんでこの場に魔法学院の生徒が!!危ないから、早く下がりなさい!」
一人の魔導師が、無防備にこちらに近づいてきた。当然、それを見逃す魔王十傑雄ではない。
「いいぜェ……獲物も増えてきたことだしィ、まずはテメェをぶっ殺してやるよおォッッ!!」
ベイグズは一人の魔導師に狙いを定める。俺に近づいてきた魔導師だ。自分が狙われたことに気がついたのか、「ヒイッ!」と情けない声をあげた。
ベイグズは、全魔力を右腕に集約する。
奴は見ての通り、考えもなしに己の魔力と肉体のみを信じて突っ込んでくる脳筋だ。だからこそシンプル。魔力はどんどん膨れ上がっていき、尚も増幅している。
先程の乱撃が機関銃と例えるならば、今目の前にあるその右腕は、まさしく大砲。一撃で滅ぼさんと、獲物を見つけた獣のような目で、右腕を振るった。
後ろにいる魔導師たちは、攻撃に備えるべく魔法障壁を展開しているが、おそらく衝撃に耐えきれず吹き飛ばされる。俺の近くにまで寄ってきた魔導師に至っては、恐怖で思考がままならないのか震えて動けていない。
「≪剛壊≫ッ!!」
大砲は放たれた。荒々しい声と共に。魔導師たちはグッと足に力を込めて、歯を食いしばりその攻撃を耐えんとしていた。
ベイグズとの距離を離すために、俺は近くにいた魔導師の身体をドン!っと少し強めに押した。
それと同時に、魔導師たちとフェルメイトに分厚い魔法障壁を展開する。これで彼らに被害が及ぶことはないだろう。俺は力感のない自然体の構えをとる。
「はァッ!俺様の≪剛壊≫!防げるものなら、防いでみやがれ!」
ベイグズから放たれる剛拳に対して、俺も右腕を繰り出した。力と力の真っ向勝負だ。互いの拳が衝突し合い、そこを中心として衝撃波が発生した。
「ぐがあァッ!」
ベイグズの右拳が嫌な音を立てる。負荷に耐えきれなくなってか、右腕の至る所から出血し始める。俺は右腕の力を強め、トドメをさす。
「ぐ……ハアアァァァァッッッッ!!!!」
巨体がまるで風船のように、衝撃波に呑まれた。地面を這うように転がり、レーベックたちの元まで吹き飛ばされる。
「彼、今魔力を一切使っていませんでしたね」
アインは地面に横たわるベイグズを見下ろしながら呟く。
「なァ……あんの身体にどこからあんな力がァ……」
苦痛に顔を歪めながら、もはや使い物にならなくなった右腕を抑えてベイグズは言葉を発する。
「先程の反射神経と俊敏性、そして脳筋を吹っ飛ばすほどの腕力。貴様は人間の中では、身体能力が特にずば抜けているようだな。ベイグズは魔王十傑雄の中では、身体能力だけは高い。それだけが取り柄の脳筋を、魔力なしで吹っ飛ばしたのだからな」
「おい……さりげなくディスってんじゃねぇよォ」
そんなベイグズの言葉を耳を貸す様子を見せることなく、レーベックは淡々と話す。
すると、ラウラはトコトコと小さな足音を鳴らしながら、前に出る。ペロって自分の唇を舐めながら、ニヤッと笑みを見せる。
「いいにゃー。きみとなら楽しく遊べそうにゃー」
そう言って地面を蹴ってこちらとの距離を一気に詰めた。魔力によるものなのか、ラウラの両腕の爪が伸び桃色へと変化。爪先は引っ掻かれるとその傷は一生残らないだろうと思わせるほどの、鋭利なものだった。
「にゃ!にゃ!にゃにゃにゃにゃ!」
そんな可愛らしさを覚えるような声とは裏腹に、鋭利な爪を立てる。俺に攻撃に転じる隙すら与えないつもりなのか、ラウラはただ攻め続けていた。
俺は躱しつつ、ラウラが攻撃の手を止めることができないタイミングを見計らい近くにあった瓦礫を蹴り飛ばす。避けることなど不可能。仮に爪で瓦礫を切り刻もうと、俺に一瞬の猶予を与えることなるがーー
「にゃは」
躱したのだ。強引に身体を捻り、その遠心力を利用してさらに俺に攻撃を仕掛けてくる。人間はもちろん、魔族ですら彼女のような動きをすることはできない。骨格の可動域の限界を超えている。
ラウラの一つ一つの動きは柔らかく、そしてしなやかで軟体動物かと思わせるほどだ。硬く、重いベイグズとは対極に位置する動きだろう。
振り下ろされる彼女の腕を、俺はスッと身を引く。ラウラの一撃に、地面が揺れた。
「すごいにゃ。ここまでやれる人間がいるにゃんて」
突き刺さった爪を引き抜き、それを研ぐように片方の爪と擦り合わせる。そして、こちらを見て余裕な笑みを見せて、俺との接近戦を再開させる。
ラウラの繰り出す攻撃を受け流し、俺は回し蹴りを繰り出す。捉えたーーと思った寸前に、彼女は身体を限界まで反らして、それを避けた。信じられないほどの柔軟性だな。凄まじい風圧が、後ろに立つアインとレーベックの身体を揺らす。
ラウラは休むことなく、右の爪で俺の首を掻き落としにかかる。首に届く前に、俺はラウラの右手首を強く掴んだ。苦悶の表情を歪めているが、俺は構うことなく背負い投げる。
「ガハッ!」
肺が圧迫されて、息ができなくなったラウラ。必死に酸素を取り込もうと息を吸い込み、膝に手をつきながら立ち上がろうとする。
「終わりだ」
ラウラの鳩尾に強烈な一閃を放つ。
少女はベイグズと同じように吹っ飛び、気を失った。




