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崩壊した魔法結界

※76話ですが、少し文章が書き足されております。

77話を閲覧される前に、76話を読んでいただければ嬉しいです。

 授業が終わり、休み時間。

 鉄柵に寄りかかって俺は一人、屋上へと向かい外を景色を遠目に見ていた。昨日ほどではないが、空気がピリピリとしていて一緒にいるだけで気怠げな気分になりかねなかったので、気分転換。というのは半分。もう半分は、なんとなくこの景色を目に焼き付けたいとそう思ったからだ。


 雲一つない澄んだ青空が広がっており、日向ぼっこにはもってこいの天気だ。その天気に当てられてか、フェルメイトは今日も活気に溢れていた。


 前世の俺が、こうして物思いにふけっている今の俺の姿を見たら、呆れたようなそれとも小馬鹿にするような失笑を浮かべるだろう。おそらく、俺もそうするだろう。


 ずっと考えていたのだ。人界と魔界の戦争を終わらせることができるのかと。≪記憶改竄(ギル・ゼセル)≫という大魔法を白フードはなんらかの方法で解いた。仮に白フードを殺し、再び≪記憶改竄(ギル・ゼセル)≫を行使したところで、白フードのような奴が現れてもおかしくない。誰かがまた難癖をつけて、今のような状態に元通りになる可能性だってあり得るのだ。


 だから、より確実に、誰も傷つけないあのやり方であればーー

 

 ふぅっと俺は息を漏らして、思い浮かべていた案を頭の中からかき消した。


 ガチャっと扉の開く音がする。振り返ると、そこにはセリナがいた。俺と目があると、一瞬驚いたような表情を浮かべたが、それはすぐに柔らかな笑みへと変換された。


「この屋上。結構気に入っているのよね。日当たりはいいし、風は気持ちいいし、あまり人もいないし」


 青色の綺麗な瞳で隣いい?と訴えかけてくる。

 俺も目で肯定する。靡く髪に手で軽く抑えながら、セリナは隣で気持ちそさそうに風を浴びていた。


「セリナ。魔族は憎いか?」


 魔界で老人に問うた質問をセリナにもぶつけた。


「授業での話だけ聴いていたら彼らはものすごい悪党だし、実際に魔竜を解き放ってフェルメイトをめちゃくちゃにしようとした。憎しみの一つや二つ、誰でも持つと思う」


 セリナの言っていることは正しい。自分の日常を壊そうとしてくる敵を憎いと思わないわけがないのだ。「でもね」とセリナは言葉を続ける。


「私は頭ごなしに憎いとは言えない。理由もなしに人界を滅ぼそうなんてするわけがない。人間も魔族も行動するのには理由があって、その理由となった魂胆がある。それを原動力にして動いている。今の魔王だって、きっとそうなんでしょ」


 セリナは空を見上げて、言った。

 白フードは俺を殺したいと思っている。なぜ奴が俺を殺したいと思っているのか。ただ憎いからというのもあるかもしれないが、それであそこまでの執着はしないはず。もっと深い闇のような魂胆が、白フードにはあるのかもしれない。


「そもそも、私たち普通の学生がそこまで考えることじゃないでしょ。そういうのは、国王とか魔導師団の人たちに任せればいいの。魔法学院にいるうちは、伸び伸びと楽しまないと」


 セリナが呆れたかのように言い、大きく伸びをすると満面の笑みをこちらに向けて言った。


「ていうか、もう次の授業が始まっちゃう!早く戻ろう!」


 そう言って、セリナは先に屋上を後にする。

 まったく、セリナには敵わんな。そう思い俺も扉に手をかけようとした。

 

 瞬間ーー

 ズンと重苦しい空気が流れ込んだ。国境であるカンビレア山の方角からだ。四つの強大な魔力が感じ取れる。その魔力に俺は覚えがある。


「悪いな」


 先に教室へと戻ったセリナに、聞こえるはずのない謝罪の弁を残し、俺は≪飛翔(フレノア)≫でその魔力の方角へと向かった。


* * * * * * * * * * * * * * * * * *


 魔城ゼルレタから≪飛翔(フレノア)≫で、四人の魔族は人界へと向かっていた。彼らは魔竜にも劣らぬ速さで魔界の空を翔けていき、あっという間に、カンビレア山を超えて人界の領域へと入っていく。


「『剣聖』……どこかで聴いたような響きですね。皆さんは覚えがありますか?」


 背丈はその四人の中では一番低い。紺のパンツとシャツに、彼のサイズには合っていない大きめのロングコートを羽織っている。深みのある緑の髪に顔立ちも少年のようなあどけなさが残っている。その見た目から想像もつかないほど丁寧な敬語で、少年は問いかける。


「んにゃ。あたしそんな人知らにゃーい」


 首を横に振ったのは、整った顔立ちの少女だ。白を基調としたドレスに青い袖。赤みがかった髪をツインテールを白色のリボンで結んでいる。おっとりとした瞳は髪と同じ赤色で、語尾に「にゃ」を付けて話すのが印象的な魔族だ。


「俺様は、強い奴なら大歓迎だぜェ」


 動きやすそうな簡素なパンツとシャツ。スキンヘッド。大柄で極限まで鍛え抜けれた筋肉は隆々で、今この瞬間もシャツがミチミチと悲鳴をあげている。その魔族はそう豪快に言い放った。


「我が魔王の命令を忘れたのか。フェルメイトを恐怖の渦に呑み込めとおっしゃっていたのであって≪剣聖≫という奴が標的ではない。目的を間違えるな」


 黒のスーツのような服装に赤色のネクタイ。

 シュッとした体型に短く整えられた黒髪は、爽やかな印象を与えて茶色がかった双眸を持った魔族は、大柄な男にそう強い言葉をかけた。


「フェルメイトをただ滅ぼすだけじゃ面白くねぇからよ。魔王をあそこまで言わせるんなら、楽しみだぜ」


 そんな注意に耳を貸す様子も見せず、大柄の魔族は得意げな笑みを見せた。黒髪の魔族は「この脳筋が」と吐き捨てるように言ってやれやれ、と頭を抱えるように首を横に振った。

 

 しばらくして、王都フェルメイトを囲む城壁が彼らの遠目に入った。シンベルファルスの城壁と違い、ただの石造りで魔法付与もされていない。

そんなもの、彼らからしてみればただの紙切れ同然だ。しかしその城壁の外側には、魔法結界が展開されていた。


「あの魔法結界、範囲が広くなればなるほど、その分魔力が消費されて効力が弱まる……でしたっけ?」


「えー。でもあたしこの魔法結界きらーいにゃ。嫌な匂いでぷんぷんするのにゃ」


 どうやら彼女は鼻がすごく利くらしく、スンスンと鼻を鳴らし、怪訝そうな表情を浮かべた。


「俺たちにとっての最大の敵ってわけだがァー。ところで魔王が渡したそれってなんなんだよォ」


 カリュエヴァマの魔力によって展開されている魔法結界は、魔界十傑雄と呼ばれている彼らとて簡単に突破できるものではない。大柄の魔族は、黒髪の魔族に尋ねた。彼は、スーツにしまっていた黒い球を取り出す。


「見たら分かるだろう。我が魔王の魔力を抽出し、凝縮したものだ」


「でもにゃ。それって魔王様の魔力波長とは異にゃっているのにゃ。そんなもの渡されたって、魔法結界をなんとかできるものなのかにゃ?」


「まぁ、見ていれば分かる」


 彼らは地上へと降りて、悠然とした足取りで魔法結界の前まで歩みを進める。彼らは辺りを見渡すが、魔法結界の前には警備を行なっている魔導師の姿は見受けられない。魔法結界の効力をそれほど信用しているということなのだろう。


 黒髪の魔族は、黒い球を魔法結界に向けて投げつける。互いが触れ合うと、グニャリと魔法結界の一部が歪みを見せた。黒髪の魔族はニヤリと微笑み、それを見た他の魔界十傑雄の面々は、驚きを隠せないでいた。


 あの黒い球の魔力は、≪終焉の魔眼≫の魔力を抽出したものだ。とはいえ、魔法結界の全てを崩壊させることは≪終焉の魔眼≫だろうと不可能。いくら崩壊させようとも、無限に溢れている神の魔力が循環している魔法結界は即座に修復してしまう。≪終焉の魔眼≫の魔力を凝縮させることで、その効果を増幅。さらに、崩壊させる箇所を限定させることで持続時間を伸ばすことが可能となった。

 

 範囲は狭いが、人が五、六人入れるスペースが生まれ、彼らは魔法結界を潜り、フェルメイトの前に聳え立つ城壁の前へと立つ。


「こんな薄っぺらい壁。わざわざ魔法を使うまでもねェっ!」


 大柄の魔族が力任せに右腕を振るった。城壁はガガガッ!嫌な音を立てて、決壊していく。


「けっ。やっぱ魔法結界がなけりゃこんなもんなよォ。一分ありゃ充分だぜェ」


 この音を聞けば人界の魔導師たちも、こちらに駆け寄ってくるだろう。例えどれだけの数が来ようとも、負ける気が彼らにはしなかった。

 砂埃と瓦礫が散乱し、目の前の景色が遮られている。彼らはそれを気にすることなく、目の前に転がる瓦礫を蹴り飛ばしながら進んでいく。


 舞う砂埃から、一人の影が見えた。


「ちぃっ。砂埃がウザったくて仕方ねェ!」


 大柄の魔族は再び、両腕を振り回すと、凄まじい風圧が発生した。


「にゃっ!スカートにゃんだからそういうのやめてほしいにゃ!」


 少女はスカートを押さえながら、大柄の魔族を睨みつけた。彼は対して悪びれる様子も見せず、少女は舌を出した。


 目の前にフェルメイトの美しい街並みが姿を見せる。そこに立っていたのはーー


「魔力反応で薄々気づいていたが、やはりお前らか」


 俺は目の前にいる魔族たちに向かってそう言い放った。

無事投稿できました。

実は私、昨日ワクチンの二回目を打ってただいま、38℃超えてしまっているんですよ。

今の分は気合いでなんとか仕上げたのですが、次回のやつは体調が復活してから書き始めたいと思います。(まぁ、頭の中では7割がたできているんですけどね)

気長に待っていただけたら幸いです。

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