魔界十傑雄出撃
シンベルファルスから戻ってきた俺たちは翌日、いつも通り魔法学院へと登校した。俺とシヴァが教室に入ると、セリナと一つ星の生徒に取り囲まれるようにして、捕まった。
「魔界はどんなところだった?」
「フェルメイトと対して変わらないぞ。強いて言うなら人口数だな。商店街を回ったんだが、フェルメイトとは比べ物にならないほどの魔族の多さだった」
「あー。できればもう行きたくはないよね」
昨日の光景を思い出して、にシヴァは肩を窄めた。セリナと一つ星の生徒も、「それほどのものなのか……」と身震いを見せた。
「それよりもあの黒い竜だよ!魔竜……だっけ?いきなり緊急連絡が流れてきたと思ったら、外には魔竜がたくさんこっちに向かってきて、≪吐息≫を放とうとしてるし……怖かったんだから!」
イジェルが興奮した様子で早口で話し始める。彼らにとって魔竜という生き物は初めて見るものだろう。そんな生き物がいきなり現れて、しかもこちらに攻撃を仕掛けようとしていたのだから、そういうのも無理はない。
「みんな、怪我はなかったよな?」
≪白銀流星群≫で魔竜は、跡形もなく消滅させた。ないとは思うが、一応確認だけとっておく。
「私たちは大丈夫。あの魔法のおかげでね。国王は我らの魔法とか言っていたけど、アムルくんの魔法なんでしょ?あんな規格外な魔法使えるのって、アムルくんしかいないでしょ」
「まぁな。とにかく怪我がなかったのなら、良かったよ」
俺は肩をスッと下ろして安堵する。だが、魔竜が人界に現れたということは、魔界が本格的に動いてきたという証明にもなる。今回は、≪白銀流星群≫を事前に展開しておいたから良かったものの、毎度そういうわけにもいくまい。最低限、彼らには自衛の術を身につけてもらわなければいけなくなった。
この戦争は、はっきり言って白フードのエゴだ。しかし奴が俺を恨んでいる以上、俺に責任がないとはいえない。だから俺は奴を止めなければいけない。
だが、セリナたちは全く関係のない話である。魔界で暮らすミレたちもだ。できれば彼らは巻き込みたくはない。その想いだけは、揺らいだことはない。
ーーそれでも最悪の場合、彼らにも戦地に赴いてもらう可能性がある。三百年前とはわけが違うのだ。俺一人でも白フードを押さえ込むことはできる。その間、誰が人界を守るのか。奴を止める以上、カリュエヴェマはどうしても必要になる。
さてさて、一体どうしたものか。
頬杖を突きながら、思考を巡らせているとセリナが覗き込むようにして、こちらを覗いていた。心配そうな表情を浮かべて。
「アムル。また何か考えているでしょう」
ハァッと呆れたようにため息を吐くと、腰に手を当てながらも柔和な笑みを浮かべて、
「私もみんなも、アムルのことを信頼しているわ。何も一人で抱えないでアムルも少しは私たちのこと信頼しなさいよ」
その言葉を聞いて、ほんの少し心の荷が降りたような気がした。俺も思わず笑みが溢れる。
「あぁ、その時が来たら存分に頼らせてもらうとしよう」
などと話していると、予鈴のチャイムが鳴り響いた。生徒たちは続々と自分の席へと向かい、椅子に腰を下ろしていく。ガラガラっとリエルが笑顔で教室に入ってきた。
「おはようございます。今日も昨日に引き続き、魔族に関する授業を行います。まず最初にーー」
いつも通りの一日が、また始まった。
魔界シンベルファルス。
魔城ゼルレタの王座の間、魔王だけが座ることを許されている玉座に、白フードは足を組みながら赤紫色の液体が入っているグラスを片手に、座っていた。
フードで素顔は見えないが、グラスを回しながらその液体を流し込む。魔竜による奇襲攻撃は、あえなく失敗した。にもかかわらず、白フードに焦りの様子はおろか、むしろ今の状況を楽しんでいる様子にもみて取れた。
「あれ如きでやられちゃ、私の復讐の意味がなくなっちゃうからね。あの子たちも報われないよ」
コンコンとノックの音が聞こえる。
「入れ」
白フードは低い声でそう言った。ガガガッと扉の開く音がしたのち、四人の姿があった。彼らは悠然とした足取りで白フードの座る玉座の前まで歩くと、膝をついて頭を垂れる。
四人の魔力は、刺すような威圧感を放っていた。彼らの魔力に触れようものなら、その圧力に屈してしまうだろう。
「面を上げよ」
白フードにそう言われ、四人はゆっくりと頭を上げた。白フードが頬杖を突きながら、空になったグラスを異空間へとしまう。
「お前たちに、ある任務を任せたくてな。頼まれてくれるか?」
「「「「仰せのままに」」」」
四人は、声を揃えて再び頭を垂れた。白フードはくくくっと笑みを思わず漏らしてしまう。
「お前たちには人界のフェルメイトに出向いてもらう。そこで盛大に暴れてくれ」
そこで一人の細身の魔族が頭を上げて、白フードに問う。
「我が魔王よ。それだけでよろしいのですか?」
「あぁ、フェルメイトを恐怖の渦に呑み込んでやってくれ」
「へっ。そりゃ俺様の得意分野ですぜェ。わざわざこいつらなんかいなくても、俺一人で十分だと思うがなァ」
大柄な魔族が、得意げに白フードに言い切った。他の三人がジトッとした視線を送るが、大柄の魔族は対して気にした様子もなく、鼻を鳴らした。
「そうもいかなくてな。人界に厄介な存在が現れてな。魔竜二十頭も、そいつ一人の魔法で全滅させられた」
白フードの発言に、彼らは目を大きく見開いた。我が魔王にここまで言わせるほどの人間がいるのかと、そう思わずにはいられなかった。
「だからお前たちを人界に向かわせるのだ。お前たちならば、その人間がいようとも人界を壊滅させるくらい余裕だろう?」
「造作もありません」
「ならばすぐに向かえ。奴らは魔竜を退かせて、気を緩めていたからな」
「魔王様。仮にそいつが俺の前に現れたら……ぶっ殺しても構わねぇよな?」
大柄な男が指をボキボキと太いを音を鳴らしながら尋ねる。
「できるのならな」
白フードはクスッと再び笑みを見せる。
「では、行って参ります」
「あぁ、最後に一つ……」
白フードの声に、部屋を出ようとした四人がクルッと振り返る。
「『剣聖』ーーその人間の二つ名だ。覚えておくといい。あと、これを持っていけ。こいつの使い道は、見ればわかるだろう」
そう言って白フードは何かを投げる。一人の魔族は、それをガッチリと掴んだ。それは魔力が凝縮されている黒い球だ。
「よし、行け」
「「「「はっ」」」」
そう言って、彼らは王座の間を後にする。この場には、白フードだけがいた。彼は立ち上がり、窓から見える景色を眺める。シンベルファルスは今日も賑わいを見せていた。
「『剣聖』よ。たった一人で、魔王十傑雄の四人を退かせることができるかな?」
シンベルファルスに広がる青空とは対照的に、白フードは邪悪ともいえる笑みを浮かべていた。
次の投稿は月曜日になると思います!
土日の間に出せたら出します!




