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切られた火蓋

「まっ……魔王様……っ!?」


「普段は滅多に姿をお見せにならないのに……っ!!」


 魔法ではあるが、現魔王ーー白フードの登場に魔界は騒然としていた。魔界に住む魔族全員の意識が、光の粒子の集合体として現れた白フードに向けられた。


「ーー我は思う……」


 白フードの第一声は、短い言葉からの始まりだったが、そこには強い執念のようなものを感じた。


「なぜ、人間と魔族は分かり合うことができないのだろうと。いや。分かり合えていたのに、なぜ分かり合えなくなっていってしまったのだろう」


 白フードは両手を大きく広げて魔族、魔界という世界そのものに問いかける。魔族たちは戸惑った様子を見せていた。


「人間には『魔法』は扱えないが、知能と知識がある。魔族には知能はないが、魔法が扱える。両者は互いにそれを教え合い、吸収し、失敗をしては挑戦し、その繰り返し。そして今の人界と魔界がある。シンベルファルスを囲んでいるこの城壁も、人間の知恵によって生み出されたものだ。やがて互いの文明は栄え、好循環を生み出した。互いの力は互いを支えるための力なのだと……どちらも欠けてはいけない存在なのだと、そう思い我は生きていた。やがて、我らは同盟を結んだのだ。これまでも、そしてこの先の未来も共に生きていくこうという、血よりも濃い硬い絆を同盟を結んだのだ」


 白フードは優しく語りかける。魔族も食い入るように、目を離さぬように、その演説を瞳に焼き付けようとしていた。


 白フードは大きく息を吸った。


「だが、彼らは禁忌を犯した。『魔法』という得体を知れない我らを脅威と感じたのだろう。そこで起きた出来事は……もう皆も知っていることだ」


 魔族の男性が、人間である女性の両親に拷問を受けて自殺した。という魔界に伝えられた話だ。白フードの作り話だろうが、奴はあたかも本当の出来事だったかのように、熱弁する。


「あいつらは俺たちと分かり合うつもりなどこれっぽっちもなかったのだろう。我は、それが悔しくてならない。皆はどうだ?悔しいか?」


 そう言って右手をギュッと握りしめる。演説を家の窓を開けて聴いていた、褐色肌ので短髪の一人の魔族が「悔しい!悔しいさ!」と叫ぶ声が聞こえる。

 その一つの小さな火種は、瞬く間に大きく広がっていき、


「そうだそうだーーっ!!」


「人間を許すなーーっ!!」


「一人残らず滅ぼし尽くせーーっ!!」


 と、声が飛び交った。白フードの姿は、シンベルファルス全体に映っているはず。少し日が沈み始めた頃、まだ人気を感じない住宅エリアでこれだけの騒ぎになっているのだから、商店街エリアはこれ以上の混沌とした状況へとなっているだろう。


「ありがとう。皆の声は確かに受け取った。住宅エリアにいる、そこの君。我の問いかけに最初に答えてくれたことを、感謝する」


 あれは決して声援などではない。ただの罵倒だ。それでも白フードは手を軽くあげて、魔族たちの言葉に応える。どうやら、こちら側の声も聴こえているらしい。


「この二百七十年。我ら魔界軍は、力を蓄え続けてきた。今こそその力を使うときである。皆もそうは思わないか?」


「うおおおおぉぉぉぉっっっっ!!!!」


 割れんばかりの歓声が魔界を包む。


「決起のときはきた。我らは人界を攻め落とし、人間を一人残らず殲滅する。そして共に作ろう。魔族だけが生き、魔族がだけが幸せな、魔族だけの世界を!!」


 白フードはそう言うと、先ほど以上の地響きすら起こしそうなほどの大歓声が起きた。


 白フードがスッと手を上げると、魔城ゼルレタの上空から黒い何かが姿を現した。魔竜だ。凄まじい咆哮を轟かせ、空中を旋回している。


「人界に軽くご挨拶でもするとしよう。宣戦布告というやつさ。まず手始めに、我らが誇る魔竜を二十頭、人界へと解き放ち人界の中心であるフェルメイトを陥落する」


 魔族たちがざわざわと話し始める。当然、話している内容は一つだろう。


「解き放つって言ってもよ。人界には、魔法結界があるんだろう?俺たちの祖先はずっと、その結界が破れなかったそうじゃないか」


 カリュエヴァマによる魔法結界。あらゆる魔の力を封殺し、何人たりとも通すことのないまさに人界の守護者でもある。


「安心したまえ、我が同胞よ。現在魔法結界は、人界のフェルメイト魔法学院のみに展開されている。それを王都全域に展開させるのは、多少の時間を要する。仮にそれが間に合おうとも、二十頭の内の十頭の魔竜が放つ≪吐息(ブレス)≫には少々細工を施した。魔法結界の効力を無効化させる≪吐息(ブレス)≫だ。魔法結界を失ったフェルメイトに、それ以上の防御魔法は存在しない」


 と、魔族たちの不安を取り除くべく白フードは力のこもった声で言った。


「王都を火の海へと変えてしまえ」


 上げた右手を前に出すと、空を舞う二十頭の魔竜はフェルメイトに向けて、飛んでいった。≪召喚(ルフィミス)≫で呼び出した魔竜とは、比べ物にならない速度だ。


「セリナ。聴こえるか?」

 

「アムル!聴こえる!?」


 ≪魔力経由通信(ロズア)≫で、同時に声が響く。セリナの声には、焦りのような苛立ちのようなものが感じ取れた。セリナがいるのは商店街だ。人が溢れかえっており、セリナは華奢な身体でスルスルっと抜けていく。


「たった今、見たこともない黒い竜がカンビレア山を超えて人界に侵入して、王都に向けて一直線に向かってきているって、フェルメイトの魔導士団からの緊急連絡が入ったの!!何か知ってる!?」


「魔王が魔竜を放って、フェルメイトを火の海へと変貌させるらしい」


「そんな……早く戻ってきて!!」


「いや、おそらくそれは無理だろうな」


 白フードはさっき、褐色肌の魔族を褒め称えていた。おそらく白フードには、誰がどこにいるのか分かっているのだろう。今このタイミングで≪転移(ゲイラス)≫で移動をしてしまえば、、白フードは間違いなく気づくはずだーー


 人界ーー

 王都フェルメイト宮殿。

 豪奢な椅子に腰をかけ、苛立った様子を見せている人物がいた。上下白の衣服を見に纏い、手や足首には豪華な装飾が付けられている。顎からは長い髭を生やし、気を紛らわすかのようにそれを触り続けていた。


 オーシス・フェルメイト

 王都フェルメイト九代目国王として君臨する男の額からは汗が滲み出ていた。


「ええい!早く結界魔法をフェルメイト全域に展開せんか!」


 と、魔竜が侵入してきたと報告に来た魔導師の一人に、罵声を浴びせる。魔導師は身体をビクッとさせながらも、俯かせていた顔を上げて言った。

 

 フェルメイト魔導師団にも、役割が存在する。

 最前線で戦う戦闘魔導師隊。傷を負った魔導師や国民を治す医療魔導師隊。戦争の状況を偵察し、魔法で報告する偵察魔導師隊など様々だ。

 オーシスに報告した魔導師は、偵察魔導師隊が伝えた情報を国王へと報告し次の手を考える、参謀魔導師隊にあたる魔導師だ。まさに中枢機関ともいえよう。彼らも偵察魔導師隊を通して、戦況をほぼリアルタイムで確認している。現場にしか分からない緊張感も確かに存在するのだ。

 参謀魔導師隊と呼ばれる彼らは、フェルメイト宮殿にある、必要最低限のものしか置かれていない部屋で、その状況を把握している。


「す、すでにやっております!もうじき、王都全域に魔法結界が展開されると思われます!」


「グズグズするな!急げ!」


「は、はい!」


 罵詈雑言を飛ばすと、魔導師は急いで部屋を出て行った。徐々に襲いかかってくる苛立ちと不安に、身体を震わせていたーー


「アムル」


 シヴァが俺の近くまで歩み寄り、耳打ちをするかのように小声で言う。


「ここは多少をリスクを犯してでも、人界に戻ったほうがいいと思う。このままじゃーー」


 三百年前と同じ悲劇になる。と言いたいのだろう。


「シヴァ」


 俺は彼の方を向いた。


「俺が何も手を打たず、魔界を訪れるわけがないだろう」


 人界の最後の砦とも言うべき魔法結界が、フェルメイト全域を覆っていく。既に事態を把握しているであろう、国民からは悲鳴が、怒声が飛び交っていた。


「なんだよ!戦争は冷戦状態じゃなかったのかよ!」


「いや!まだ死にたくない!死にたくないよー!!」


 王都は混乱の渦に陥っていた。そして、数十秒も経たないうちに、魔竜二十頭が王都フェルメイトに辿り着いた。


「さぁ、戦争の幕開けだ」


 白フードがそう言うと、魔竜が大きな口を開ける。魔力を溜め、それはやがて黒い光へと変換される。


「ん?なんだあれは?」


 白フードから戸惑いのような声が漏れる。魔王の予想外の反応に、魔族たちも「どうした?」と言った声が上がっていた。白フードは魔竜の視界を通して、人界の様子も見ているのだろう。だったら見えているはずだ。


「人界は、フェルメイトは陥落などせんぞ」


 魔法結界の前に、一つの巨大な魔法陣が浮かび上がっていた。≪隠蔽(ルミオス)≫で魔法陣も魔力も消していたのだ。


「報告!たった今、謎の魔法陣が出現!魔力が急激に高まっております!」


 魔導師が慌てた様子で、オーシスがいる王室へと足を運び、報告した。


「何!?それは魔界の奴らのものなのか!?」


「い、いえ!?そこまでは……」


 状況の理解が追いつかず、オーシスもその魔導師も困惑していた。上空にて展開されている魔法陣を見て、国民たちもオーシスたちと同じような反応をしているだろう。「魔界の攻撃なのか」と。

 

「アムル。これって……」


 ≪魔力経由通信(ロズア)≫で、話しかけてきた。セリナだけではなく、魔法学院の一年生ならば何度か見せている魔法陣だ。


「≪白銀流星群(マギアド・ゲイナー)≫」


 魔法陣が白き輝きを放つと、白銀の光弾が無数に出現し、魔竜へと降り注いだ。既に攻撃態勢に入っていたであろう魔竜は、避けることすらできず直撃する。


「ぐごおおおおおおぉぉぉぉぉぉっっっっっっ!!!!」


 魔竜たちは力なく絶命し、やがて消滅していった。


「なぜなら……俺がいるからだ。俺がいる限り、人界を汚すことはできないと思え」


 遥か上空に浮かび上がる白フードに向けて、俺はそう宣言した。

人界を守る。

それが剣聖に与えられた宿命ーー

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