白フード再登場!
都合上、この時間帯での投稿になりました!
こいつは何を言っているのだろう?と言いたげな顔を老人はしていた。
「まぁ、見ていろ」
俺は立ち上がり、広々とした庭へと足を運ぶ。楽しそうに遊ぶ子供たちは、「あの人誰ー?」と疑問の表情を浮かべながら、指を指していた。少年少女たちから見れば、俺は魔界の魔導師に見えるのだろうか。
赤毛の少女との距離が十メートルを切ったところで、俺を見た。目が見えていないと聞いているが、確かに俺の方を向いている。偶然だろうか。
俺は近づき、少女の目線に合わせるように膝をつく。そして優しい声音で少女に話しかける。
「こんにちは。名はなんと言うんだ?」
少女は身体を強張らせている。しばらく俯くとこちらを見て、
「……ミレ……」
「ミレか。良い名を付けてもらったな」
赤毛の少女ーーミレはコクリと頷く。
年齢は十歳くらい。同年代の子供と比べると細く華奢な身体で、炎のように赤く艶やかな髪をしている。髪と同じ色のスカートに、襟元に可愛らしいフリルになっている白シャツを着ている。
「ミレ。さっき俺が来るのが分かったのか?」
俺の問いかけにしばらく間が空いた後、ミレが首肯する。
「うん。産まれた時から私の世界は真っ暗で、ずっと真っ暗……光も何もなくて、進んでも進んでもずっと真っ暗なの……」
ミレは小さな声で話しはじめた。近くで遊んでいる子供たちの声にかき消されそうなほどに、か弱い声だった。
「でもね。五歳くらいの時に見えるようになったの。真っ暗な世界に、灰色でモヤみたいな不思議な形をした何かが見えるようになったの……それは一つ一つ形はちがくて……色が強くなったり、弱くなったり、姿が変わるの……今この瞬間も……例えば、あのモヤ……」
ミレは白く細い指を指す。そこには、男の子と女の子の姿があった。
「わたしのお人形さんとらないでよーー!!」
「うるさいなっ!いいだろちょっとぐらいっ!」
一つの人形の取り合いをしているのだろう。会話からして女の子の人形らしいが、少女の手にお人形はなく、泣きじゃくっている。男の子は少し苛立った様子を見せながら、右手に可愛らしい人形を乱暴に扱っていた。
「おーおー。どうしたのかのー?」
喧嘩する声を聞いて、老人が重い腰を上げて庭へと足を運んだ。シヴァも老人の後を追って、庭へと訪れる。
「あのモヤは、なんかトゲトゲしてる……それに隣のモヤは、震えてる……」
ミレは指を下ろした。
モヤとは、おそらくその生き物の魔力、もしくは感情のことなのだろう。ミレはモヤの位置と変化によって、その者の場所と現時点での感情を読み取ることができるのだ。
ミレは目が見えない。その分、他人の魔力を感知する『感覚』が常人より鋭いのだろう。目には見えない、それこそ魔法ですら読み取ることができない深層心理を、ミレは『感覚』で感じ取れるのかもしれない。
ミレに近づいたとき目が見えないのにも関わらず、彼女が俺の方向を向いたのは、そういうことだったのかと俺は納得した。
「兄ちゃん!遊ぼーっ!!」
「えっ!?うわっと!!」
シヴァは子供たちに囲まれている。どうやら遊び相手になって欲しいと懇願されているようで、シヴァは困り果てていた。そんなシヴァの気持ちには目もくれず、後ろから子供が飛び乗って、キャッキャとはしゃいでいる。
「あの二つのモヤ、落ち着いた……」
老人が間に入って、二人を仲直りさせたようだ。男の子は「ごめん」と謝罪して、人形を少女へと渡す。女の子も「うん」と、鼻を啜りながら人形を受け取った。
「でも……お兄ちゃんのモヤは、みんなと違う。みんなは灰色なのにお兄ちゃんのモヤだけ、違う。白。優しい白色のモヤ」
それはおそらく俺が魔族でないからだろう。魔道具はあくまで表面を変えるに過ぎない。だがミレの『感覚』はその奥すらを感知してしまう。
「ところで、なんでお兄ちゃんなんだ?年もまだ言ってないんだが」
「それもモヤで分かる。年齢でモヤの大きさも変わるから」
「なんでも分かるんだな」
ミレは頷く。
「でも、怖がられる。目は見えないのに、なんで分かるのって。みんなから怖がられて離れられる。今までそうだったから……だから私はみんなと離れたところでいるの」
ミレは膝を抱えて、ぽつりと呟いた。
「もし目が見えるようになったら、みんなと仲良くできるか?」
少女は驚いたようにこちらを向く。
「分かんない……でも、私の目は治らないの。いろんなお医者さんに診てもらったけど、治らないって、だから無理なの。それに、仮に見えるようになっても、私はみんなと仲良くなれないの。どうやってお話したらいいか、分からないの……」
ミレは俯き、また小さく蹲ってしまった。
ミレ自身、辛い経験をしてきたのだろう。自分と違うというだけで、除け者扱いしてしまうというのは、人間であっても魔族であってもきっと根本は変わらないのだ。誰かと違うというのは、とても怖いことだから。
「今日は話してくれてありがとう。こんなに話したのは、初めてだったから嬉しかった……もう、ミレには構わなくてもいいから」
ミレは小さな身体で立ち上がり、おぼつかない足取りながらも歩いて行った。
「あの子と、ミレちゃんと話はしたのか?」
老人はゆっくりとした足取りでこちらに向かい、問いかけてきた。
「あぁ」
「みんなと、仲良くなれそうかの?」
「壁を作ってしまっているのだろう。ミレはここに来る前にも、他の施設にいたのか?」
口ぶりからして、そう思わせるような言い方だった。
「長くは続かなかったようじゃ。ミレちゃんを腫れ物扱いにして、追い出されたところをわしが引き取った。だが、ミレちゃんから決して歩み寄ろうとはしなかった。『私には構わないで』とも言われたんじゃ」
老人は悲しそうに呟いた。
一度首を突っ込んだ以上、ミレのことを見過ごすことなどできないからな。彼女がみんなと仲良くできるようにしてやらねばいけない。
そういえば、シヴァのほうはどうなっているのだろうか。さっきは子供たちのおもちゃとなっていたが。そう思い、シヴァの方へと視線を移す。
「兄ちゃん!たかいたかいしてー!!」
「いいよー……よっと!」
「たかーいっ!」
持ち上げられた子供は満面の笑顔を浮かべていた。最初は戸惑っていたシヴァも、慣れた様子で子供たちをあやしていた。
「なんだ。随分と人気者になったじゃないか」
「あはは。どうやら好かれちゃったみたい……参ったな……」
シヴァは苦笑いを浮かべている。口ではそう言いつつも、嫌がっている様子ではない。むしろ楽しんでいるようにすら映った。
ーーそろそろ帰るか。
シヴァにそう言いかけたとき、魔城ゼルレタの上空の空間が歪んだ。光の粒子が出現し、それらは高く舞い上がり一つになろうと凝縮していく。
老人も、庭で遊んでいた子供たちも、遥か上空を見上げて、ただ呆然としていた。これから何が起こるのか、分かっていないようなそんな状態だった。
やがて光の粒子は、ある人物を形取ってーー
「聴け。同胞たちよ」
バハルを攫いシヴァを殺し、俺のことを知る人物。現魔界の長として君臨している、白フードが姿を見せた。




