出発
「ま……魔界に行くって……本気で言っているの!?」
セリナが信じられないと言った様子で言ってくる。
「ああ」
「でも魔族に攻撃されちゃうんじゃ……」
まぁ、そう思うだろうな。
「喧嘩を売りに行くわけじゃない。ただの下見だ」
俺は安心させるように微笑む。
「下見で行くようなところじゃないんですけどっ!」
機嫌を損ねてしまったかのか、セリナが怒りを露わにした。魔界に行ける人間は限られている。一つ星はもちろん、二つ星の連中も魔気には耐えられないだろう。だが、セリナなら魔界の魔力に耐えられるかもしれない。
そう思ったのは、魔法祭での、シェスタと一戦交えていた時のほんの一瞬の出来事だった。その魔力は、どこかで感じたようなものだった。あれほどの魔力、現代はおろか、転生前でもそうそういるものではなかった。
だが、肝心の本人は覚えておらず、それ以来その魔力が姿を見せることもない。なんらかの条件を満たす必要があるのだろうか。
まぁ、セリナが乗り気でないのなら、無理強いするつもりはない。
気がつけば、一つ星のみんなも集まっていた。
「仕方がない。シヴァ、今回は二人で行くとしよう」
「うん」
「やっぱり……本気で行くつもり……?」
心配そうに、セリナが俺を見た。
「相変わらず心配症だな」
「それは心配の一つや二つするわよっ!」
そういえばお母さんも、俺が何かしようとするときは、物凄く心配してくる。迷惑だと思ったことはないし、むしろありがたいのだが、もう少し信頼してくれてもと思うのだ。
「セリナも将来、お母さんのようになるんだろうな」
「なにか言った?」
これはもう言わない方がいいな。
「いや、なんでもない。そんなに心配だと思うのなら……」
俺はセリナの目の前に立つ。その行動に、「えっ?なになにっ?」と戸惑った様子を見せる。俺はセリナの手を優しく握った。
「ちょっ!!」
セリナがリンゴみたいに顔を真っ赤になった。
スピカたちは「キャー!」と黄色い声をあげて、カジムたちは何やらニヤニヤと、気持ち悪い顔をしていた。手を繋いだぐらいで大袈裟じゃないか?
恥ずかしそうな様子を見せながら、セリナは俺の手を振り解こうとする。
「じっとしていろ。心配だったら」
「……分かったわ……」
そう言うと、セリナは大人しくなった。
しばらくして、俺はセリナの手を離した。
「セリナ。聞こえるか?」
「今の……アムルの声……?」
セリナが驚いたように言った。
「えっ?アムルは何も喋っていないわよ」
イジェルが不思議そうな顔をしていた。他の者も、その意見を肯定するように頷いた。
「その様子なら聞こえているようだな」
「また……でもアムルは喋っていない……聞こえているのはアムルの心の声ってこと……?」
セリナの質問に、俺は頷く。
俺とセリナの魔力の波長を繋げたのだ。そうすることで言葉を交わさずとも、相手に強く念じるだけで魔力を通じて会話をすることができる魔法。≪魔力経由通信≫だ。
魔力で繋げているため、相手に盗聴される心配もなく、魔力消費もない。遠距離にいる仲間とも問題なく会話することができるため、使い勝手も良く戦争時にもよく使用されていた。
常に最新の情報を手に入れ、先を呼んで行動しなければいけないからな。
「セリナ、試しに何か念じてみたらどうだ?」
「そ、そうね。えっと……」
セリナが頭を悩ませた後、スッと目を閉じる。
さて、どんな言葉がくるのだろうか。
「こ……こんにちは?」
その一言だけが、≪魔力経由通信≫で俺に伝わった。
「ど、どう?上手くいった?」
「ああ。だが何故、疑問系で挨拶なんだ?」
「だってっ!急に何か話せって言われたって、何話せばいいかわからないし……」
まぁなんにせよ、≪魔力経由通信≫は問題なく使えたことが確認できた。
「これで俺が魔界に行っても安心だろ?」
俺は少し意地悪く、だが優しさも交えて笑う。
セリナたちにとって、魔界は未知の領域。
二百七十年……いや、気が遠くなるほどの戦争。魔界とはどんなところか、魔族とはどんな種族なのか想像もつかないだろう。
彼女たちにとって、それは知らなくて良いことなのだ。だがもうじき、それを知ることになってしまう。
血生臭く、悲鳴と怒号が響き渡り、大地と空は本来の色を失くし、今日一日どのように生き延びていくのかを考えてしまうそんな日々を。
そんな想いをセリナに、現代を生きるみんなにさせたくはないのだ。
俺の笑みを見て、セリナは少々不満そうにしながらも渋々納得したような表情を見せる。
「わかったわ。いってらっしゃい」
「おう。お前たちとも一応、≪魔力経由通信≫を繋いでおきたい。万が一魔界に動きがあればすぐ≪魔力経由通信≫で連絡する」
俺はスピカたちと≪魔力経由通信≫を繋ぐ。セリナたちもそれぞれ≪魔力経由通信≫を繋いだので、これで全員遠距離でのやり取りが可能となった。
「すげーっ!なんかスパイのやり取りみたいでかっこいいなっ!」
「悪ふざけで使うものじゃないのよっ!」
男性陣はキャッキャと嬉しそうにはしゃいでおり、それを女性陣が注意する。いつも通りの展開に俺は思わず笑ってしまう。
「なぁアムル!シヴァ!魔界から戻ってきたら、今度一緒にスパイ遊びしようぜっ!」
「ほう、中々面白そうだな。シヴァはやったことがあるか?」
「そんな遊びがあるなんて初めて知ったよ。是非ともやってみたいね」
「だろっ!今度、インジス湖でぜひスパイ遊びを……」
「だから、そんな遊びに魔法なんて使わないっ!」
再び、セリナたちからの注意する声が飛ぶ。
などと、いろいろやりとりをして、俺たちは学院の外へと移動した。
「気をつけて」
セリナは一言そう言った。
「ああ」
≪飛翔≫でゆっくりと上昇して、空を見上げた。
「アムル?」
シヴァが尋ねてくる。
「いや、なんでもない。行くぞ」
「オッケー」
俺たちは魔界へと向けて、一直線にとんでいった。




