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唐突

 重苦しい雰囲気の中、リエルから魔族についての授業が行われていた。おそらくほとんどの生徒は、心ここに在らずという状態で、授業の内容が耳に入っていないだろう。


 隣で授業を受けているセリナも、彼らほどではないが動揺を隠せてはいないようだ。


 戦争という恐怖は、体験した者でしか決して分かるものではない。いくら書物に記されていようとも、そこにあるのは事実だけだ。心情など読み取ることなどできない。


 彼らは今、それを身に染みて味わっているのだ。魔族がいつ攻めてくるのか分からない、不安と恐怖に押しつぶされるのを、必死に堪えようとしているのだ。

 

 それはリエルも同様である。だが、教師である以上情けない姿を見せまいと、いつも通りの様子で授業を行っていた。


「約二百七十年前から続く人類と魔族の争いの中、最初の二百年、人類は防戦一方の戦いを強いられていました。人間と魔族の魔力量の差。それが根本的な理由とされています。ではなぜ、人間と魔族に魔力量の差があるのか?その理由が分かる人はいますか?」


 リエルが生徒に尋ねる。


「そりゃ、魔族は異質な存在だからだろう」


「人間を殺すために生まれてきたんだからな」


 にしてもこいつら、少し魔族のことを悪く言い過ぎなのではないか?気持ちの不安定さもあるのだろうが、心もない言葉が彼らの口から漏れた。


「人界と魔界では、魔力の純度が違う。魔界の魔力は人界の魔力に比べて数十倍濃い」


 大気には魔力が含まれており、魔気と呼ばれている。

 魔力を大量に消費すると、魔力が欠乏して動けなくなってしまう。

 逆に魔力を過量に取り込んでしまうと、自身の魔力量を超えてしまい、目眩や体調不良を起こしてしまう。そして、魔力が己の身体を侵食し、身体を破壊するのだ。

 ある程度濃い魔気なら、本来よりも力を発揮できるのだが、人間にとって魔界に漂う魔気は、毒でしかない。

 

「魔族は幼い頃から、その環境で日々生活をしている。魔界で暮らすことで、魔界の魔力の純度に適応できるような身体へと進化していったのだろうな」


 魔族一人当たりの魔力量は、人間で換算すると十人分の魔力量だ。魔力量が多ければ、それだけ使える魔法の幅も広がる。魔界が人界よりも、魔法の発展が早いのもそのためだ。


「だが、人類も今日まで生き延びてきた。腕利きの職人たちが結集して剣を作り、砲台を作り、鎧を作り、それを魔導師たちが限界まで強化する。魔力で劣る人類が、魔族と唯一戦える方法はそれだけだった」


 心から勝てると思った人間などいなかったはすだ。どれだけ良い素材で名工が武器を作り出し、魔導師が強化しようとも、圧倒的な魔法の前では、なんの役にも立たない。焼け石に水だ。


「昨日まで親友だった者が、愛していた者が命を落とそうとも、それでも彼らは諦めることなく必死に戦い続けた。だが、人界にとある一本の剣が出現した」


 それが神創剣カリュエヴァマだ。その神剣から溢れ出す神々しい輝きは、魔族にとって天敵とも言えるものだった。

 しかしこの時代では、カリュエヴァマを知る者はいないようだった。フェルメイトを守護する神剣という認識なのだろう。≪記憶改竄(ギル・ゼセル)≫の影響か、白フードの仕業なのかそれまでは分からないが。カリュエヴァマという名は伏せて、神剣という括りで話を進めよう。


「だが人類にあの神剣を扱えるものはいなかった。そこで人類は、神剣の魔力を利用して、結界を作ることにした。この学院を覆っている魔法結界が、まさにそれだ。それ以来、魔族が人界に攻め込んでくる回数は激減したというわけだ」


 だからといってこのまま引き下がるわけもない。魔界もあの手この手で結界の破壊を試みようと動いていたのだが、破壊されることはなかった。

 

「その通りです。魔力水晶に眠る神剣の結界があるから、今の人類があるというわけですね」


 リエルは感心したように言った。

 よく勉強していると思ったのだろう。


「それから七十年。互いに睨み合いを続けたまま、今に至るというわけです」


 記憶のズレが生じているのはここからか。

 その後人類は、魔界に攻め込んだ。魔界の魔気に対応する方法は二つ。 


 魔界の環境に適応する。

 自身の魔力で魔界の魔気を防ぐ。

 後者は今で言う、反魔法の原理に近い。


 と言っても、そんな昔では反魔法は存在しない。だからといって、すぐに魔界の環境に適応できる人間も存在しない。

 

 そこで人類は、カリュエヴァマから溢れ出る魔力を抽出し、魔力石に移し変えてそれを身につけることで、魔気を防いでいたそうだ。カリュエヴァマの持つ魔力は、魔界の魔気にも効果があったらしい。


 前者を選択したのは、俺とお師くらいだ。

 それぐらいの魔力を持っていなければ、魔界ではやっていけないということなのだ。


「今日の授業はここまでです。このような事態のため、しばらくは午前中のみの授業となりますので、しっかりと自宅学習をしておいてくださいね。では、気をつけて帰ってください」


 リエルはそう言って優しく微笑むと、教室を出て行った。


「……帰るか」


「うん……」


 そう言って、二つ星の生徒達は重苦しい雰囲気のまま帰り支度を始める。

 俺とシヴァは、教室の後方へと移動した。


「思ったよりも、随分と深刻な状態なようだな」


 俺は隣にいるシヴァに話を振る。


「うん。何か手をうたないとまずいね」


「ねぇ。一体何の話をしているの?」


 移動して、何やら話しているのが気になったのだろう。セリナが話に突っ込んでくる。


「さっきの授業の話だよ。なんとか仲良く出来ないのかなって」


「そうよね。こんな状態が続くんじゃ、みんなも不安で寝ることすらできないわ」


 一つ星の生徒達も帰り支度を終えて、帰ろうとしているところだった。

 

「セリナ。魔界に興味はあるか?」


 俺は唐突に質問を投げかける。


「えっ?」


 セリナは驚いたような表情を浮かべる。


「魔界に行ってみる気はあるか?」


「……はああぁぁぁあっっっっ!!??」


 珍しくセリナが素っ頓狂な声を漏らし、その声に驚いたように、一つ星の生徒はこちらを見た。

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