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魔界

 俺はいつも通り、フェルメイト魔法学院に登校する。


 しかし、昨日は少しやり過ぎてしまったな。シヴァが俺の攻撃に適応し始めてきて、俺もついムキになってしまった。転生して以来、あそこまで力を出すようなことなんてなかったからな。

 だが、何やら教室が騒がしいな。一つ星の生徒らが話をしている。何かあったのだろうか。


 ガラガラっとドアが開く音がすると、セリナが椅子を引いて横に座った。


「ねぇ、聞いた?」


「何をだ?」


「ほら、フェルメイトの近くに小さな森があるじゃない?昨日その森が、更地になってはすぐに元通りになって、それが夕方まで続いていたらしいの」


「ああ、それは俺とシヴァの仕業だ」


 俺は表情を変えることなく淡々と言う。


「……聞き間違いかしら?」


「聞き間違いじゃないぞ。昨日、その森でシヴァに稽古をつけていたんだ。つい少し力を入れてしまってな」


「なんかそれ聞いて、納得してしまっている私がいるんだけど……」


 ハアッと、セリナは何やら溜息をついていた。


「昨日は本当に凄かったんだから。森が更地になったとき、超大型魔獣が攻め込んできただったり、魔界の連中が攻め込んできただったり、あらゆる噂が飛び交って。魔法祭であんなことがあった手前、フェルメイトが各国から魔導師や騎士たちを召集しようとする一歩手前まで話が進んでいたそうなんだから。その前にフェルメイトの兵士数十人でその森に入ろうとしたら……」


「魔法障壁が展開されて森にはいれないし、森は元通りに戻るし、フェルメイトに被害は及ばないという結論に至って、とりあえず様子見ってことになったというわけか」


 まぁ、誰かの迷惑になり得るのであれば仕方がない。今度はもう少し離れたところで、稽古を行うか。


「そういえば、シヴァくんがまだ来ていないわね。いつもだったらもう来ている時間なのに」


 セリナは時計に目をやる。

 時刻は八時二十七分。八時半まで教室にいなければいけないため、あと三分だ。

 確かに珍しいな。などと思っていると、奥のドアがガラガラっと開く音がした。


「ギリギリ間に合った」


 席に着くと、ホッと一息ついてシヴァがそう言うと、ふあぁーと大きな欠伸をする。


「寝ていたのか?」


「うん。朝起きたら全身痛くて痛くて。いやー危うく遅刻するところだったよ」


 彼はそう言って、腰をさすった。


「一体、どんな稽古をしていたの?」


「なに。死なない程度の鍛錬さ」


「何回も三途の川を渡りかけたけどね」


 笑いながらサラッと凄いことを言うシヴァを見て、セリナはうわぁっと何やらドン引きしたような様子を浮かべた。


「なんだったら、セリナや一つ星のみんなにつけてやってもいいぞ」


「死なない程度って言ったって、アムル基準でしょ。私たちじゃ速攻で、天に召されちゃうわ」


「大丈夫。なんだかんだ言って、アムルは優しいから。死ぬギリギリで、回復魔法使ってくれるから死にはしないよ」


「とうとう、シヴァくんの感覚がおかしくなっていっているじゃないっ!ていうかシヴァくん、いつの間にアムルのこと呼び捨てで呼ぶようになったの?」


 と疑問を浮かべるセリナ。


「まぁ、いろいろあったんだよ」


 互いの転生前の過去を曝け出しあったから……などと言えるはずもなく、苦し紛れにシヴァが言い逃れをした。


 などと話していると、チャイムが鳴り響く。しばらくすると、リエルが教室に入ってきた。 

 

「おはようございます。早速で申し訳ないのですが、今日の授業は予定を変更することとします」


 リエルはそう言った。

 今日は確か、古代魔法の基礎術式の授業を行うはずだったな。古の魔法というだけに、楽しみにしていた生徒も多かったのだろう、ハアッと溜息をつく生徒が大半だった。


「今日は魔族とは何か、人間と魔族の関係、その歴史について、授業を行います」


 クラスの空気が変わった。何やら重苦しい雰囲気へと変貌する。それだけで、今の人間と魔族の関係が相当よろしくないことが分かった。


「人間と魔族の戦争が勃発したのは、今から約二百七十年ほど前まで遡ります。その勃発した原因となったのは……」


 ゼイスがスッと手を挙げる。彼は眼鏡をくいっとあげた。


「人間の女性と魔族の男性が、互いに惹かれ合ったが、それをよく思わなかった魔族側が、女性を一方的に痛めつけて殺害した。それが原因ですよね?」


 教室が少し騒がしくなる。


「ったく。魔族ってやつは、あいつらとは一生分かり合える気がしねぇな」


「なぁ知ってるか?魔族って、どいつもこいつも色白で気色悪いんだってよ」


 などと好き勝手に話していた。


「はい。ですが、それは人界に記されている記録の話になります」


「人界の?ってことは、魔界の記録は違うってことかしら?」


 ノアが少し驚いたような声で尋ねる。他の生徒らもんっ?と耳を疑うような様子を見せた。


「魔界に記されている記録によれば、その女性の両親が魔族の男性を呼び出し、ありとあらゆる拷問を受けさせ、それに耐えきれなくなった男性は、遺書を残してこの世を去った。という風に記されています」


「なんだそりゃっ!!」


「ハハハっ!!魔族は、息するように嘘をつける種族なんだなっ!!」


 激怒する生徒、馬鹿馬鹿しかったのか、堪えきれず笑い出した生徒、教室内は混沌と化した。


 俺が知っている記憶とは程遠いな。人間と魔族の本当の争いの原因は、これと言ったものがない。

 権力争いがあったのかもしれないし、どちらが優れた種族か言い争い、戦争に発展したのではといろいろな考察が飛び交ったが、真実に辿り着く者はいなかった。


 そんな争いが延々と続き、俺が人間と魔族の記憶を改竄することで、強引に争いを終戦させたのだ。


 だが、その当時は人間と魔族の接点は、なかったそうなのだ。人間と魔族、違う種族が婚約するというのは、確かに魅力的な話ではあるが考えにくい。


「戦争時、兵士の一人が魔族に対してそれを言うと、魔族はそう言ってきたそうです。それはすぐに広まり、より一層関係は悪化することとなりました」


 まぁ、なんともでっち上げた話だな。

 ≪記憶改竄(ギル・ゼセル)≫で記憶をすり替えた俺が言える話ではないが。


「でも先生。魔族に関する授業って、二年生から習う授業のはずですよね?何故、それを今行っているのでしょうか?」


 ゼイスが問う。


「実は……先日、ある一通の手紙がフェルメイトに届きました。差出人は分かりませんが、魔力痕からして、魔界からのものと見て間違いないでしょう」


「ま……魔界っ!?」


「ど、どんな内容だったんですか!?」


 生徒たちが激しく食いつく。


「く、詳しいことは私も分からないのですが、一つだけ分からない単語が、その手紙に記されていたのです」


「単語?」


「『剣聖』です」


 彼らは首を横に傾げた。


「剣聖ってなんだそりゃ?」


「そんな単語、歴史の書物に記されてなんかねぇよな」


 そうだろうな。争いが存在していないのだから、当然『剣聖』が誕生することもない。

 戦争はあったが、『剣聖』という存在は端から存在していないことになっている。おそらく白フードの仕業だろうな。


「その手紙を受けて、王都フェルメイトは支給物資の確保、魔導師の補充など水面下で準備を進めているそうです」


「え……なんでそんなことを……」


 リエルは息を吸って、言った。


「おそらく、戦争が起こると考えているのでしょう」


 戦争、その二文字に彼らは戦慄した。

 当たり前であった平和が崩れて、壊れていく。そう思った生徒たちは、恐怖からかワナワナと震える。


「落ち着いてください。可能性としてです。実際、魔界とは現在も冷戦状態が続いています。あくまで起きたときの可能性を考え、王都は動いているということです」


 生徒たちを落ち着かせようと、穏やかな口調でリエルは続けて言う。


「もし戦争が起きた場合、避難所としてフェルメイト魔法学院を解放することとしています」


 確かにその判断は正しい。この学院には、カリュエヴァマによる魔法結界が展開されている。万が一にも破られることはないだろう。


「今日魔族についての授業を行なうのも、魔族についての理解を少しでも深めておくためです」


 思ったよりもだいぶ早く、白フードが動いてきたな。手紙の内容は分からないが、王都が対応をとっているというところから見て、おそらく宣戦布告と言ったところだろう。


 さて、今回はどんな手で攻めてくるのだろう。

 仮に前回のように奴が姿を現そうと、今度こそ奴を倒し、正体を暴く。

 今度こそ本当の平和を、この手に掴むためにーー

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