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稽古

「ハアッ!!」


 シヴァの気合いが乗った声が森中に響き渡る。

 魔法祭、そしてシヴァの告白から二週間が経過した。白フードの出現があったものの、その後は特に姿を見せることもなかったため、一週間の休みを挟んで、俺たちはいつも通り魔法学院に通っている。


 休みの日、俺とシヴァは、学院から少し離れた森で稽古をしていた。俺やシヴァが暮らす山奥でも良かったのだが、二人の力が衝突したら被害がどれだけ及ぶかも分からない。だから誰もいないこの森を選んだのだ。仮にこの森に何かあったとしても、俺の魔法で元通りにできるからな。


 ノヴェンレビィアを振りかぶり、俺の右肩目掛けて振り下ろした。


 俺はそれを難なく打ち払う。

 キィンッ!!と金属音が周りに響き渡った。


「グウゥッッッ!」


 互いの力は拮抗しており、シヴァは強引に押し切ろうとする。彼の額からは汗が浮かんでいた。


 対して俺は、息一つ乱すことなく無駄な力も一切入れていない。涼しい顔を浮かべていた。


「どうした?もうバテたか?」


「ま……まだまだっ!」


 剣を払いのけて、俺と一旦距離を置く。

 限界が近いのだろう、彼は既に肩で息をしている状態だ。


 その一瞬を逃さんと、今度はこちらから距離を詰める。


「ほんの少しでも隙を見せるな。どれだけ限界だろうと、決してそれを相手に悟られるな」


 俺は斬撃の雨を喰らわせる。

 シヴァも捌こうとするが、その処理が追いつかなくなり俺の攻撃をモロに受けた。


「がふっ……」


 シヴァは地面を転がり、倒れた。


「シヴァ、一旦休憩だ。このまま続けると、お前の身体が保たないぞ」


「大丈夫……俺は……まだやれる……」


 ノヴェンレビィアを杖代わりにして、彼は立ち上がり、剣先をこちらに向ける。シヴァの瞳は炎のように燃え上がる闘志のようなものが宿っていた。


 家族を助ける。

 シヴァが望んだたった一つの願いだ。それを叶えるために、俺に稽古をつけてくれと頼み、今もこうして立っている。剣を握る両手は、血豆だらけで握るのも一苦労だろう。

 共に助けようと言ったのだ。そんな想いに、俺も答えてやらねばならない。

 

「ああ、分かった。お前の気が済むまで、何度でも付き合ってやろう」


 もう一度、目にも止まらぬ斬撃の雨を繰り出した。

 シヴァはさっきまでのように、全ての攻撃を捌こうとするのではなく、致命傷となりえると判断した攻撃のみを弾き、それ以外の攻撃は可能な限り躱しつづけている。剣の速さで追いつかない以上、全てを捌くのは不可能と感じたのだろう。


「ふっ。良い対応だ。さらに速度を上げるぞ」


 音すら置き去りにする速度で、俺は剣を振るった。最初は急な変化に対応できなかったシヴァだが、徐々にそれにも慣れてきた。


「適応速度をもっと上げろ。本当の戦場ならば、それで命を落とす可能性だってある」


 俺はピタッと動きを止める。

 緩急によってシヴァは態勢を崩された。


 俺は蹴りを喰らわせる。防御することもできず、彼は木の幹に叩きつけられた。


「思考を止めるな。動きながら相手のパターンを予測し備えろ。常に相手の一歩先を行け。それと剣筋が素直すぎる。お前は速さもあるし技術もある。だがそれ以上の相手と対峙したら、今のままでは通用しないぞ」


「ぐっ……」


 シヴァはゆっくりと立ち上がった。


「……少しぐらい手加減してくれてもいいんじゃない?」


「ふむ。これでもだいぶ手を抜いているつもりなんだがな。ちなみにさっきの攻撃は二割ぐらいの力だぞ」


「冗談だと信じたいね……」


 そう言ってシヴァは苦笑いを浮かべる。


「だったらもう少し本気で相手をしてやる」


 指をクイっとして、かかってこいと挑発する。

 シヴァは大地を蹴って、一直線にこちらに向かってきた。先ほどよりも速度が増している。


 キィンッ!という金属音が響き渡り、その衝撃で木々が薙ぎ払われていった。



ーー


ーーー


「少しやり過ぎたか」


 稽古にひと段落がついて、辺りを見渡すと更地と化していた。やはりここを選んで正解だった。お母さんがこの光景を目にしたら、「森を粗末にしちゃ駄目でしょっ!」と説教されてしまうかもしれないからな。

 俺は地面に手を触れ魔力を送ると、根こそぎ薙ぎ払われた木々が元通りに生えてきた。


「ハアッ……ハアッ……」


 木にもたれかかるようにして、シヴァは休んでいた。俺は異空間から飲み物を取り出して投げ渡す。シヴァもガッチリとそれを掴んだ。それを勢いよく飲み干して、彼は口元を拭った。


「俺の家の近くに流れる湧水だ。だいぶ身体が楽になったと思うが」


「うん。むしろ力が溢れてくるよ」


 シヴァが興味深そうにして呟く。

 俺が暮らすアゼッテ村は自然に溢れている。自然は魔力を少しずつ蓄えて成長していき、それは美しい環境であればあるほど、その成長速度は早い。そのため湧き水にも高密度の魔力が宿り、疲労回復を促してくれるのだ。いやはや、自然の偉大さというのを思い知らされるな。


「あーあ。今日もアムルに勝てなかったよ」


「いや、後半は動きが良くなっていた。あとはそれを常にできるようになれ。そこで頭を使っていては、処理速度が遅れて対応できなくなってしまうぞ」


「褒めてくれるんなら、カリュエヴァマで稽古してくれてもいいんじゃない?」


 俺が稽古で使用していた剣は、≪創造武具(ネギラム)≫で創り出したものだ。ノヴェンレビィアとやり合う以上、一応ある程度の強化はしている。


「それはまだ先の話だ。今のお前では、手も足も出ないだろう」


 カリュエヴァマとやり合える唯一の剣は、俺が知る限りエベルスメイしかない。神剣に対抗するには、それと同等の魔剣でなくては光に呑み込まれてしまう。逆もまた然りだ。


「カリュエヴァマとやり合いたいのならば、まずらノヴェンレビィアを完璧に使いこなせるようになれ。そして、エベルスメイとも引けを取らないほどの魔剣へと変化させることだ」


 神剣でも魔剣でも、使い主によって強くなる。シヴァとノヴェンレビィアならば、可能性は十分ありえるだろう。


「アムル」


 シヴァが立ち上がり、俺の名を呼んだ。

 彼は屈伸をして大きく伸びをした後に、側に立て掛けていたノヴェンレビィアを手に取る。


「まだ十分ほどしか休憩を取っていないぞ」


「大丈夫だよ。それに、こんなところで根を上げているほど俺は暇じゃないからね」


 シヴァはそう言って笑みを見せた。

 俺はフッと笑い、≪創造武具(ネギラム)≫で剣を創り出す。さっきよりも強い魔力を込めて創った剣を見て、シヴァも武者振るいをする。


「それ、まともに喰らったらただじゃ済まないよね」


「こんなものにびびっていては、お前の願いは叶わんぞ」


 一応、他に被害が及ばないように、魔法障壁を展開する。


 シヴァは腹に力を入れて、こちらに向かわんと構える。それを迎え撃たんと、俺も上段に剣を構える。


 シヴァが大地を蹴る。

 俺とシヴァが放った衝撃波に森が悲鳴をあげた。

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