やるべきこと
「あ……ありがとう……ございます……」
シヴァは再び頭を垂れる。
「いつも通りでいい。調子が狂う」
「しかし前世では、貴方は剣聖で俺は魔王の血を引いているとはいえ、ただの子供です……」
滅相もないと、シヴァは首を横に振った。
「前世では確かにそうだったかもしれないが、今は魔法学院で学ぶただの生徒だ。そんなことを気にする必要はない」
俺はそう声をかけてやる。
「……じゃあ、これまで通り呼ばせてもらうよ。アムルくん」
シヴァはぎこちなさそうな様子を見せた。
気にするなと言ったとはいえ、自分の父と命のやり取りを繰り広げていた相手が、こうして目の前に立っていて、そんな奴に家族を助けてくれと頼んでいるのだ。
おそらくこの世界で、そのことを知っているのは俺しかいないだろう。
「お互い過去のことを知ったのだ。もうくん付けで呼ぶ必要はないんじゃないか?」
「あー……まぁ、そういうのなら」
顔を上げているシヴァに、俺は手を差し伸べる。シヴァはその手を取り立ち上がった。
「アムル」
「その呼び方の方がしっくりくるな」
俺はフッと笑った。
「だが、気になることもある。魔界のことだ。バハルがその白フードに捕らえられた……例えば何処かに閉じ込められたと推測して、魔界を統べる魔王の代役を誰が務めているのだろう?」
魔界は、ヴァルベェノ家が代々魔王を継いでおり、バハルは七代目だ。魔族の寿命は人間の約五十倍。お師が生きていたときから、バハルが魔王を務めているため、最低でも四百年は魔王の座に君臨しているはずだ。
そんな魔王が、急に姿を消すようなことがあれば、魔界は混乱の渦に包まれることになるだろう。
代役を務められるとしたら、≪魔界十傑雄≫の連中くらいか。
「父さ……魔王バハルが行方不明になってからは、あの白フードが新たな魔王として、魔界に君臨している」
シヴァがそう言った。
借り物とはいえ、エベルスメイと≪終焉の魔眼≫の両方を携えているのだ。確かに魔王の代理としては、十分と言っていいほどのものは持っている。
だが、魔界の奴らは疑わなかったのか?そもそも白フードは、ヴァルベェノ家の血を継ぐ魔族ではないのだろう?何故白フードが、エベルスメイと≪終焉の魔眼≫を持っているのかと。
魔力の波長は、その家系に近しいものとなる。シヴァはそれを上手く隠していたのだろうが、白フードの魔力の波長は、バハルとは全く異なるものだ。魔界の一般魔族ならまだしも、魔王に近しい奴らですら疑わないというのは異常だ。
「まぁ、やることは決まったな」
俺の言葉に、シヴァは大きく頷いた。
バハルたちの救出と、白フードを倒すこと。
この二つだ。
「アムル。このことは……」
「誰にも言うな。だろ?」
俺が前世は≪剣聖≫と呼ばれていた、実はシヴァは魔王の子供だったなどと、変に真実を言っても混乱するだけだし、何より信じないだろう。偽りの記憶が、三百年彼らの本当の記憶として受け継がれているのだから。
「あと一つ。お願いしたいことがあるんだけど、いいかな?」
「なんだ?」
「俺に稽古をつけてくれないかな?」
真剣な眼差しを俺に向けた。
「ノヴェンレビィアを完全に操ることができない。俺の精神力が未熟だったからだ。それだけじゃない。魔力や剣術、白フードに何一つとして敵わなかった」
魔法陣を描くと、夜空を思われるような純黒の魔剣、ノヴェンレビィアが姿を見せた。彼はそれを手に取る。
「今の俺じゃ、守りたいものも守れない。アムルにおんぶに抱っこじゃだめなんだ。だから俺は、強くなりたい。救いたいものを救うために」
シヴァの眼には、強い意志が宿っていた。
俺はその瞳を覚えている。かつて魔界を護るために、俺の前に立ち塞がったバハルが向けたその瞳だ。
それを見て、二人は確かに親子なのだと感じた。
「ふっ。いいだろう。稽古をつけてやる。ただ、俺は厳しいぞ」
「うん。望むところだよ。なんせ前世でも、厳しいせんせーがついていたからね」
「ほう」
だったら本気でやれるな。
以前、スピカやカジムたちにも稽古をつけていたが、あのときはかなり優しめなメニューだったからな。本人がそこまで言うのだから、それなりなものを用意してやらなくてはいけない。
こういったものを考えるのも、随分と久しぶりだな。
「だったら死に物狂いでついてこい。救いたいものを救うために」
覚悟を決めてーー




