決着のとき
白フードがゲートをくぐると、まるでこの場に居なかったように魔力反応が消えた。≪魔力感知≫で辿ることも不可能だろう。
俺は魔法陣を描き、そこにカリュエヴァマを突き刺すと、それは次第に光の粒子と姿を変えた。
じきに地下にある魔力結晶の元へと帰るだろう。
俺はシヴァの元へと向かった。
「いってて……」
彼は既に意識を取り戻しており、頭を押さえながらゆっくりと起き上がった。
「大丈夫か?」
「うん。ごめんね。力になれなくて」
シヴァは申し訳なさそうな顔を浮かべながら、謝罪の弁を述べた。俺は地面に転がっていたノヴェンレビィアをシヴァに手渡すと、鞘にしまった。
「さて。他のみんなを起こさないとな」
白フードはいなくなったが、依然としてこの空間は、奴が放った邪気が込められた魔力が充満している。その魔力でみんなが気絶したのは、己の魔力が白フードの魔力に圧倒されただけじゃない。放たれた魔力に対しての耐性があまりにもなかったからだ。
無理もない。三〇〇年前は魔族と対峙する毎日だった。その澱んだ環境で生活していかなばならず、身体がそれに順応していったのだ。
だが、そんな争いから無縁の暮らしをしている彼らからしたら、白フードの放った魔力は異質のほかない。身体が拒絶反応を起こしてしまったのだろう。
「≪浄化≫」
俺の右手に、黄金色に輝く小さな五つの球が出現する。それらを各方角の上空に飛ばしてやる。
その球体は澱んだ雲の中で溶け出すと、徐々にその色を取り戻していく。
≪浄化≫によって、白フードの魔力の影響を受けていたテレビジョンも、ノイズ混じりではあるが舞台を映し出していた。
「テレビジョンがっ!」
「結局どうなったんだっ!?いろんなことが起こりすぎて、頭がついていかねぇよっ!」
「さっきまでいた白フードは……どうやらいないみてぇだ」
観客席に触る観客は、戸惑いの声をあげていた。
「大丈夫か?」
セリナの元へと歩み寄り、彼女の頭を支えた。
「ん……」
彼女はゆっくりと目を開き、朧げな様子を見せた。しばらくは安静が必要だろう。それは他の生徒も同様だ。
「ひとまず、ここから出るぞ」
そう言って、俺が指を鳴らすと目の前の空間がぐにゃりと歪んだ。
「これってさっきの……」
シヴァが呟く。
白フードがいなくなった今、この空間に漂う魔力環境は≪浄化≫によって元に戻ったはずだが、学校側からの≪転移≫の魔法が発動しない。
≪終焉の魔眼≫は、視界に入ったありとあらゆるものを崩壊させる。学校側が用意した≪転移≫の魔法術式を破壊させたのかもしれない。だとしたら、こちらから修練場に戻るしかないだろう。
「まあ、こんなところか」
現れたのは、白フードが創り出したゲートだ。
気を失っている生徒たちに、魔力の羽衣を羽織らせ、宙に浮かせてやる。そして、ゲートの中へと歩を進めた。
暗闇の中をしばらく歩くと、奥から光が差し込んでいた。ゲートをくぐると、そこは修練場の舞台に繋がっていた。どうやら、上手くいったようだ。
「おいっ!あれは……」
「一つ星の……アムル!アムル・シルフィルクだっ!シヴァ・コルエマもいるぞっ!」
「他の生徒は……全員宙に浮いている?気を失っているのか……?」
様々な声が飛び交う。
そして、気を失っていたバルドがゲートをくぐった。
「バルドッ!」
「負けたのか……怪物と呼ばれたあいつが……一つ星の一年に……」
観客席にいた貴族は、感嘆の声を漏らした。
「勝った……のか?」
「ほっぺたつねって……いたたっ!!」
「夢じゃない……ということは……」
「「やっっったあぁぁぁぁっっっっ!!!!」」
意気消沈な二つ星とは裏腹に、一つ星の生徒たちは、まるでお祭り気分のような盛り上がりを見せていた。
修練場の舞台に、医療班とリエルが駆け足で駆け寄ってくる。俺は宙に浮いている彼らをゆっくり地面に降ろしてやる。
「気を失っているだけだ。命に別状はない。もうしばらくしたら、意識を取り戻すだろう」
「アムルくんとシヴァくんも、どこか怪我は?」
「大丈夫だ」
「俺もです」
問題ない、と俺たちはそう言った。
「分かりました」
リエルは医療班に、気を失っている生徒を治療していく。治療を受けた生徒たちは、ゆっくりと目を覚ました。
「あれ……ここは……?」
「さっきまで、戦っていたはずだけど……」
「それならもう終わったぞ。俺たちの優勝だ」
「そうか……」
もっと喜びを爆発させるのかと思ったのだが、スピカたちはホッとした様子を見せるだけだった。疲れが相当溜まっているのだろう。
「おい……」
掠れてはいるが、聞き間違いすることのない野太い声が、耳朶を叩いた。バルドが意識を取り戻して、むくりと起き上がろうとする。
「ぐっ!!」
バルドの身体には激痛が走り、苦しみ出す。
≪聖治癒≫をかけてやる。
「≪魔力強制強奪≫と、≪深淵暗黒極絶≫の副反応で、お前の身体は相当ボロボロだ。起きあがろうとしただけでも、相当な痛みが伴う。無理をするな」
禁断の魔法を二つも使用してしまったのだ。正直、生きているのが不思議なくらいだが、さすがは怪物。耐久力も相当の持ち主だ。
「俺の……負けだ……」
途切れ途切れに、バルドは言った。
「正直、あの力に呑まれてから怖かった。お前たちを殺してしまうのではないかと。抑え込もうとしたが、悔しいという気持ちと憎いという気持ちだけが肥大して、力が溢れ出て止まらなかった。だから、すまなかった……」
「そう謝るな。今度はお前本来の力で、正々堂々と勝負しよう。いつでも受けてやる」
「けっ……ぬかせ……」
そう言いながらも、フッと笑みを浮かべるとドサっと地面に倒れて、また気を失った。
「彼を治療室へ!」
リエルが指示を出すと、医療班は手際良くバルドを運んでいく。
治療を終えたセリナが、こちらに歩いてきた。
「結局、またアムルだけ活躍しちゃったわね」
「そんなことないさ。誰か一人でも欠けていれば、優勝なんてできなかっただろう」
スピカたちが≪聖祈楽園≫を完成させなければ、カジムとゼノンのコンビネーションが良くなければ、セリナの遠距離氷魔法、シヴァの剣才がなければ、絶対にこのような結果を掴むことなどできなかっただろう。
修練場にアナウンスの声が響き渡る。
「魔法祭優勝は……セリナ・アークネルド班っ!!」
そう言った瞬間、修練場が大歓声に溢れかえった。
「やったな」
「うん」
「えぇ」
俺の声にシヴァとセリナ、スピカたちも頷く。
「こういうときって、なんかパフォーマンスとかした方がいいんじゃね?」
思いついたようにカジムが言う。
「いいと思うけど、身体が重たいからそんな動きがないやつがいいかな」
「だったら、これはどうだ?」
俺はスッと右拳を前に出した。
「互いの拳を合わせるんだ」
「へぇ。なんかいいわね。かっこいい」
セリナも拳を前に出す。
シヴァも柔らかな笑みを浮かべながら、スッと拳を出した。一つ星の生徒も次々と、同じように拳を出す。
互いの気持ちを一つにするように、同じ喜びを分かち合うかのように、俺たちは拳をトンと合わせた。




