黒い瞳の輝き
「お、おい!アイツはなんだっ!?」
「≪転移≫で飛ばされる魔法祭専用の空間は、対戦する生徒しか立ち入ることが出来ないはずだっ!しかもその空間に飛ばすことができるのは、魔法祭の運営以外いないはずだっ!一体どうやって……」
観客席で戦況を見つめる生徒や観客から、そう言った声が飛んだ。
「お前……」
「貴様にもう用はない。とっとと失せろ」
そう言った瞬間、バルドの身体が宙に浮く。
「ガハッ……!」
バルドはそのまま吹き飛ばされる。
「これ、中継されてるんだよな」
バルドの姿を見て、鼻を鳴らした白フードは右手を掲げる。その手からは怪しげな電波のようなものが発せられた。
修練場のテレビジョンは、その電波に妨害されるかのようにプツンと切れた。
白フードは視線をチラッと動かす。
見ていたのは、セリナたちがいる方角だ。その後に、俺とシヴァの方を確認する。
「とりあえず、お前以外は全員気絶させるとしよう」
おそらくあの白フードの効果だろう、奴の声は機械音が混じったような声でボソッと呟くと、白フードから禍々しい魔力が発せられた。全てを飲み込む闇のような魔力だ。その魔力に当てられてか、上空に浮かぶ雲が黒く染まっていく。
「っ!!なんだ……この魔力……」
「い、意識が……」
一つ星の生徒たちが次々と気を失い倒れていく。
「ア、アムル……」
セリナは辛うじて意識を保っていた。
「ほう。これぐらいは耐えるか」
白フードは感心したように呟くと、さらに魔力を強めた。セリナの足元はおぼつかなくなり、膝をつく。そして頭から地面に倒れそうになった。
「セリナ。あまり無理をするな」
セリナの元に駆け寄り、頭を抱えながらそう声をかけてやる。
「……アムルは……平気なの……?」
「ああ、少し休んでいろ。どうやら俺に用があるらしいからな」
しばらくして、セリナも気を失った。
俺はセリナとスピカたちに、魔法障壁と反魔法を展開する。
「……む、どうやら一人。邪魔者が残っているようだな」
白フードは、俺以外の人間を気絶させようと魔力を放った。だが、俺と白フード以外でもう一人、想願剣ノヴェンレビィアを強く握りしめて、シヴァが立っていた。
「失せろ。貴様に用はない」
言葉に魔力を込めて白フードが強く発する。
「……のか……」
「ん?」
「俺を、覚えていないのか……?」
シヴァの声は震えており、その震えは身体にも伝わっていた。
いつも穏やかで、どこか抜けている、そんなシヴァだがこの時だけは様子が違った。一言で言えば怒っていた。額には血管が浮かんでおり、ノヴェンレヴィアを握っている右手からは、血が滴っていた。
「ふむ。俺とお前は会ったことがあると」
白フードは記憶を辿るように唸った。
ノヴェンレヴィアは持ち主の感情や想いがそのまま具現化される。シヴァの感情に反応したのか、ノヴェンレヴィアは禍々しく黒いオーラを纏っていた。
「シヴァ。事情はあるんだろうが、一回落ち着け。怒りを、感情をコントロールするんだ。ノヴェンレヴィアに呑み込まれるぞ」
忠告するが、シヴァには届いていなかった。
憎しみを込めた瞳を、ただ白フードに注いでいたのだ。
「やはり、お前とは会った記憶がない。仮にあったとしても覚えてなどいない。何故ならお前は弱者なのだから」
白フードは吐き捨てるように言った。
シヴァは奥歯をギリッと噛み締める。
「そうか……。なら……」
ノヴェンレヴィアがより一層の黒いオーラを放って、≪飛翔≫で白フードへと向かっていく。
黒いオーラは、通常のノヴェンレヴィアよりも何倍もの威力を放つだろう。だがそれは、ただ感情をぶつけているだけでしかない。
至高の領域に近いシヴァの太刀筋が乱れている。ノヴェンレヴィアを操りきれていないのがその証拠だ。
己の感情を自在にコントロールをして初めてノヴェンレヴィアの力を発揮することができるのだ。
「がああぁぁっっ!!」
シヴァは力任せに剣を振るった。
「まるで武器を初めて持った子供だな。見ていて危なっかしい」
そう言って白フードは魔法障壁を展開する。衝撃波がありとあらゆるものを吹き飛ばす。だが、奴の魔法障壁には傷一つ付くことはなかった。
「お前がっ!お前がっ!お前がっ!!!」
シヴァは叫ぶ。その怒りに呼応するように純黒の剣が、さらに黒へと染まっていく。そのオーラはやがて、シヴァの両腕にまで侵食し始めた。
それでもシヴァは感情を白フードにぶつけた。
「言っただろう。俺は奴に用があって来たんだ」
白フードが衝撃波を放つと、ピンポン球のようにシヴァを軽々しく吹っ飛ばした。手からノヴェンレヴィアが離れたことで、黒いオーラは消えた。
立ち上がろうと身体に鞭を打つが、既に満身創痍で、もう動ける様子ではなく、程なくして気を失った。
「……正直、お前には失望したぞ。昔のお前なら、俺が仕掛ける前に既に動いていたはずだ。長年続いた平和に身体が鈍ったんじゃないか」
こちらに視線を向けると、白フードは呆れたのようにため息をついて言葉を漏らした。
さっきの発言からして、奴は俺以外の人間には聞かれるのは都合が悪いのだろう。それに奴は言った。昔のお前なら、と。
「昔……というのはざっと三〇〇年ほど前のことか?」
「ああ、それよりもその様子だと、本来の半分も力を出していないだろう。外部からの通信も切断した。この場にいる者も全員気絶させた。今なら本気のお前の力を出せるとは思うが」
ふむ。奴の話を聞く限りだと、三〇〇年前の俺を知っている人物ということか。魔族は人間の約一〇倍長く生きることができる。戦死でもしていない限り、生きているのは不思議ではない。
だが、それよりもだ。
「お前には、三〇〇年前の記憶があるようようだな。俺は三〇〇年前。人間と魔族の記憶を書き換えた。これ以上、意味のない争いをなくすためにな。記憶上、魔族が人間を恨むことなどないと思うんだが、どうやってその魔法を解いた?」
「それを答える義理はない。そんな上っ面だけのものを消したところで、心に負った傷が消えるわけではない」
鼻を鳴らして、白フードから瞳がチラッと覗いた。
その瞳は、黒い輝きを放っていてーー




