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禁断の魔法

 長い通路を歩くと、光が差し込んでいる。抜けると修練場の舞台へと上がる。反対側の通路からは、三年生の班が姿を見せた。

 決勝戦を勝ち上がってきただけあって、全員かなりの魔力の持ち主だが、その中でもやはりバルドが、一つも二つも抜きん出ていた。


「よっしゃー、いけー!バルドッ!!」


「魔法祭初の二連覇目指せよー!!」


「一つ星なんて、一瞬で捻りつぶしてやれっ!!」


「アムルくーん!頑張れー!!」


「頼むぞ、我らの救世主!!そしてセリナ様ー!!」


「シヴァくん!こっち見て!」


 観客席から、さまざまな声が飛び交った。

 三位決定戦のときも凄かったが、決勝戦はそれをさらに上回るほどの熱気だ。

 考えてみれば、二つ星にとっては一つ星に優勝されると今までのような扱いができなくなってしまうため、何が何でも三年生に勝ってもらいたいだろう。


「なんか、凄い気迫を感じるね」  


 シヴァが口を開く。

 観客席にいる貴族たちの期待は、彼らにも伝わっているだろう。だが、それと同時に重圧にもなっている。敗北しようものなら、何を言われるか分かったものではない。

 

 だからといって、自分たちのプライドの為にただの学生に背負わせるのも如何なものか。


 俺は、朝感知した魔力を探る。転移されてしまえば、学院の魔力を感知することはできないからな。今のところ、特に気になった魔力反応はないな。


 俺はバルドに目をやる。

 奴は、ただ黙っていた。バルドの瞳が虚になっている気もする。今の奴は、心ここに在らずという感じで、自分の意思がないようにも見えた。


「それでは、決勝の舞台への転移を開始しますっ!!」


 聴き慣れたアナウンスの声と同時に、≪転移(ゲイラス)≫の魔法が発動した。

 決勝の舞台は、辺り一帯草原が広がっており、姿を隠せる障害物も一切見当たらない。

 なるほど。決勝戦は、力と力の真っ向勝負をやれということか。

 陣地を決めて、それぞれ散っていく。


「あの銀髪の人。昨日と雰囲気が違ったね」


 陣地へ向かう中、シヴァが口を開いた。

 やはりシヴァも感じ取ったか。


「それでは、魔法祭決勝戦、開始っ!!」


 開始の合図が響くと共に、スピカたちが≪聖祈楽園(ベルヴァライズ・ベルン)≫を展開する。

 シヴァがノヴェンレビィアを取り出し、構えた。

 

 すると、一人の魔力が急激に上昇した。

 反対側の陣地の方には、紫紺の輝きを放つ巨大な魔法陣が浮かび上がっていた。その魔法陣を見て、俺は少なからず驚きを見せた。


「あれは……支援魔法?」


 セリナが言う。

 本来ならば、誰しもがそう思うだろう。


 だがーー

 

「いや、あれは支援魔法じゃない」


 一人の魔力が急上昇しているが、残りの九人の魔力が急激に減少しているのだ。


「あがっ……!力が……抜ける……」


「バルドッ!!なんだその魔法陣はっ!!早くその魔法を……解除しろっ……!」


 二つ星の三年生が、懇願するように言う。

 展開された魔法陣の中心に、バルドが無機質な表情で立っていた。


 ≪強制魔力強奪(デグラシアス)

 支援魔法や、≪聖祈楽園(ベルヴァライズ・ベルン)≫のような力を与える魔法とは違い、相手の意思に関係なく魔力を強制的に奪い、己の魔力へと変換させる魔法だ。


 問題なのは、奴がその魔法を使っているということだ。あれは他者の負担が大きく、下手をすれば命すら奪う魔法のため、昔に禁断の魔法として使用するのを禁止したのだ。何故、バルドがその魔法を知っている?


 他者の魔力を奪うごとに、より一層の紫紺の輝きを放つ。そして、九人は膝から崩れ落ちた。


「おいっ!二つ星が次々とっ!!」


「何が起きてるんだっ!!」


 観客席で戦況を見つめている生徒や観客から、戸惑いのような声が漏れる。


 俺は≪創始の聖眼≫で彼らを見る。

 意識を失っており魔力も枯渇しているが、命に影響を与えるほどではない。


 バルドはブツブツと呟きながら、ゆっくりとこちらを見た。そして、不気味な笑みを浮かべると、一瞬で俺の目の前に現れ、至近距離で≪紅炎(グラン)≫の魔法陣を描く。漆黒の炎がバルドの右手に宿り、焼き尽くさんと襲いかかるが、右手に反魔法を纏わせて奴の手を受け止める。


 バルドの瞳を見るが、死んだ魚のような目をしていた。

 見たところ、奴は自身の意識で動いていない。誰かに操られているのだ。一種の呪いのようなものだろう。

 ≪強制魔力強奪(デグラシアス)≫による魔力供給の他に、何処からか奴に魔力を送られている。おそらくそれで、バルドを操っているのだろう。

 

「お……れが……最強だ……おれ……こそが……憎い、憎い、憎い、憎憎憎憎憎ーー」


 まるで怨霊のように、バルドは呟いた。

 バルドの負の感情に付け込んで、操っているのだな。


 空から見えた人影に、バルドは反応する。

 シヴァが≪飛翔(フレノア)≫で浮かび、バルドの脳天にノヴェンレビィアを振り下ろす。

 

 バルドは強引に俺の手を払い、シヴァの攻撃を躱した。

 

「隙を突いたつもりなんだけど……」


 シヴァは悔しそうにノヴェンレビィアを見つめた。


 バルドは魔力の衝撃波を見境なしに放つ。

 俺は全員に魔法障壁を展開する。その衝撃に、相手側の宝玉がピキッと音を立てて、割れた。


「ああっ!宝玉がっ!!」


「終わった……」


「それよりもだっ!!バルドの奴、自分で破壊しやがったぞっ!!」


 観客席から、落胆と怒りのような声が漏れる。

 

「がああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」


 苦しそうに、バルドは身悶えていた。

 三年生側の宝玉は破壊され、俺たちの優勝だ。だが、今の奴はまともじゃない。他の者にも影響が出てしまう。この魔法祭はバルドを止めない限り、終わらないのだ。


「シヴァ。俺と二人で、奴を抑えるぞ」


「了解」


 シヴァは頷き、隙のない構えをとる。


「憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎ーー」


 狂ったように呟いて、奴は巨大な魔法陣を描くと、黒い光が一点に集約する。

 奴が放とうとしているのは、≪深淵暗黒極絶(ディスティアス)≫。≪強制魔力強奪(デグラシアス)≫と共に、使用されるのが禁止された闇魔法だ。

 バルドは俺に標準を合わせて、放とうとする。

 

 ならばこちらもそれ相応の魔法で、対抗するまでだ。

 魔法陣を描くと、≪深淵暗黒極絶(ディスティアス)≫とは対照的に、眩い光を放った。


「≪深淵暗黒極絶(ディスティアス)≫!!」


「≪白銀彗星(マギアド・ネビュラ)≫」


 黒き大砲と、白銀の流星が衝突する。

 ≪強制魔力強奪(デグラシアス)≫を使用しているため、奴の魔力は増幅している。五分五分といったところだ。


 そこにシヴァが、切り込んでいく。バルドは一振りでシヴァを払いのけるが、一瞬気を取られ≪深淵暗黒極絶(ディスティアス)≫の威力が弱まった。


 ≪深淵暗黒極絶(ディスティアス)≫は、≪白銀彗星(マギアド・ネビュラ)≫に簡単に押し込まれて、爆発と共にバルドは吹き飛ばされた。


「ぐっ……」


 虚な目を浮かべて、バルドは起きあがろうとする。

 

「何が合ったのかは知らないけど、落ち着きなよ」


 シヴァが無駄のない剣捌きで、バルドを斬りつける。バルドすら防げないその剣才は、人間の領域をとうに越えている。ほんの僅かだが、奴の動きが止まった。

 

「≪解呪(シェル)≫」


 催眠魔法や支配魔法を解くことができる魔法だ。バルドの頭にその魔法を流し込む。操られているとするのなら、この魔法で解けるはずだ。


「……がっ……」


 バルドは苦しみ出す。奴を支配している魔法と、≪解呪(シェル)≫が激しく拮抗しているのだ。


「魔法学院最強の男なのだろう。自我をしっかり保て」


「ぐっ……ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」


 それでも、バルドは止まらなかった。

 ≪解呪(シェル)≫でも駄目となるとーー

 さて。どうしたものか。


 ん?

 バルドの瞳に何か紋様が浮かんでおり、幾つもの魔法陣が、複雑に絡み合っていた。

 一旦、バルドと距離をとる。


「なるほどな」


「ん?」


 シヴァが首を傾げる。


「シヴァ。もう一度、奴の隙を突いてくれ」


「でも、≪解呪(シェル)≫は効かなかったんだよね」


「ああ、だが何故バルドに、≪解呪(シェル)≫が効かなかったのかは分かった」

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