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決勝戦開幕

 翌朝ーー

 制服に着替えていると、コンコンとノックの音がする。


「アムル。起きてる?」


 ガチャっとドアが開くと、お母さんがエプロン姿で俺の部屋に入ってきた。


「起きてるよ。お父さんはまだ寝てるのか?」


 ここ最近、仕事が舞い込んでおり家にもあまり帰ってこられていない。しかし昨日、やっとひと段落がついたらしく、家に帰って来たのだ。

 げっそりとした顔で家に入るや否や、そのまま倒れるように眠ってしまった時は心配したものだ。今日は休日らしいのだから、家でゆっくりとくつろいでもらいたいものだ。


「はい、お弁当」


 お母さんから手作り弁当を受け取る。

 

「じゃあ、行ってくる」


「アムル。お父さんから伝言。頑張ってこい!だって」


 お母さんは笑顔で言った。

 俺もフッと笑みを浮かべる。たった一言。シンプルだが、一番言ってもらえて嬉しい言葉だ。


「ここまで来たら優勝!今日もテレビで観てるから!」


「おう」


 俺はフェルメイトへと飛んでいった。


 魔法学院に着いた俺は、ゆっくりとした足取りで修練場へと向かう。

 もうしばらくすると、三位決定戦が始まる。そこから時間を空いて、決勝戦が行われるのだ。飛び交う声がこちらにまで聞こえている。


 俺は足を止めて、後ろを振り返った。


「私がいるの、気づいてたの?」


 そこにはセリナが立っており、彼女は小走りでこちらに駆け寄ってくる。


「おはよう」


「おう」


 ゆっくり修練場へと向けて歩く。


「アムル」


「どうした?」


「昨日もらった手紙……どんな内容だったの?」


 セリナが尋ねてくる。

 そういえば、俺が手紙をもらった時も拗ねていたな。そんなに気になるものなのだろうか。

 

「ごめん。そんなこと聞くのは野暮よね。先輩だって誰にも聞かれたくないから、手紙でアムルに手渡ししたんだし」


 セリナが申し訳なさそうに言う。


「普通の手紙だったぞ」


「そうなの?」


「ああ、俺に対する想いが切実に伝わる、そんな手紙だった」


 封を開けると、四枚の便箋が入っておりぎっしりと文字が書かれていた。何度も書き直した形跡があったが、それだけの想いを込めて書いたというのが分かった。


「ふうん。そうなんだ」


「そんなことより決勝戦。絶対に勝つぞ」


 今の俺がやるべきことは、魔法祭で優勝することだ。それ以外のことを考える必要はない。


「ええ、もちろん」


 セリナも班リーダーとしての顔つきになり、頷いた。


 俺たちは観客席で、三位決定戦を観ていた。

 三年生同士の組み合わせなだけあって、かなり拮抗した試合になっている。互いの実力は把握しており、手の内も知っている。だからこそ、あと一歩が中々どうして遠いのだ。会場もヒートアップしていき、盛り上がりを見せていた。


「どこ行くんだい?」


 シヴァが尋ねてくる。


「少しお手洗いの方にな」

 

 俺は立ち上がって、ゆっくりと階段を降りた。

 セリナは気がついてたかどうかは分からんが、あの場には俺たち以外に、もう一人の魔力が背後にあった。俺が振り返ると同時に、反応は消えたがな。魔力の波長が、普通の人間とは明らかに異なっていた。少し気にしておくとしよう。


 階段を降りて少し歩くと、一つの人影があった。バルドが立っていたのだ。俺を待っていたのかのように。


「何か用か?」


 尋ねるが、返答は返ってこない。

 ただ鋭い眼で、こちらを睨みつけている。もしかすると、昨日のことで腹をたてているのか?

 俺は歩を進める。そして、彼の横を通り過ぎようとした。


「ーーぃ」


 バルドはボソッと何かを呟いた。

 あまりにもその声が小さかったので、聞こえなかったのだが。


 用事を済ませて観客席へと戻ると、修練場は拍手で包まれていた。テレビジョンに目をやると、決着がついて互いが健闘を讃えあっていた。


「今、決着がついたの。いい試合だったわ」


 セリナも拍手を送りながら、見つめていた。

 

「魔法祭決勝戦は、三〇分後を予定しております。出場チームは、控え室にて待機していてください」


 アナウンスの声が響いて、俺たちは控え室へと歩き出した。


「ふー」


「なんだよ、まだ緊張してんのかよ」


「当たり前でしょ、決勝戦なんだから。そう言うあんたはどうなのよ」


「してるわけないだろ」


「嘘ね。身体震えてるじゃない」


 控え室に着くや否や、一つ星の生徒はそう口にした。そのやりとりに、俺は思わず笑みを浮かべた。


「なに笑ってるのよ?」


「いや、すまない。出会った当初は、小動物のように怯えていたお前たちが、こんな大舞台で普段と変わりない会話をしている光景を見たらついな」


 そんな彼らとこうして、共に魔法祭の決勝を戦おうとしているのだから感慨深いものを感じる。

 

「後ろ指を差され、ただそれを黙って耐えていただけのお前たちは、もういない」


 きっかけを与えたのが俺だとしても、それを掴んで変わろうとしたのは紛れもなく、彼らの力だ。


「お前たちは強い。事実、上級生を倒せるほどの力を持っている」


 彼らの努力を、俺は知っている。

 心が折れそうになっても、心を奮い立たせて、それを力に変えてきたのを、俺は知っている。誰かのサポートがあろうと、それを実行したのは彼らなのだから。


「只今より、決勝戦を行いますっ!両チーム、入場してくださいっ!」


 アナウンスの声が響く。


 俺は修練場の舞台に向けて、ドアノブに手をかける。


「決勝戦。勝つぞ」


「「おおっ!!」」


 目指すべきものは、ただ一つ。

 優勝を掴みとりに、俺たちは控え室を出た。

いよいよ二章もラストへ。

決勝戦は果たしてどうなるのか。

バルドは一体なんと言っていたのか?

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