一つ星のファン
「な、何が起きたんだ!?」
「分かんねぇよっ!気づいたら、たった一人で瞬殺しちまいやがったっ!!」
「さすがは前回、魔法祭の優勝に導いた最強の男!!実力が違うぜ!!」
会場には、今までにないくらいの大歓声が響き渡った。
何も特別なことはしていない。奴は魔力を足に集中させ、一気に相手の陣地へと切り込んでいく。その魔力を余すことなく拳に伝え、相手を次々と倒していったのだ。
緻密な魔力コントロールがなければ、為せぬ技術だ。伊達に魔法祭を優勝していないということか。
舞台へと姿を見せると、彼は悠然と控え室へと向かっていく。他の生徒も、彼の後を追うかのように去っていった。
「おいおい……≪四帝≫ですらあんなに苦労したのに、さらにその上の化け物と戦わないといけないのかよ……」
「見て……手の震えが止まんない……」
先程の試合を観戦して、一つ星の生徒らが怯えるように話していた。
「彼、強いね」
シヴァは興味深そうな目を向けながら、そう言った。
「一回戦のように、みんなで力を合わせれば勝てない相手じゃないわ」
セリナも自信に溢れたような表情を浮かべる。
「一◯五分後に、二回戦第一試合を行います。セリナ・アークネルド班と、アギナ・シュリング班は、控え室にて待機していてください」
アナウンスの声が響いた。
俺たちはゆっくりと立ち上がり、控え室へと歩き出していった。
俺たちは、特に苦戦を強いられることなく勝ち上がっていった。やはり≪四帝≫と比べると、彼らの力は劣っており、スピカたちも、初戦を勝ったことで緊張する様子もなく、本来の力を出せていた。
そして迎えた準決勝ーー
愛剣を右手に、シヴァは相手陣地に深く切り込んでいく。
「くそっ!!」
相手である、三年生の班リーダーは、悪態をついた。
目にも止まらぬ速さに、相手もシヴァを捉えることはできない。幾度となく魔法を放とうとも、機敏な動きで躱されるのだ。
シヴァはグッと足に力を入れる。大地を蹴り、迷いなく一直線に駆ける。
「捉えたっ!!」
三年の生徒は、渾身の≪電光≫を放つ。シヴァは回避という行為を捨てて、真っ直ぐ突っ切っている。低い前傾姿勢で絶えず加速しているため、今の体勢では、避けることなど不可能だ。そう、避けることはな。
「……ハッ……」
シヴァは見切ったかのように、≪電光≫を一刀両断したのだ。しかもスピードを、一切殺すことなくやってのけるのだから、恐ろしい。生徒は、動揺を隠すこともできない様子だった。
「この……」
それでも抗おうと魔法を展開しようとするが、シヴァは彼を真横をすり抜けて、一瞬で宝玉を破壊した。
「準決勝第一試合、勝者、セリナ・アークネルド班!!」
決着がつき、修練場に意識が戻ると、観戦していた二つ星の生徒たちから、戸惑いのような声が聞こえてきた。
「おい……あいつら、準決勝まで勝ちやがった……」
「相手は三年生だぞ……。去年は二つ星だったからまあ納得はいったが、……一つ星の奴らがなんで……」
「しかも二つ星の生徒が、混じってやがる。一体今年の一年は、どうなってやがんだよ……」
観客席には、また違った声も聞こえた。
「いいぞー!このまま優勝しちまえー!!」
「アムルくーん!!頑張ってー!!」
「青髪の人、ちょーかっこよくない!?」
「シヴァくんって言うらしいよ!!」
一つ星の生徒たちだ。彼らにとって、俺たちが救世主といった存在なのだろう。魔法祭が始まる前は、屍のような顔を浮かべていたのにも関わらず、今は希望に満ち溢れていた。
「応援してくれるなんて、ありがたいね」
彼らの声援に答えるべく、シヴァは爽やかな笑みを浮かべて、手を振って応じた。
「キャーッ!!!!」
彼女らは幸せそうな顔を浮かべていた。中には失神する者も見受けられた。シヴァは気づいておらず、手を振り続けている。まるでアイドルだな。
「すごい人気者じゃない」
横からセリナが話しかけてくる。
「セリナにだってファンの一人や二人、いるんじゃないか?」
「まさか。私は二つ星よ。応援されるわけないじゃない」
「じゃあ、あれを見てみろよ」
俺が指さした方向には、一つ星の男子生徒で結成されたと思われる一つの団体があった。
「セリナ様ー!」
「様!?」
セリナが素っ頓狂な声を漏らす。
「どうか我ら一つ星を、優勝にお導きくださいっ!!」
彼らは二、三年生なのだが、セリナに様付けとはな。偶像崇拝か。
「ほらな。ちゃんといたろ?セリナのファン」
「いや、あれはどう見ても、やばいファンにしか見えないんだけど」
確かに。その内、彼らの間でグッズやらなんやらと製造されていき、販売していく未来までなんとなく見えた気がした。
「≪聖女祈念隊≫のみんなも、頑張ってー!」
「聖女……?」
「祈念隊……?」
「私たちのこと……?」
スピカたちは首を横に傾げる。
≪聖祈楽園≫を行使するとき、彼女たちは祈るように手を組んでいる。彼らにはその姿が、聖女たちがまるで勝利を願っているように見えたため、≪聖女祈念隊≫という名が付けられたのだろう。良い名だ。
「なな!俺たち!俺たちに対する声援は!?」
「……が……頑張れー……」
「「小っさっ!!」」
カジムとゼノンは声を揃えて言った。
「じ、じゃあ二つ名は!?スピカたちの≪聖女祈念隊≫みたいにかっこいいやつ!?」
「……」
「「ないのかよっ!?」」
再び二人は、声を揃えて嘆いた。応援されているのには変わりないからいいだろう。
風向きは変わりつつある。一つ星の彼らが、声を張って応援できているのがその証拠だ。普段であれば、あれやこれやと文句が飛び交っていただろうが、二つ星が強く言えのは俺たちが決勝まで残っているからだ。
明日の決勝で、勝つことができれば一つ星に対する差別も、なくなりはしなくとも、ある程度は緩和することができるはずだ。
俺たちは観客席へと向かい、もう一つの準決勝の試合を観戦した。結果は言わずもがな、前回、魔法祭優勝に導いたという、奴のいるチームが圧倒的に勝ち上がった。
「なんやかんやあったが、決勝の結果はもう見えただろう」
「一つ星の奴らも、いい夢を見ることができたんじゃないか?」
もう決着がついたかのように、二つ星の生徒らが会話をしていた。
≪転移≫で修練場へ戻ってきた。すると、銀髪の男はこちらに視線を送って、
「舞台に上がってこい」
男は太い声で、俺に向けて言葉を発した。
観客席に座っている生徒も、自然とこちらに視線を向けた。
「おい……あいつが一つ星のやつを……」
「人に興味を示さないやつなのに……」
俺は立ち上がり、観客席を飛び越えて舞台へと上がる。
「アムル・シルフィルクだな?」
「ほう。俺の名を知っているのか」
「弱い奴の名前など、俺の頭には入らん」
「そうか」
俺の態度が気に食わなかったのか、男は少しムッとしたような表情を浮かべた。
「俺はバルド。バルド・グレガドールだ」
バルドは鋭い目つきを俺に向ける。
「それで、俺に何の用だ?自己紹介をするためだけに俺を呼んだのか?」
「魔法祭、この目でしかと見させてもらったぞ。一年生であれほどの実力があるものは、他に俺しかいない」
随分と自己評価が高い奴だな。相当な自信家だ。
「そんなお前と戦えることを感謝しよう。明日は正々堂々、それぞれが持つ一〇〇パーセントの力を出し切り、素晴らしい決勝戦にしよう」
そう言って、バハルはスッと右手を差し出した。
「少し早いが、試合前の挨拶だ」
「おおっ!バルドがあの一年生を認めたぞっ!」
バルドの紳士的な姿に生徒らは、拍手喝采を送った。挨拶ならば仕方がない。俺も右手を出して、バルトの右手を握った。
「そういや……こんな言葉があったな……」
バルトの右手に魔力が集約する。
「出る杭は打たれるってな」
それは俺の右手を破壊するように、爆ぜた。
「アムル!!」
セリナが血相を変えて、俺の名を呼んだ。
今目に映る光景には、一つ星の生徒も二つ星の生徒も驚きを隠せなかった。
「随分と、手荒い挨拶だな」
俺の声が聞こえ、バルドは驚愕した表情を浮かべた。俺は奴の手を離した。
「すまないな。彼は俺を、決勝で戦うに相応しい人間かどうか試していたようだ。今の爆発も軽い試験だったらしい。その証拠に、この身体には傷一つついていない。だから気にする必要など微塵もないぞ」
俺は会場全体に響き渡るように言った。
「そっか。安心した」
「一瞬、バルトがあの一つ星を殺すのかとヒヤヒヤしたぜ」
観客席から、再び声が飛び交う。
「本当に……よかった……」
セリナはしゃがみ込み、安堵したように息を吐いた。
「おい。どういうつもりだ?」
「つもりもなにも、俺を試す試験だったのだろう?」
「ふざけるな。俺はお前の手を、明日一日使えない程度に破壊しようとしたんだ。試験なわけ……」
「誰も気づいていないとでも思ったか?」
生徒や教員に怪しまれない程度に、俺はバルドと普通の会話をしているように装った。
≪爆破≫。
魔力を一点に集中させて、それを爆ぜさせることで攻撃する魔法だ。
「ここで厄介事が起きてしまっては、面倒だからな。とりあえずはお前が俺を試したということにしてやった」
俺はバルトの背中をポンポンと軽く叩き、
「明日の決勝戦。楽しみにしている」
俺は声のトーンを変えることなく、バルドに発した。冷徹な魔力を放って。魔力を瞬間、バルドには俺がどのように映ったのだろうか。まるで小動物のようにワナワナと震えていた。




