前大会優勝者
≪大波≫と≪大嵐≫が収まると、ディアスはボロボロになっていた。これではまともに戦える様子ではない。
それにしても、二人の息はこれでもかというくらいにピッタリだった。波長の違う魔法は、決して交わることはない。だが、魔力の波長を上手く噛み合わせることができれば、何十倍にも威力を上げることができる。それは奇跡を起こすのに等しいことだ。
二人の放った魔法は、融合して一つの魔法のようにディアスに襲いかかった。彼らは仲が良いからな。互いの魔力の波長を理解していたのかもしれない。
「なんかすげー上手くいったな!」
「俺ら、特訓であんな威力出せたことねぇよ!スピカたちの魔法のおかげか?」
二人は驚いたようにそう言った。
偶然だな。だが、その偶然を引き起こすことができたのも、二人だからこそなのかもしれないな。
名付けるとするのなら、≪絶海牢檻≫と言ったところか。
「や、やるじゃねぇか……」
力を振り絞るかのように、ディアスが発する。
「ちっ。≪四帝≫がこのザマとは……情けねぇぜ」
ほとんど魔力が残っておらず、両手を上げることすら叶わないようだった。
「そう自分を悲観するな」
俺は声をかけてやり、右拳を見せてやる。そこには火傷の痕があった。それは紛れもなく、ディアスの纏う、≪灼熱獄炎武装≫の魔力によるものだ。奴の魔力は僅かながらも、確かに俺にダメージを負わせたのだ。
「俺との再戦を楽しみにしていたと言ってたな。今回はこのような形になったが、今度は一対一、本気で相手をしてやる」
≪治癒≫で火傷を癒しながら、そう言った。
「けっ……ぬかせ……」
悪態をつきながらも、微かに嬉しそうに微笑みを浮かべながら、彼は気を失った。
「奴を支えてやってくれ。俺は宝玉を破壊しにいく」
「結局、いいところはお前が持っていくのな」
カジムとゼノンに、ディアスを支えてもらい、相手の陣地へと向かった。
俺の姿を見るや、護衛役を務めていた生徒が攻撃を仕掛けてくるが、魔法障壁でそれで弾いた。俺は魔力を発すると、それに当てられて護衛役の生徒は気を失った。
「はぁっ……みんなやられたんだ……」
読んでいた本をパタンと閉じて、ラドは溜息をつきながら呟くと、ゆっくりと両手を上げた。
「降参。僕らの負けだ」
「ほう」
「分かったと思うけど、僕は支援魔法しか使えなくて、戦闘には不向きなんだ……その支援魔法すらも、君の仲間にお株を取られてしまったけど……」
と、彼は自嘲するように笑った。
「さあ、宝玉さっさと壊しなよ……」
ラドがスッと道を譲った。
「じゃあ、そうさせてもらう」
宝玉に手を触れて魔力を送ると、パリンッと音を立てて、砕け散った。
「魔法祭第一回戦第一試合、勝者、セリナ・アークネルド班!!」
アナウンスの声と共に、≪転移≫の魔法で、俺たちはこの場を後にした。
修練場の舞台へ戻ると、観客席は大歓声に包まれていた。
「おいおいっ!大波乱が起きたぞっ!!」
「まさか、前回準優勝の≪四帝≫を……一年の一つ星が……」
「何か卑怯な手を……!!」
「いや!テレビジョンで観てた限りだと、そんな様子はなかったぞっ!!」
と、勝手に盛り上がっていた。
≪転移≫で、二年生もこの舞台に戻ってくる。ラド以外、全員満身創痍の様子だった。
俺たちは控え室に引き返そうとする。
「おい。待ちやがれ」
ディアスが痛みに耐えながら、ディアスが声をかけ、俺はくるっと振り返る。
「俺に勝ったんだ……俺とやる前に、負けんじゃねぇぞ」
「ああ」
エールか。ありがたく受け取っておこう。
「それともう一つ。お前らの実力なら、問題なく勝ち上がれるだろうが、おそらく決勝で当たるであろう、あの人には気をつけろよ」
「あの人?」
「前回の魔法祭優勝者だ。俺たちですら、あの人の前では赤子の手を捻るように、手も足も出なかった」
ほう。そこまでいうのか。
「分かった。頭に入れておこう」
彼に背を向けて、今度こそ控え室へと足を運んだ。控え室で待っていた教員に誘導され、俺たちは観客席に向かった。もう既に、次の試合は始まっていた。二年生と三年生の試合であるが、三年生がやや優勢といったところか。
「怪我の方は大丈夫か?」
隣に座って、試合を見ていたセリナに声をかける。今日は準決勝まで行われるため、体力は回復させておかなければならない。
「うん、大丈夫。さっきアムルにかけてもらったし」
問題ないと、彼女は笑った。
俺はふと、あることを思い出す。
「セリナ。シェスタとの戦いのこと、覚えているか?」
セリナは首を傾げる。
「覚えてるって?」
「スピカたちを守っているとき、お前の魔力が飛躍的にあがったのを感じてな。≪聖祈楽園≫とは全く別の魔力だった」
「途中までは覚えてるんだけど、最後の方はうっすらと……」
記憶を辿るように、セリナは思い出していた。
どうやら本人も曖昧なようで、あまり覚えていないらしい。
「そうか」
「なんか、ごめんね」
「いや、気になって聞いただけだ」
その間、次々と試合が動きを見せていた。
一年生は全員、初戦で全滅していた。圧倒的な力の前になす術なく、蹴散らされていた。
「やっぱりみんな、強いね」
椅子にもたれるように座りながら、シヴァが呟いた。
「とはいえ、≪四帝≫に比べれば劣る。油断しなければそう負ける相手ではない」
話していると、次の試合が始まろうとしていた。
「只今より、魔法祭一回戦、第四試合開始します。生徒は入場してください」
アナウンスの放送が響き、各生徒が入場する。
すると、今日一番の歓声が修練場を包み込んだ。
「出てきたっ!!」
「今日はお前を見に来たんだぞっ!!」
一人の屈強な男の姿を見て、観客は声援を送った。鍛え上げられた鋼鉄のような肉体、男にしては伸ばしすぎだと思うくらいの銀色の髪に、鋭い目つきは獰猛さを思わせる。
「それでは、第四試合目、開始!!」
彼らは≪転移≫で舞台へと飛ばされる。程なくして、試合が開始した。
それと同時に、そいつ以外の時間が止まっているのかと思わせるように、銀髪の男は一瞬で姿を消した。そしてーー
「魔法祭一回戦、第四試合、勝者、プリク・エネズエラ班の勝利!!」
試合開始僅か数十秒で、第四試合は決着がついた。




