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大海と暴風の使い手

 ゼノンとカジムは、目の前で不敵な笑みを浮かべるディアスと向かい合っていた。


「おまえらが俺の相手をしてくれんのかぁ」


 魔力を込めた鋭い目つきで、二人を睨みつけた。一瞬身を引こうとするが、グッとこらえた。


「ほう、引く気はねぇか。いいねぇ。そうでなくっちゃあ、面白くねぇよなぁ。あいつと戦う準備運動として、ちょっと相手をしてやるよ」


 そう言って、首に手を当てて太い音を鳴らした。


「全く……勢いよく返事したはいいが、アムルも俺たちになんて大役押し付けてくれてんだよ……」


「だけどそれは、アムルも俺たちに期待してくれてるってことだろう?」


「だといいけどな」


 そして、二人は戦闘態勢をとる。


「いくぜっ!!」


 ディアスの≪舞炎(エンナ)≫を放つ。燃え盛る五つの炎が出現した。二人は反魔法を展開して防いだ。


「≪業炎烈火(エンフェル)≫!」


 ディアスが魔法陣を描き、両手から業火の炎が発せられる。全てを焼き尽くさんといわんばかりに、カジムとゼノンに襲いかかった。


「≪激流砲(イブラス)≫!」


 カジムが魔法陣を描き、激流の大砲が放たれる。≪業炎烈火(エンフェル)≫は激流に飲み込まれて、鎮火した。


「≪風鋭刃(バイラン)≫!」


 ディアスの隙を突くように、ゼノンは無数の風の刃を放つ。


「ちぃっ!」


 ≪飛翔(フレノア)≫で飛び回りながら、風の刃を躱し、炎の魔法で迎撃していく。


「なら、こいつは防げるかぁっ!」


 自身を中心に魔法陣を描くと、いくつもの青い炎が揺らめいていた。


「≪青炎爆発(エルバティオ)≫!!」


 ディアスがギュッと拳を握りしめると、それに呼応するかのように青い炎が爆散していく。限界までに凝縮された青炎に魔力を送り込み、一瞬で破裂させることによって、想像を絶するまでの火力が出すことができる。


「ゼノン!俺の後ろに!」


 そう言って、カジムは魔法陣を描く。


「≪守護水球(インプラプタス)≫!」


 水球がカジムとゼノンを包み込んで、凄まじい炎の爆散から守った。水魔法は、攻撃魔法よりも防御魔法や回復魔法にこそ、力を発揮するのだ。ディアスのように、攻撃特化の相手には相性が良い。

 しかもこの一週間の特訓により、二人は魔力の繊細なコントロールを行えるようになっただけでなく、魔力そのものが強化されたのだ。

 直後、≪聖祈楽園(ベルヴァライズ・ベルン)≫の効果が、ゼイスとカジムの能力を一変させた。


「……」


 ディアスは何も発さない。ただ俯いているだけだった。


「……なあ。あの人、急に静かになったぞ……」


 その姿に、二人は不気味すら覚えた。


「……く、くくく、はははは」


 ディアスは笑いを堪えられず、高笑いをした。


「いやあ、悪い悪い。はっきり言って、舐めてたよ。お前たちは強い。≪魔力強化(マエンテ)≫の加護を受けて尚、倒せていないのだからな」


 ディアスは急に素直になり、言った。


「先ほどまでと雰囲気がまるで違うな。一つ星だと馬鹿にしていたが、俺も全力でやるとしよう。光栄に思え」


 両手で魔法陣を描き、それを己の身体に展開すると、ディアスの身体が灼熱の炎が身を纏った。桁違いまでに魔力が膨れ上がり、カジムとゼノンは絶句した。


「さて、あっさりやられるなよ」


 そう言って、ディアスは二人に魔法を放った。


「アムル。私たちはもう大丈夫」


 スピカが言った。

 念のため、魔法障壁の強度を上げ、反魔法を張り巡らせる。


「ああ、支援魔法は任せたぞ」


「うん」


 頼られたのが嬉しかったのか、言葉に弾みが感じられた。俺は≪魔力感知(ジアミ)≫で全員の魔力を探ると、セリナの魔力反応が弱まっていた。

 ≪飛翔(フレノア)≫で、セリナの元へと向かう。


「あ、アムル」


 セリナは俺の名を呼んだ。

 身体にはあちこち傷があり、よほど激しい戦いを繰り広げていたのが分かった。≪聖治癒(シ・エリエル)≫で、セリナの傷を癒していく。

聖祈楽園(ベルヴァライズ・ベルン)≫も、回復効果はあるが、こちらの方が早い。


「ありがとう」


 彼女は柔らかく微笑んだ。


「おう」


 それにしても、セリナをここまで追い詰めるとは。シェスタはかなりの実力者だったということか。

 すると、突如として空中から膨大な魔力が発せられた。あそこは、カジムとゼイスがいる場所だ。


「セリナ。俺はあいつらの元に向かう。ここは頼むぞ」


「ええ」


 俺は≪飛翔(フレノア)≫で、二人の元へと向かった。


「……ぐはっ……」


「……ぐぅっ……」


 カジムとゼイスは苦しそうに言葉を漏らす。

 ディアスの全身は炎で覆われ、まるで太陽と思わせるほどの高密度のエネルギーを発している。


「この力はあんま使いたくなかったんだよ。こいつは俺の身すらも焼き尽くしちまうからなぁ」


 ≪灼熱獄炎武装(グリモアーナ)≫。己の魔力そのものを焼き尽くすことで、爆発的に身体能力を向上させるという魔法だ。


「≪激流砲(イプラス)≫!」


「≪風鋭刃(バイラン)≫!」


 力を振り絞って二人は魔法を放つが、ディアスにとっては蚊に刺された程度のものだった。


「お前たちとの勝負、存外楽しめたぞ」


 そう言って、≪紅炎(グラン)≫を発した。

 二人は抵抗せず、目を瞑った。しかし、ディアスの攻撃は二人に届くことはなかった。


「よくやった。少し休んでいろ」


 俺は反魔法で≪紅炎(グラン)≫を防いでいた。

 反魔法を展開しつつ、二人に≪聖治癒(シ・エリエル)≫かけてやる。


「ようやく真打ちのお出ましかぁ」


 待っていたように、ディアスは不敵に笑った。


「さあ、やろうぜ。あの時の続きを!!」


 拳に紅蓮の炎を纏わせ、ディアスは俺との接近戦に持ち込んだ。俺はその拳をいなして、鳩尾に強烈な一撃を喰らわせる。


「ぐぶっ……」


 ディアスは堪らずよろめいた。


「≪雷電捕鎖(エレクナ)≫」


 雷の鎖で、相手の身体を縛る魔法だ。

 バチバチッ!っと青白い電光の鎖が、ディアスの身体を縛り上げる。


「なん……の……」


 ディアスは強引に、≪雷電捕鎖(エレクナ)≫から逃れた。しかし抜け出すのに魔力を消費したのか、疲れが見えていた。


「お前……本当になんでもできるんだな……ますます気に入ったぜ!」


 ディアスは嬉しそうに笑った。彼はずっと、俺と戦いたいと純粋にそう願っていたに違いない。


「カジム、ゼノン。準備はできたか?」


 背後にいる二人に声をかけた。

 二人は巨大な魔法陣を描いていたのだ。≪聖治癒(シ・エリエル)≫で回復させたと同時に、俺の魔力を貸してやっていたのだ。

 カジムが魔法陣を展開すると大海が荒れ狂い、ゼノンの周辺には一つの暴風が現れていた。ディアスは俺との勝負に夢中になって、気づいていなかったのだ。俺が二人に教えた、風魔法と水魔法の中で、最も威力がある魔法だ。


「≪大波(イブラオズマ)≫!」


「≪大嵐(バイゼルガ)≫!」


 二つの魔法が一斉に、ディアスへと襲いかかる。


「この……!」


 必死に抵抗するが、大波に飲み込まれ、大嵐に巻き込まれた。


「がぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!!」


 ディアスは苦しそうに悶えていた。

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