弱さは罪なんかじゃない
≪紫竜舞突≫を喰らい、海へと落下していく生徒に、魔力の羽衣を着させ、反対側の島に飛ばしてやった。≪四帝≫の三人は、ダメージは負っているものの、致命傷とまではいかなかったようだ。
ラドに施された≪魔力強化≫による、強化された魔法障壁を展開したことによって、≪紫竜舞突≫を軽減したのだろう。
彼らは即座に、≪治癒≫で負ったダメージを回復させていく。
「……っ……これだけの威力の魔法を……あんな広範囲でぶっぱなせるなんて……ふざけてやがる……」
「どうやらあれが……いや、あれこそが本来の≪紫竜舞突≫のあるべき姿なのかもしれないな」
「アーくんはやっぱり凄いねー。流石、私が見込んだ男」
シェスタは乱れた服装を整えた。
「これで残るは≪四帝≫と、護衛だけだね」
≪千里眼≫で状況を確認したシヴァは口を開いた。
「向こうが支援魔法なら、こちらも支援魔法で対抗する。スピカ、イジェル、ジェシカ、シルミー、ミラ、メリア。任せるぞ」
彼女らの方を見ると何も言わず、静かに頷いた。五人が円を描くように、それぞれの配置につき、円の中心にはスピカが立っていた。彼女たちは、祈るように胸の前に手を組んだ。
「≪身体強化≫」
「≪魔力強化≫」
「≪精神強化≫」
「≪治癒術式≫」
「≪守護術式≫」
そう言うと、彼女たちの中心に赤、青、黄、緑、白と鮮やかな光を放つ魔法陣が浮かび上がる。それらは円を描くように互いを繋ぎ合い、その力は中心に立つスピカの元へと集約する。
「…………」
スピカの額から汗が滴る。五つの魔法陣は混ざり合い、目が眩むような輝かしい光へと変換していく。
「……なんだ……?見たことねぇぞあんな魔法……」
「どうやら、複数の支援魔法を同時使用しているらしいな」
「そんなことできるわけないのにね」
そう言いながら、彼らは猛スピードでこちらに向かってきた。
「……っ……」
「敵を気にするな。今は魔法だけに集中しろ」
彼女たちも敵がすぐ目の前にいることは感じ取っている。だが、不必要な雑念が混じれば、それは魔法にも影響を与える。一瞬の動揺を感じ取ったかのように、魔法陣が崩壊していく。
「ぁ……」
スピカは情けない声を上げた。
「小僧っ!!待ってたぜっ!!オメェとの再戦をよぉっ!!」
雄叫びをあげて、ディアスが≪炎拳≫を繰り出す。大振りで荒削りではあるが、威力は申し分ない。俺は右手で、それを受け止めてやる。
「な……にぃ……!?」
渾身の≪炎拳≫を受け止められ、ディアスは動揺を隠せないでいた。俺は強引にディアスを投げつけた。
「……ぐぅ……ゴホッ……」
地面に叩きつけられ、苦しそうに咳き込んだ。スッと死角から、アレンが姿を見せた。その右手には細い刀身の剣が握られていた。
「悪いけど、あんたの相手は俺だよ」
大地を抉るように蹴り、ノヴェンレビィアをアレンに振り下ろした。アレンは剣の峰を支え、ノヴェンレビィアを受け止める。強引に薙ぎ払い、シヴァは空中で姿勢を立て直し、着地する。
「アムルくん」
「ああ、そっちは任せるぞ」
「私もいること……忘れないでね。アーくん」
シェスタが魔法陣を描いて、こちらに攻撃を仕掛けようとする。その前に、氷の矢がいくつもシェスタに向けて放たれ、魔法障壁を展開した。
「私がいることも忘れないでくださいね。先輩」
美しい白髪をサラッと払って、セリナはシェスタを睨みつける。
「ふーん。まあ、いいや。アーくんと遊ぶ前に、あなたと遊んであげる……けど……」
シェスタは魔法陣を描き、黒い球を出現させる。
「そこの支援魔法使いたちは、早急に退場してもらう」
シヴァと対峙していたアレンは、異空間からいくつもの小刀を取り出した。
「万が一支援魔法なんて使われたら、厄介だからなっ!!」
ディアスは島一帯を覆い尽くさんと、≪業紅炎≫を放った。それは全て、スピカたちに向けて、放たれた。三方向から迫り来る攻撃に、彼女たちは身動き取れないでいた。
俺は彼女たちに、最大強度の魔法障壁を展開してやる。彼女たちを襲う魔法は、魔法障壁よって阻まれて、消えた。
「おいおい……俺たちの一斉攻撃すら防ぐのかよ……」
ディアスは驚愕したように、言葉を漏らした。
「アムル……」
スピカが消え入りそうな声で、俺の名を呼ぶ。
「どうした?」
「ごめん……私たちのせいで……またアムルに負担を……」
なんだ、そんなことか。
「気にするな。今失敗したのなら、次成功させればいいだけだ」
彼女はフルフルと首を横に振る。
「無理よ。練習ですら、三割成功したぐらいなのに、本番でできるわけないじゃない!!」
スピカだけじゃない。彼女たちもそう言った面持ちだった。
「シヴァ。セリナ。二人は引き続き、その二人の相手を頼む。もし、二人が隙を見てスピカたちに攻撃を仕掛けてきても、それは無視して構わない。俺が全部対処する」
魔法で声を飛ばす。
「うん」
「ええ」
「カジム。ゼノン。二人で、あいつの相手を頼む」
俺は空中にいるディアスを見上げた。
「お、おう!」
「任された!」
幸い、この舞台は二人にとっては都合の良いステージだ。ディアスとて一筋縄ではいかないはずだ。魔法障壁を維持しつつ、俺は背を向けながら、彼女たちに話す。
「失敗をするのは怖いか?」
「うん……アムルや、シヴァは一つ星なのに、二つ星のみんなや、二年生とも互角に戦ってて……セリナは二つ星なのに、私たちと仲良くしてくれて、みんな強くて、どれだけ頑張っても追いつけないぐらい強くて……」
「強いか……。お前たちが思うほど、俺は強くないぞ」
「「えっ……?」」
彼女らは驚いたように声をあげる。
助けることができた命を、助けることができなかったし、自分の力不足で大切な人だって失った。一人は師匠だ。もう一人は……
「弱いことは罪なんかじゃない。そこから学んで、どうしていくかを考えることができれば人は強くなれる。弱いからと嘆いて、そこから何もしなくなった者こそ、本当の弱者だ」
彼女たちを奮い立たせるように、俺は声を張る。その後ろ姿はまるで、世界を救った剣聖の姿そのもので、スピカたちは目を見開いた。
「言っていたな。みんなを少しでも、サポートしたいと」
メリアがハッとする。
「その気持ちがまだ少しでも、残っているのなら、最後までやり抜け。何度失敗しても構わん。俺がお前たちを守ってやる」
彼女らは立ち上がる。
そしてもう一度、円を作った。
「≪身体強化≫
「≪魔力強化≫」
「≪精神強化≫」
「≪治癒術式≫
「≪守護術式≫」
五つの魔法陣が浮かび上がり、円を形成。そして、スピカの元へと集約する。
(弱いことは、罪なんかじゃない!)
本来、交わることがなかった魔法同士が混ざり合い、それは虹色の輝きを放つ新たな魔法として生まれ変わった。
「「≪聖祈楽園≫!!」」
彼女たちが諦めず、支援魔法に向き合ったからこそできた、彼女たちにしかできない、新たな支援魔法が、今ここに誕生した。




