剣の達人
スピカたちが≪聖祈楽園≫を発動する少し前のことーー
「……シィッ……!」
「……ハッ……!」
斬り合いをしているうちに、俺たちから離れた場所まで移動したシヴァとアレン。互いの剣が交錯して、激しく火花を起こした。衝撃で互いの身体が吹き飛んだ。
「ほう……俺の剣術について来れるやつが一年生の、一つ星のいるとはな」
表情は変えないが、少し嬉しそうにアレンは言った。そして、シヴァの持つ黒い剣に視線を移した。
「その剣……良い剣なのだろうが、何やら不気味な魔力を秘めているな……」
アレンは目を凝らして、ノヴェンレビィアを見た。
「そう思う?俺も最初はそう思ってたんだけど、使っていくうちに、徐々に馴染んできたんだよね。先輩の持つその剣も、中々の代物のようだ」
「俺の愛剣、アイネメイジス。大昔に存在してたと言われた、ペンドラという竜の牙の一部で作られた剣だ。細身ではあるが、その切れ味は、ありとあらゆるものを切り裂き、塵とする」
「確かに厄介な剣だ。だがそれは、使い主が真の力を引き出してこそだけどね」
「なに……?」
アレンは眉をピクッとひそめる。
「まさか魔法学院随一の剣の達人であるこの俺が……アイネメイジスの力を出しきれていないだと?笑わせるな、小童が」
そう言い、アレンは剣先をシヴァに向ける。
「それはやってみれば分かることさ」
シヴァもスッと構えに入る。
力感のない自然体。隙など見当たらない構えだ。
ジリジリと僅かではあるが互いの間合いを詰めつつ、隙をうかがう。
「ゆくぞ」
そう言うと、アレンは地面を蹴った。低い体勢で一気に距離を詰め、アイネメイジスを斬りあげる。シヴァは身体を反らせて、斬撃を回避した。
アレンは斬り上げた反動を利用して、クルッと回転をし横薙ぎの一閃を放つ。シヴァもノヴェンレビィアで受け止める。両者の実力はほぼ互角。剣そのものの性能もほぼ五分五分。互いの身体が弾け飛んだ。
「あの男しか歯応えがないと思ったが、お前も中々のものだ……お前には、この力を使うだけの価値がある男と見た……」
アレンはアイネメイジスに魔力を込める。剣を中心に風が渦を巻いていた。木の枝が、その風に飲み込まれると、木っ端微塵に切り裂かれた。
「レグシエント家秘伝技、風の舞ーー≪鎌鼬≫」
アレンが大きく剣を振り上げる。
「ハアッ……!!」
鋭く剣を振り下ろすと、荒れ狂う風の刃が、地面を抉り取るように削っていき、シヴァへと襲いかかった。シヴァはノヴェンレビィアと≪鎌鼬≫を衝突させる。
「……ッ……」
何かを察したのか、シヴァはノヴェンレビィアをサッと引いた。≪鎌鼬≫は、シヴァの頬と髪に僅かに掠って、後方に飛んでいった。
木々を切り裂き、彼方まで続く海すらも切り裂いていった。
「≪鎌鼬≫に触れた瞬間、即座に察知して剣を引いたか。お前の考えていた通り、あのまま衝突させていれば、お前の剣は真っ二つに折れていた」
「……どうやらそのようだね」
シヴァは頬からツーっと滴る血を拭いながらノヴェンレビィアを見つめて、そう言った。
加えて、ラドの≪魔力強化≫が上乗せされていることにより、普段の何倍にも威力を高めているのだ。
「これでもまだ、こいつの真の力を引き出せてはいないと?」
シヴァを睨みつけるようにして、アレンは言った。
「ああ」
「そうか。ならば、その考えごと、貴様を葬ってやろう」
アイネメイジスに再び、荒れ狂う風の刃が集約する。先程の≪鎌鼬≫もさらに威力が上がっていた。
シヴァは目を瞑り、意識を集中させる。いつも通り、力感のない自然体の構えでーー
「……ッ……!!」
アレンがアイネメイジスを振り下ろそうとした瞬間、強烈な悪寒に襲われた。目をゆっくりと開いたシヴァから放たれた底知れぬ魔力に、本能が反応してしまったのだ。
先ほどまでの、のらりくらりとした穏やかなシヴァとは違い、まるで獲物を狙う一匹の狼のようなーー
「くっ……レグシエント家秘伝技、風の舞ーー≪鎌鼬≫!!」
その悪寒を振り払うかの如く、アレンは剣を振り下ろした。まるで台風のような、そんな斬撃がシヴァへと向かう。周辺の草木は刈り取られ、更地と化す。
シヴァはゆっくりとノヴェンレビィアを中段に構えて、横薙ぎの姿勢をとる。あくまでも、≪鎌鼬≫を斬るつもりだ。それを斬らなければ、シヴァにとっての勝利ではない。
ノヴェンレビィアの横薙ぎと、≪鎌鼬≫が衝突する瞬間ーー
「無に帰せ。ノヴェンレビィア」
そう静かに言うと、≪鎌鼬≫が跡形もなく、姿を消した。
「バカな……レグシエント家の秘伝技だぞ……」
驚愕したように、アレンは口を開いた。
「想願剣ノヴェンレビィア。主の思いや願いによって力を発揮する剣。あんたの攻撃を無効化しようと、剣を振ったら上手くできたみたいだ」
例え剣を破壊するだけの威力の技だろうと、無効にしてしまえば、なんら問題はない。
シヴァはホッと息をついて、滴る血を拭った。
「……確かに≪鎌鼬≫を防がれたのは予想外だが、だが負けたわけではないぞ」
アレンは異空間から剣を出現させて、取り出した。
「レグシエント家は、剣に優れた家系。それ相応の剣の貯蔵ぐらい行なっている。お前の弱点になりえる剣が必ず……」
「残念だけど、そこまでのようだよ」
そう言うと、シヴァの背後から虹色の光が木々の隙間から差し込む。
「こ、この光は……」
見たことのない輝きに、アレンは愕然とする。
「どうやらできたようだね」
その眩い光は、シヴァに恩恵を与えた。
「なっ……!≪身体強化≫に、≪魔力強化≫……複数の支援魔法を同時に使うなどっ……!」
「さて、そろそろ終わりにしようか」
力強くノヴェンレビィアを握りしめて、シヴァは地面を蹴る。≪身体強化≫によって強化されたシヴァの動きは、アレンの眼では到底追うことなど不可能だった。
「……ちぃ……!!」
舌打ちをして、アレンは手当たり次第で二本の剣を取り出して投げた。シヴァの動きが見えない以上、こうしてやけくそになるのも分からないでもない。
「こんな使われ方をして、剣も不本意だろうね」
シヴァはノヴェンレビィアで放たれた剣を弾いていく。
「くそっ……!」
アレンは、自分の身長以上ある大剣を取り出して待ち構えるが、気づいた時にはシヴァは懐に飛び込んでいた。
「……はぁっ!」
ピキッと大剣はヒビが入って粉々に砕け散る。そしてアレンも、バタっと地面に倒れ込んだ。
「……一つ……教えてくれ……」
「なに?」
「なんで俺が……アイネメイジスの力を発揮しきれないと、そう言い切れたんだ?俺は産まれてからずっと、剣を振ってきた。素振りの数なら誰にも負けない自信があった……」
アレンは己の手を見る。その手は、豆がいくつもできており、痛々しい。血豆になっている箇所もあるが、手の皮はとても厚い。それは彼が、真剣に剣と向き合ったということの証明なのだ。
「なんとなくだよ……。多分、あんたが無理しているのを、その剣が感じ取っていたんじゃないかな。剣っていうのは、主人を守るためのものだから」
「そうか……シヴァと言ったか……今回は俺の完敗だ……次は勝つぞ……」
倒れ込んだまま、アレンはそう宣言した。
「受けて立つよ……アレン先輩」
シヴァはそう言い残して、仲間の元へと向かった。




