魔法祭開幕
翌日ーー
「行ってくる」
いつも通り身支度を整えて、学院に向かおうとドアを開けようとする。
「アムル!はい、お弁当!」
お母さんが俺を呼び止めると、弁当箱を手渡した。魔法祭は、休日の二日間で行われるため今日は学食は使えないのだ。
「魔法祭頑張ってね!お母さん、行くことはできないけど、テレビから応援しているから!!」
お母さんは両手をギュッと握った。
「うん。優勝目指して頑張るよ」
「それもそうなんだけど……アムルが怪我せず無事に家に帰ってきてくれるなら、優勝だろうと負けようと、お母さんはとても嬉しいのよ……ごめんね。優勝目指すって言っているのに……」
お母さんはシュンとしたように言葉を漏らした。
「お母さんは俺を心配して言ってくれてるんだろ?大丈夫だよ」
こうして自分のことを心配してくれる母親がいるというのは、とても嬉しいことだな。
「行ってくる」
「うん!いってらっしゃい!」
お母さんは満面の笑みを浮かべて、送り出してくれた。心配性なお母さんを安心させるためにも、無傷で優勝しなくちゃな。
≪飛翔≫で、フェルメイト魔法学院へと向かった。
魔法祭が始まっていないにも関わらず、王都フェルメイトは既にお祭り騒ぎとなっており、親子連れの姿が多く見受けられる。王都の安全の確保のためか、全身鎧に身を包んでいる騎士、黒ローブを纏っている魔道士などが、監視に当たっていた。
魔法学院の門をくぐり、第一修練場の控え室に向かった。各学年ごとに控え室が設けられており、ドアを開けると殆どの生徒が待機していた。
セリナと一つ星の生徒もひと固まりになり、設置されている椅子に腰掛けていた。ただ一人を除いて。
「シヴァは?」
まさか、屋台に目を奪われているのではないだろうな。昨日屋台に行ったとはいえ、食べ物に目のないシヴァだと、ありえなくはない話だ。
「おはよう」
ドアが開くと、シヴァが立っていてこちらに向かってきた。
「てっきり屋台の方に行ったんじゃないかと思ったぞ」
「魔法祭だからね。さすがにちゃんと来るよ。それと、アムルくんに言われてた例の剣。ちゃんと持ってきたよ」
シヴァは右手に持っていた黒い剣を見せる。
俺はその剣に触れた。
「アムルくん。この剣のこと思い出したって言っていたけど……」
「想願剣ノヴェンレビィア。その名の通り、そいつの持ち主の感情、思い、願い、念いに呼応して力を発揮する」
願いや想いが、人間や魔法に与える影響は大きい。ノヴェンレビィアは、感情を全て感じ取り、姿を変える。その希望といった正の感情に満ち溢れていれば、神々しい輝きを放ち、絶望といった負の感情に襲われていれば、禍々しいオーラを放つ。
シヴァはじっとノヴェンレビィアを見つめた。
「つまり、俺次第で強くも弱くもなるってことか」
「ああ、だが気をつけろ。ノヴェンレビィアは感情をそのまま形として現れる。特に強い負の感情を抱き続ければ、そのまま負のオーラに呑み込まれ、自我を失う可能性だってあり得るからな」
要は、己の感情を常にコントロールし続けろと言うことだ。ある程度の負のオーラは、むしろ強力な剣となる。
「分かった。気をつけるよ。それにしても、なんでアムルくんがこの剣のことについて知ってるの?」
「昔、見たことがあってな」
魔城ゼルレタにて、バハルと一戦を交えていたとき、一度だけ使っているのを思い出したのだ。しかし、捨て子であったシヴァの隣に、ノヴェンレビィアがあったのかは、いささか疑問である。
「まあ、ノヴェンレビィアはシヴァの力になってくれるはずだ」
稀に魔剣や聖剣が、人を選ぶという話がある。三〇〇年の時を超えて、ノウェンレビィアがシヴァを主として認めたという可能性だってあるしな。
「アムル。そろそろ時間よ」
セリナに声をかけられる。見渡せば、他の生徒たちもぞろぞろと修練場へと向かい、歩き出していた。舞台へと出る長い廊下の前で、しばし待機する。
「ただいまより、フェルメイト魔法学院、魔法祭を開催します!生徒、入場!!」
教員の声が聞こえ、各クラスが修練場の舞台に上がっていく。三年、二年、そして一年生と順番に大歓声を浴びながら、歩いていった。
「おーい!一つ星!今年もせいぜい頑張れー!」
「せめて五分は持たせろくれよー!せっかく来てやったんだから!」
貴族の奴らが一つ星にヤジを飛ばす。
ヤジを飛ばす連中の言う通りだと、彼らは五分も持たず初戦負けを喫してしまったのだろう。笑い者にされてしまい、各学年の一つ星の生徒は俯きながら、入場していた。
列になって並ぶと、目の前に大きなトーナメント表が表示された。
「まず、トーナメントについて説明します。各クラス四チーム、全一二チームのため、四チームがシード。残りの八チームが一回戦を、順次行っていきます。今日は準決勝まで行い、明日は三位決定戦と、決勝を行う予定となります」
シードだと三回、一回戦なら四回勝ち続ければ優勝というわけか。しかし、今日だけで三回戦うというのは、中々ハードなスケジュールを組んだな。
「それでは対戦チームを決めていきます。各チームのリーダー。前に出てクジを引いてください」
リーダーが前に出て、教員が持つ箱に入っているクジを取っていく。セリナの番となった。箱に手を突っ込みながらしばらく考え込んだ後、意を決したようにクジを取った。
「Aー1」
シードではなく、一回戦の一試合目ということだ。Aー2が俺たちの対戦相手ということになるが、俺たちの対戦チームをはまだ決まっていない。次々と対戦カードが決まっていく中、次のリーダーがクジを引くと、
「Aー2」
対戦相手が決まった。
全リーダーがクジを引き終わると、
「第一試合は五分後に行います。対戦チームは修練場に、その他のチームは控え室、または観客席に移動してください」
舞台には、俺たちと対戦相手の班のみが残った。
「おう。久しぶりだな」
厳つい顔の持ち主が声を発する。
「アーくん!会いたかったー!!」
桃色の髪を可愛らしい少女は、ルンルンと嬉しそうにしながらそう口にした。目の前には、二年生ながら≪四帝≫と呼ばれる強者たちが、立ち塞がるかのように立っていた。




