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支援魔法

「アムル」


 授業前、隣に座っているセリナが俺の名を呼ぶ。


「ん?」


「ゼノンくんとカジムくん。さっきからずっとあの感じなんだけど」


 そう言って、彼女は指を差した。

 そこには、二人が顔を机に埋めるようにうつ伏せていた。微動だにしないため、中には「死んでるの?」と話している生徒もいた。


「寝ているだけじゃないか?授業が始まる頃には起きるだろう」


「いや、それは分かってるんだけど……何を裏でコソコソやっているの?」


 確信したような表情を浮かべてこちらを見る。


「誰か言ってたのか?」


「二人が教えてくれた」


 秘密の特訓と言っていたのに、あっさりと話しちゃったんだな。別に隠すことでもないんだが。


「魔法祭も近いんだから、あんまり無理させすぎないでね」


「ああ、分かってる」


「それと、スピカたちにも何かアドバイスしてあげてよ。彼女らも彼女らなりに考えているみたいだから」


 と、彼女は微笑んだ。魔法祭での俺たちのリーダーはセリナなのだ。反論はできまい。

 授業が始まるチャイムが鳴り、リエルが教室に入ってくる。ゼノンとカジムも目を覚まし、ゆっくりと顔を上げた。

 まあ、あとで話だけでも聞いてみることとしよう。


 昼休みーー

 俺は図書室を訪れた。相変わらず、本棚がズラリと並んでいる。そんな図書室で、人を探すというのは、見渡す限り本で埋め尽くされている本棚から、

 目当ての本を探し当てるぐらいに大変だろう。そんな図書室に足を運んだのは、目当ての本があったからではない。スピカたちを探していたからだ。


 昼休みに声をかけようと思ったのだが、姿が見当たらずセリナに聞いてみると「図書室にいると思うわよ」と教えてくれたので、足を運んだのだ。

 

 案外すぐに見つけることができた。

 そこには、分厚い本を持つシルミーとメリアの姿があった。


「あ、アムルくん?ここに来るなんて珍しいね」


 シルミーが言う。


「お前たちが、最近ここに足を運んでいると聞いたからな。様子を見に来たんだ」


 そう言いながら、机に座るスピカたちの元へと向かった。スピカたちも驚いたようにこちらを見ていた。周りには本がこれから読んであろう本が積まれており、俺はその一つを手に取る。


「ほう、支援魔法か」


「うん……。私たちにできることって何かなって考えた結果……みんなを少しでもサポートできたらなって……」


 メリアが小さな声で言う。


「ほら、私たちの班って支援魔法やを使える人ってあんまりいないじゃない?アムルは使えるの?」


「いや、支援魔法はあまり得意でなくてな。支援魔法を使えるやつがいるのは心強い」


 転生前はそれぞれに役割があって、支援魔法専属の魔導師がいたからな。そもそも使う機会なんてないし、使う必要もなかったのだ。


「でも、支援魔法にもいろんな種類があるんですよね」


 そう呟きながら、ミラは本をめくっていく。


 支援魔法とは、簡単に言えば個々の各能力を向上させる魔法だ。支援魔法の主な種類として≪身体強化(アグマ)≫、≪魔力強化(マエンテ)≫、≪精神強化(セシーヌ)≫、≪治癒術式(ユーリス)≫、≪守護術式(インデュ)≫の五つがある。


 身近な魔法でいうと、≪治癒(エリエル)≫や、≪聖治癒(シ・エリエル≫も支援魔法に分類されている。

 違う点を挙げるとすると、≪治癒(エリエル)≫と≪聖治癒(シ・エリエル)≫は個人にしか使えないが、支援魔法は効果範囲が広く、術者がかけたいと思った人間にその恩恵を施すことができるのだ。ただし、支援魔法が行使された状態で、別の支援魔法を重ねがけすると、上書きされた支援魔法の効果は消えてしまう。


 支援魔法は他の魔法に比べて軽視されがちだ。地味だのなんだのと文句は言われるし、術者にとって目に見える結果がでないからである。故に、使用者が減少していき、転生した今となっては使うものもほぼいないだろう。一応、授業や図書室の書物で、知識として残ってはいるがな。

 

「上書きされちゃうんならさ。支援魔法の同時使用ならどうなの?一人で、≪身体強化(アグマ)≫と≪魔力強化(マエンテ)≫を一度に行使できたら、良くない?」


「いや、それは無理だな」


「なんで?それこそ≪融合術式(アルノバ)≫で新しい魔法にしちゃえば……」


「あれは完成された魔法に、新たな魔法文字を融合させることで使える術式だ。既に完成された魔法同士を融合させようとしても、魔力の波長が違いすぎて反発しあう。無理に融合させようとすれば、暴発するだろう。そもそも魔法は、同時使用できないしな」


「んー。でもなんか効率が悪いような気がするんだよねー」


 そう言いながら、スピカは本に顔を埋める。

 

「でも発想自体は悪くないんじゃない?どうしたら暴発しないか……うーん……」

 

 イジェルは唸りながら考える。

 他の者たちも良い案がないか、必死に頭を回す。


 魔法同士を融合させることができないのは、魔力の波長が合わないからだ。≪融合術式(アルノバ)≫は展開された魔法の波長に合うように、魔法文字を組み合わせることで成り立っている。互いに主張し合う魔法同士だと、どうも相性が悪い。

 さて、どうしたものか。


「……誰かが≪融合術式(アルノバ)≫の役割を果たせばいいんじゃないのかな……」


 図書室に沈黙が続く中、メリアがそっと言った。


「支援魔法の波長を、≪融合術式(アルノバ)≫の役割をしている誰かに伝達する……」


「……つまり?」


「一人でじゃなくて……みんなで支援魔法を行使するっていうこと……」


「いや、難しいんじゃない?結局は、≪融合術式(アルノバ)≫の役割が人になっただけで、やることは変わらないんでしょ?」


 ジェシカが反論する。


「いや、≪融合術式(アルノバ)≫は融合させたいもの同士をそのまま融合させる。≪融合術式(アルノバ)≫の役割を果たす人物。仮に≪核≫としておこう。その≪核≫となった者を術者にすることで、魔法の波長をその他の魔法と同調するように調整する。っという考えか?」


 メリアは頷いた。


 要は、五つの魔法を総括する司令塔を置くことで、魔法の波長を制御し新たな魔法として生まれ変わらせるということだ。魔力の波長を合わせることで、魔法そのものに影響を与えるわけでもない。偶然にも、彼女たちの魔力の波長は似ているため、魔法を組み合わせることは雑作もないだろう。それでも、問題がないわけではない。


「その≪核≫は誰がなるべき……か……」


 最低条件として、その四つの支援魔法を使えなければいけない。五つの魔法を一人で同時に処理しなければいけないからだ。


「ひとまず一通り、支援魔法を行使してみたらどうだ?」


 やってみた結果、スピカが五つの支援魔法を展開することができた。他の者は、二つや三つの支援魔法を展開することはできたが、今のところはスピカしか≪核≫の役割を果たせないということだ。


「この魔法は、俺自身も初めて見る魔法だ。どうなるかは検討もつかない。できそうか?」


「やってみせるよ」


 スピカが言う。彼女たちも真っ直ぐこちらを見つめた。俺はフッと笑みを浮かべる。 


 魔法祭まであと四日。一つ星のみんなが、それぞれの目標を持ち、進もうとしていた。

ちょくちょく投稿時間ずれるかもです……。

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