招待
魔法祭前日ーー
「ーー今日の授業は、ここまでです。明日の魔法祭に向けて、今日はゆっくり休んでくださいね」
明日は魔法祭というのもあって、今日は早めに授業が切り上げられた。王都フェルメイトも、明日の魔法祭に向けての準備が着々と行われている。
「セリナ。この後暇か?」
「ううん。特にはないけど……どうしたの?」
教科書を片付けらながら、セリナは青い瞳をこちらに向ける。
「班員みんなで、決起集会でもやろうと思ってな」
「いいじゃない!他のみんなはもう誘っているの?」
「ああ」
全員に確認をとり、オッケーのサインはもらっている。あとはセリナだけだったのだが、この様子からだと問題はないのだろう。
≪召喚≫の魔法陣を描いて、小さな小鳥を呼び出す。
「今から友達を呼んでもいいかと、伝えてくれ」
小鳥は小さく頷くと、空いていた窓から家に向かい飛んでいった。家までかなりの距離があるが、≪召喚≫によって呼び出された使い魔は、いわば己の分身。五分あれば、お母さんにこの伝言が届くだろう。
「楽しみね。魔法祭」
「セリナの王国には、こんな行事みたいなのはあったのか?」
「……えぇ、そうね。お父様やお兄様の生誕祭とかでは、これぐらいの規模で行っていたわ」
一拍置いた後、険しそうな表情を浮かべてセリナが言った。少し気になって聞いてみただけなのだが、彼女にとってそれは地雷だったのかもしれない。
「嫌な気分にさせてしまったのならすまない」
「ううん。アムルは何も悪くないわ。気にしないで」
セリナは笑みを作った。
「それで、シヴァくんと他のみんなは……」
「スピカたちなら、第二修練場に向かったぞ。シヴァは出店で買い食いに」
シヴァもスピカたちもすぐ戻ってくると言ってたから大丈夫だろう。
しばらくして、俺が放った使い魔がこちらに向かってきた。俺の人差し指に止まると、
「了解!お母さん頑張っちゃうから、期待してね!!」
お母さんの声で使い魔が喋ると、光の粒子となって消えた。相変わらず元気だなぁ。そこがお母さんの長所でもあり、俺が自慢できる部分でもある。
「今の声……お母様?」
使い魔の声を聞いたセリナが尋ねる。
「ああ」
「とても明るい方なのね」
「誰とでもすぐに打ち解けれる人でな。セリナともすぐ仲良くなるだろうな」
「へぇ。とても楽しみだわ」
ガラガラっと教室のドアが開く。スピカたちが戻ってきたのだ。
「お疲れ。上手くいきそうか?」
「なんとかな。あとは本番でのお楽しみって感じだな」
「私たちも、ひとまず形にはなったわ」
カジムとジェシカが笑みを浮かべる。
「あとはシヴァくんだけね。まだ戻ってきていないの?」
「ふぁふぁいまー」
シヴァも器用に足を使って教室のドアを開ける。出店で買ってきたのであろう食べ物を口に詰め、両手に溢れんばかりに持っていた。
「いふぁー。いほぉんふぁふぇみへぇがあっへぇふぃっふりしふぁー」
「そうなのか。明日案内してくれよ」
「いいふぉー」
「え?シヴァくんがなんて言ったか分かったの?」
セリナが驚いたようにこちらを見た。
「いやー。色んな出店があってびっくりしたー。
そうだろ?」
リスみたいに口いっぱいに頬張り、シヴァは頷きながら、親指を立てる。
「いや、話すのなら口のもの全部飲み込んでから、話せばいいじゃない」
セリナから鋭いツッコミが飛ぶ。まさにその通りである。シヴァは口のものを、高速で咀嚼して飲み込む。
「ごめんね。色んなお店が目移りしちゃってさー。ひょっとして待った?」
「ううん。私たちも今来たところ」
「なら良かった。あ、これ食べる?」
シヴァは袋から串カツを取り出し、みんなにあげる。
「美味い」
「おいしいね」
「喜んでもらえて良かったよ」
シヴァは爽やかに笑った。
俺たちは教室を後にして、学院の外に出る。
「アムルの家って、ここからどれぐらい?」
「≪飛翔≫なら五分だな」
「それってアムルくん基準じゃないかな?」
「私……≪飛翔≫得意じゃないんですよね……」
メリアが言う。
「セドール山脈を超えないといけないからな。そこで少し時間を食うが、景色が良くてな。≪転移≫も使えるが、身体を鈍らせなくないというのもあって、登校の時は≪飛翔≫を使ってる」
「「≪転移≫でお願いっ!!」」
もったいないな。この時間帯も、眺めは最高だというのに。そんな景色よりもと、みんながそう叫ぶ。セリナは苦笑い。シヴァは興味深そうに笑っていた。
俺は≪転移≫の魔法陣を描く。
彼らの身体は、魔法陣に光に包まれてーー
「着いたぞ」
目の前には俺の家があった。
「すげ。本当に着いた」
「≪転移≫って、神の魔法だろ?もしかして、アムルも……」
「残念だが、俺は神なんかじゃないさ。至って普通の人間だ。こんなの、誰にだってできる魔法さ。今度教えてやる」
そう言うと、彼らは目を輝かせた。
「ただいま」
俺はドアを開ける。
「あ、おかえりー!早かったのね!」
お母さんが笑顔をこちらに向ける。
「お邪魔しまーす!」
俺に続こうと、カジムたちが中に入ろうとする。
「お友達も一緒なのね!待っててね。すぐに料理の支度するから……」
「≪煙幕≫」
俺を中心に白い煙が出現した。それはたちまち家の中に広がる。
「アムル!どうしたの!?急に魔法なんて使って!」
お母さんは慌てたように言う。
俺は思わず溜息を吐いてしまった。
「お母さん。まずは自分の格好を見て言ってよ」
「へっ?」
そう。今、俺の母親はバスタオル姿なのだ。こんなの、誰にも見られるわけにはいかない。俺は家に入ろうとしたカジムたちを一旦、外に追い出して、
「悪い。ちょっとだけ待っててくれ」
「お、おい。今の煙は……」
彼らが何かを言いかけていたようだが、そんなのを聞く余裕はなかった。
世界を救った剣聖とて、お母さんには勝てないんです。
何故なら、お母さんだから。異論は認めん。




