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弱音

 模擬戦を終えて昼休みを挟んだ後、いつも通り魔法学の授業を行っていた。


「グーー……スウッ……」


 授業中に相応しくない声がする。気持ちよさそうに寝息を立てながら、シヴァは机に突っ伏していた。

 「お腹空いた……」と呟きながら食堂に向かっては、大好物と言っていたカレーを時間ギリギリまで頬張っていたら、腹一杯になって眠くなるのも当然だ。

 魔法学院の学食費は、入学時に学費の中に含まれているため、どれだけ食べても関係ないのだ。だからといって授業に支障をきたすようでは本末転倒だがな。


 リエルは≪浮遊(フーマ)≫で持っていたチョークを浮かせて、シヴァの肩を叩く。≪浮遊(フーマ)≫は物質を浮かせる魔法だ。ただし、生物には使えないのが難点だ。


「ん……」


「シヴァくん。寝るのは構いませんけど、バレないようにしてくださいね」


「ふぁーい」


 欠伸を噛み殺しながら、シヴァは気の抜けた返事をする。シヴァだけでない。他の生徒もどこか上の空のような様子だった。対抗戦と違い、上級生との対決。緊張感もあったのだろうから、まあ無理もない。

 ≪睡朧甘香(アルマトリア)≫とはまた違った、昼下がりの睡魔と戦いながら、彼らは授業を受けていた。

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * *


 授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いてから、少し経った頃。俺は帰り支度を済ませていた。セリナは少し用があると言って先に帰って行った。


「アムル。ちょっといいか?」


 聞き慣れた声が耳朶を打つ。そこには、ゼノンとカジムの姿があった。


「ああ、どうした?」


 この二人が俺の元に来るなんて珍しいな。


「あー。その……なんだ……ぶっちゃけどうよ?俺たち?」


 歯切れを悪くして、頭を掻きながらゼノンが口を開く。


「どう……というと?」


「魔法祭……俺ら役に立てんのかなって思ってさ……」


「自信がない……ということか?」


 俺がそう言うと、一呼吸おいて二人は頷いた。


「今日の模擬戦を見て、ちょっとな。それに班には、アムルやセリナ、シヴァがいる。その中に俺らがいてもいいのかなって……」


 なるほど。このクラスでは上位の実力を持っていた二つ星の生徒たちが二年生の前では赤子も同然のようだった。俺たちの班も、実質俺とシヴァだけで勝ってしまったようなものだからな。果てしない高い壁のような実力の差を感じとってしまったのかもしれない。


「だから直接聞いておきたかったんだよ。俺たちの実力で、上級生に勝てるかどうかを」


 彼らは真剣な眼でこちらを見つめてくる。そんな眼をされては、嘘を言うわけにもいくまい。ここで変に持ち上げてしまっては、彼らのためにもならんだろう。


「正直に言えば、今のままではまず勝つことは不可能だろうな」


 分かってはいたが……と二人の顔が分かりやすくシュンとなる。


「勘違いするなよ。今のままでは……と言ったんだ。己の魔力を、そして魔法の理解を深めていけば、今とは比べ物にならないほどに強くなれる」


「それは分かるけどさ……魔法祭までの一週間でって……そんな上手い話があるわけないよな……」


 カジムがもしかしたら……と一縷の望みにかけると言ったように呟くが、すぐにその考えを捨てた。


「それをできるかどうかはお前たち次第だがな」


「「えっ!?」」


 二人は声を揃えて、驚きの声を上げる。

 俺はまだ教室に残っていたリエルに、話しかける。


「先生。この時間、どこか修練場は使えるのか?」


「はい。第一修練場は魔法祭の舞台にもなるため、授業以外では使えませんが、第二修練場なら空いていますよ」


 リエルが微笑む。


「分かった。ありがとう」


「もしかして特訓ですか?」


「まあ、そんなところだ」


「頑張ってください。少し贔屓目で応援させてもらいますね。このことは他言無用でお願いします」


 リエルは優しい声音で言って、口元に人差し指を当てる。


「おう」


 俺はゼノンとカジムの元に戻る。


「これから時間あるか?」


「ああ、大丈夫だ」


「俺も」


 二人に今日の予定の確認をとったところ、特に問題はない。


「第二修練場に行くぞ。力の使い方を教えてやる」


 俺たちは第二修練場へと歩いて行った。

 目的地へと足を運ぶと、俺は後ろをついてきてた二人の方を振り返り、


「まずは魔力。お前たちが出せる最大出力を出してみろ」


 俺に言われるがまま、二人は身体から魔力を発する。


「次はその魔力を放出しつつ、限界まで抑えろ。時間をかけても構わない」


「「……っ……」」


 二人は苦悶の表情を浮かべる。出力を抑えようとするが、上手くいかない。だが、押さえ込みすぎると放出が止まってしまのだ。

 ゼノンは七分。カジムは九分かかったのち、魔力放出を限界まで抑え込んだ。


「よし、楽にしていいぞ」


 俺がそう言うと、二人は魔力を解いて膝をつく。


「ハアッ、ハアッ」


 息は上がっていた。


「今は、二人の魔力の最大出力と、己の魔力を精密かつ、迅速にコントロールできるかを見させてもらった」


 最大出力を出すのは簡単だ。◯から一◯◯と力を限界まで上げればいいのだから。しかし、

一◯◯から◯にするのと、一◯◯から一にするとでは話が違う。魔力が足りず、行使ができないのは、普段から無駄な魔力を使ってしまっているからだ。この魔力コントロールができれば、無駄な魔力を消費せずに済む。


「お前たちの魔力は荒削りであるが、中々良い物だ。最大出力は申し分ない。言うならダイヤの原石だ。磨けば眩く輝くが、放置すればただの石同然だ。その力を無駄にしたくなければ、まずはこの魔力コントロールを自然にできるようになれ」


「なんかコツとかないのか?」


「ないな。魔力は人それぞれによって違う。俺のやり方で出来るとは限らん。試行錯誤を繰り返し、自分に合ったやり方を見つけろ」


 やっぱり……。と言いたげに彼らは苦笑いする。


「もし、この魔力コントロールができるようになったら、二人にある魔法を教えてやる」


 途端、彼らの目は輝いた。


「マジかっ!?」


「ああ、そのためにこの技術は最低ラインだ。できるまで、その魔法は教えてやれないな」


「秘密の特訓だなっ!おっしゃ!やってやろうぜ!」


「おうっ!」


 先ほどまで、俺に弱音を吐いていた二人の姿は、もういなかった。

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