模擬戦第二試合目
「なんか面白そうなことになっているね」
シヴァが観客席から修練場の舞台に飛び降り、こちらに歩を進めた。
「セリナ、みんなも早く来い」
俺は席に座るセリナたちに目を向けて言う。
「え、ええ。分かったわ」
急な出来事に困惑しながらも、セリナたちは≪飛翔≫で舞台に足をつける。
「ふーん。でもいいの?僕たちと戦って、自信をなくしちゃうかもしれないよ?」
クジャルは余裕の笑みを浮かべて言った。
「安心しろ。さっきの連中よりは骨のある奴らだ。それよりも今は自分たちのことを気にかけたほうがいいんじゃないか?」
クジャルは目元をピクッと動かした。
「フッ……ハハハッ!さっきの子といい、今年の一年生は面白いことを言うね!全く楽しませてくるよ!!ハハハッ!」
クジャルは堪らず大声で笑いながら言った。
「なら、もっと面白いことを言ってやろう。この模擬戦、俺たちは全員無傷で勝利してみせよう」
クジャルは目元をピクッと動かす。
「君ねぇ。自信を持つのはいいことだけど少しは自重したほうがいいよ。さっきの模擬戦見たでしょ?僕らと今の君らとでは力の差は歴然。どう足掻いたって勝ち目はないんだよ」
「後輩に一回勝っただけでそこまで言えるなんてめでたいやつだな。これを機に覚えておくといい。世の中には勝てない後輩もいるということを」
クジャルは深く息を吐いて髪を掻いた。
「いいよ。そこまで言うのなら、この模擬戦でそれ相応の教育をすることにしよう」
クジャルから笑みが消える。どうやら本気で俺たちを潰しにかかってくるようだ。
「先生。次の模擬戦は俺たちが出る。問題はないな?」
リエルは観客席に座る一年生を見た。二つ星の生徒はさっきの模擬戦を見て、力の差を感じたらしく震えていた。ノアも顔には出してはいないが、唾を呑んでいた。この現状で俺たち以外に出られる班などいないだろう。
「ええ。二年生は、クジャルくんの班が引き続きということで大丈夫ですか?」
「問題ありません」
クジャルはリエルにそう返す。
しばらくして、≪転移≫が俺たちの身体を光で包み込んだ。
≪転移≫の光が消えていく。
辺りには古い建物や見るからに使用されていない鉄道があり、レトロな雰囲気を醸し出している。
「クジャルと言ったか。好きなほうを選ばせてやる」
「じゃあ遠慮なく」
クジャルは建物が多く立ち並ぶ廃墟の方を陣地に選んだ。俺たちは背を向けて歩く。
俺たちは廃墟から少し離れた小さな集落を拠点として、宝玉を設置した。
「それでは、模擬戦第二試合目。開始っ!」
リエルの声が響く。
「とりあえずゼイスくんの班みたく、この集落全体に魔法障壁を展開する?」
セリナが尋ねる。
「そうだな。頼む」
俺がそう言うと、セリナと一つ星の数名で魔法障壁を展開した。ゼイス班との魔法障壁に比べ、強固で範囲も広い。全員成長しているということだ。
「とりあえず最優先事項は≪睡朧甘香≫よね。あれをどうにかして防がないと……」
「魔法が完成する前に俺が突っ込もうか?」
小さく手を挙げて、シヴァが言う。
クジャルたちの≪睡朧甘香≫は強力かつ広範囲であるため、展開時間に時間を要していた。おそらくシヴァの≪飛翔≫なら、間に合うだろう。
「もし魔法が飛んできたらどうするのよ?」
「斬るかぶった斬るかのどっちかしかないだろうね」
あまりの脳筋発言にセリナは絶句。一つ星の生徒たちも呆気に取られていた。肝心のシヴァはさも当たり前だと言わんばかりの様子で言っていた。
「私の≪氷結世界≫なら、彼らの陣地ごと攻撃することはできるわ。多少の時間稼ぎくらいにはなると思うけど……」
セリナが顎に手を当てて、うーんと唸る。
他の生徒も中々いい案が浮かばないようだ。
「おそらくクジャルが≪睡朧甘香≫の術式の核を担っている」
あの魔法と、クジャルの魔力の波長が限りなく似ていたからな。クジャルにダメージを与えれば、魔法陣に魔力供給を行えなくなるはずだ。
「やっぱり俺が切り込むしかないよね」
自分が行くしかないと言わんばかりの自信に満ち溢れた表情でシヴァが言った。
「あいつらの≪睡朧甘香≫を完全に無力化する。そのためにわざと≪睡朧甘香≫を使わせる」
「どうやって?」
セリナが首を傾げる。
「まあ、見ていろ」
俺はクジャルのたちの魔法が完成するのをジッと待った。
「クジャル。≪睡朧甘香≫の術式、約九割完成したわ。あとはクジャルの魔力を注ぎ込むだけよ」
「分かった」
目の前に広がる巨大な魔法陣を見て、クジャルは右手を前に出す。
「あいつ……アムルって言ったっけ?先輩への口の利き方がなってなかったよな……。ボコボコにしてやる……」
怒りに満ちた表情を浮かべて、クジャルは言った。
「≪睡朧甘香(アルマトリア≫、発動」
そう言って右手を前にかざすと、魔法陣が淡い光を放った。
「とりあえず持っておけ」
俺は≪創造武具≫で、白銀の剣を作り出して、それをシヴァに渡した。
「どうやら完成したようだな。既に術式の効果がこちらに向かってきている」
俺は廃墟の方を見た。
「え?そんな遠方の魔法陣なんて見えないわよ」
セリナが目を細め、遠くを見つめていた。他の者もそのようだ。
「全員、目を瞑っていろ」
俺に言われるがまま、セリナたちは目を瞑る。
「よし、開けていいぞ」
「え……これは……」
「今、俺が見ている世界だ。その視覚を共有している」
セリナたちは驚いたような表情を浮かべた。俺は今≪創始の聖眼≫を使用しているため、今まで決して見ることの出来なかった魔力の流れまで見えているのだから無理もないだろう。
「廃墟の方からこちらに向かっているのが分かるか?」
「あれは……魔法かな?」
「ああ、≪睡朧甘香≫だろうな」
肉眼では捉えることの出来ない粒子レベルの物質が廃墟を中心として広がっているのだ。
「それで、アムルはあれをどう防ぐっていうのよ?」
セリナが不思議そうに言う。
「約三〇〇年ほど前、ある場所に突如として巨大な竜巻が三つ出現した」
「ああ、世界滅亡クラスとも言われていた台風の事よね?各地にありとあらゆる災害をもたらしたと言われている……。原因は不明だけど、三つ同時に消滅してしまったって……」
セリナが思い出すように呟き、俺はフッと笑みを浮かべると、魔法陣を三つ出現させる。木々の軋む音が聞こえ、窓が風に叩きつけられる。
「おい……まさかこれって……」
「その巨大台風……?」
一つ星の生徒らが驚愕の声を上げる。
「しっかりと踏ん張っていろよ」
魔法障壁を展開しているとはいえ、これほどの魔法となるとあまり意味を持たない。それこそが古代魔法と言われるものなのだ。
「轟風剛嵐殲滅陣≪バイアグラジュデイス≫」
三つの巨大台風は、辺りを飲み込んでいく。それは≪睡朧甘香≫の粒子レベルの物質すらも。そして、クジャルたちのいる廃墟へと向かって行った。
「クジャル!三つの巨大な竜巻がこっちにっ!」
宝玉の近くにいたリーダーらしき生徒が声を荒げる。
「全員っ!急いで避難を!!」
時すでに遅し。≪飛翔≫で逃げようとした時には、≪轟風剛嵐殲滅陣≫の餌食となっていた。




