魔法vs剣
ありとあらゆるものを、クジャルたちが展開した≪睡朧甘香≫すらも呑み込んだ≪轟風剛嵐殲滅陣≫は、しばらくしたのちに消えた。
竜巻に閉じ込められていた生徒は、重力に身を任せるかのように空中を落下していく。どうやら気を失っていた。
≪創始の聖眼≫でその様子を見ていた俺は、彼らに魔力の羽衣を覆わせた。彼らはゆっくりと地面に身体を預けるように倒れ込み、羽衣は消えた。
「……っ……」
頭を押さえながら、クジャルはゆっくりと立ち上がった。他の生徒らも意識を取り戻していく。
「ほ、宝玉は……?」
「大丈夫。破壊はされていない……」
≪轟風剛嵐殲滅陣≫が直撃する直前、リーダーを務めている生徒が宝玉に反魔法と魔法障壁を展開させていたのだ。範囲を宝玉に縮小した分、≪轟風剛嵐殲滅陣≫を防ぐことができたのだろう。
彼らはゆっくりと立ち上がる。
「この程度でやられるほど、やわではないということか」
今もセリナたちとは≪創始の聖眼≫で見える景色を共有している。あの攻撃を受けながらも、立ち上がるクジャルたちの姿を見て、驚きを隠せないでいた。
「あ……あれは確か、世界にありとあらゆる災害をもたらしたと言われる竜巻……古代魔法ってやつか……。てっきり死んじゃうぐらいの魔法だと考えてたけど……思ったより効かないもんだね」
ダメージを負いながらも、拍子抜けだったように言葉を漏らす。
俺は右手を上に挙げて、魔法陣を描く。薄暗い空間に、小さな光の球が出現する。それはみるみる膨張していき、それに呼応するかのように眩い光を放った。
「こ……これって……」
セリナが思い出したかのように呟く。
「へぇ……」
シヴァは膨張していく光の球を見て、笑みを浮かべた。
「≪迎撃天空光弾≫ッ!!砲撃準備ッ!!」
「「おうッ!!」」
ダメージを負った身体に鞭を打って、クジャルたちは魔法陣を展開する。巨大な魔法陣が翡翠の輝きを放ち、魔力の光が一点に集中していく。
「≪白銀彗星≫」
「「≪迎撃天空光弾≫っ!!」
天から白銀の彗星が降り注ぎ、天に向けて、翡翠の光弾が放たれた。二つが衝突した瞬間、しばらくの静寂が訪れたのち衝撃波がこの空間を包んだ。
「ハアッ……ハアッ」
≪迎撃天空光弾≫を行使したクジャルたちは肩で息をしていた。俺は背後にいるセリナたちの方を向いて、
「シヴァ。あいつらの陣地に乗り込むぞ。セリナとみんなはここで宝玉を守っていてくれ」
「分かった」
「ええ」
俺はそう言い、≪飛翔≫でクジャルたちの元へと向かう。シヴァも俺の後を追った。
「さ……流石に魔力の限界……かな」
「でも、あれだけの魔法……こちらがこれだけ疲弊してるんだから向こうはもっと……」
疲労困憊の様子でクジャルは言葉を発する。
膝に手を置くものや、座り込む者もいた。
「申し訳ないけど、そちらの要望には応えることが出来なかったようだね。アムルくん」
シヴァがこちらを見て、にこやかに笑った。
「う、嘘だろ……?」
一人の生徒が信じられないと言った様子で呟く。
「あれだけの魔法だぞ……?魔力が枯渇してもおかしくない……はずなのに……」
「答えはシンプル。実力の差だ」
苦虫を噛み締めたような表情でクジャルはこちらを睨む。
「それに、一つ訂正があるクジャル。≪轟風剛嵐殲滅陣≫は大した威力ではないと言っていたが、あれは力を抑えていたからだ」
「なっ……!!」
彼らの表情が一変する。
「さきほどの≪白銀彗星≫もそうだ。たかが模擬戦で、怪我をされるのも困るからな」
力は半分ほどといったところだ。本気で古代魔法を放てば、最悪死人が出るかも分からない。しかし、二年生を圧倒させるとなると古代魔法クラスの魔法を見せつけてやる必要がある。だから、限界まで威力を抑えた古代魔法を放ったのだ。
「くそっ……」
クジャルは崩れ落ち、悔しそうに地面を叩く。
「しかし、そちらは九人。こちらは一◯人だ。人数的な有利は少なからずあるだろう」
「……何が言いたい?」
俺はクジャルたちに、≪聖治癒≫をかけてやった。彼らが負った傷はみるみる消えていき、魔力も回復していく。
「シヴァがお前たちの魔法と自分の剣術、どちらが上か知りたいらしくてな。それで決着をつけようと思っているんだ。シヴァが魔法を斬れたら俺たちの勝ち。斬れなかったらクジャル班の勝ち。
こんなもんでどうだ?」
淡々と言う俺を見て、クジャルの顔が怒りで赤く染まっていく。
「どこまで先輩をコケにすれば気が済むんだ……このクソガキ……」
さっきまでのハンデをイーブンにしたつもりなんだが、返って逆鱗に触れてしまったようだ。クジャルは一回、大きく息を吸って吐き、
「いいよ。それでケリをつけてやろうじゃないか」
向こうとしても、先輩としてのプライドがある。俺との力の差を見せつけられて、勝てないと踏みこの勝負に乗ったのだろう。
「決まりだね」
剣を器用に回し、嬉しそうにシヴァは言った。
互いに距離をとり、シヴァは剣先をクジャルたちに向ける。寸分の隙もない構えだ。
クジャルたちは魔法陣を展開する。後輩には死んでも負けないという想いを魔力に乗せて、深紅の魔法陣が浮かびあがる。
「おお」
シヴァは声を上げた。
「ビビった?辞めるなら今のうちだよ?」
体力が回復したことで、クジャルの煽り癖も戻った。
「いや、思ったより大したことないなって」
余裕な笑みを浮かべるシヴァに、クジャルは歯軋りにして、
「その顔。すぐに恐怖に変えてやるよっ!」
魔法陣から業火を纏った獅子が出現する。ゼイスたちの時とは明らかに違い、本気で怒りを込めた魔法だ。
「≪赤獅舞炎≫ッ!!」
全てを焼き尽くさんと言わんばかりに、紅蓮の獅子は一直線にシヴァへと向かう。
「スゥ……ハァッ……!」
一切無駄のない動きで一振り。紅蓮の獅子は縦に真っ二つに斬られ、あっけなくこの場から消え去っていった。
「ぼ、僕らの≪赤獅舞炎≫が……たったの一斬りで……」
クジャルは目の前に広がる現状を受け入れらない様子だった。
「お見事」
俺はシヴァに言った。シヴァは、白銀の刀身を見つめていた。
「ううん。少し刃こぼれしてる。まだまだだよ」
魔法を斬るには、それ相応の剣でなければいけない。俺が創り出した白銀の剣は、そこまでの耐久力を持ち合わせていないにも関わらず、シヴァは見事斬ってみせた。それに満足するどころか、更なる高みを目指しているとは。
「あ……ありえない……僕らが魔法に費やしてきた時間が……こんな奴らに……魔法が、魔法こそが最強なんじゃないのか……剣術なんかに魔法が……」
「魔法はあくまで手段の一つだ。魔法に優れた者もいれば、剣術、体術に優れた者もいる。どちらが強いなんてものはない。シヴァのように剣に優れたものがお前らの魔法を斬ったようにな」
「黙れっ!!」
クジャルは≪紅炎≫を放つ。俺は反魔法、魔法障壁を展開せず、俺は右手を前に出すと、≪紅炎≫は一瞬にして鎮火した。
「な……何をした……?」
「何もしていない。これで分かったろ?防御魔法を使わずとも、魔法は防げるということだ」
「……くっ……!!」
認めたくないのか、クジャルひたすら魔法を放ち続ける。俺は蚊に刺された程度の攻撃を受け続けながら、ゆっくりと歩を進める。
「くそっ!!」
クジャルは手をかざすも、俺はその手を掴む。そしてクジャルの瞳を見つめた。視線を外そうと、クジャルは目をギョロギョロさせるが俺の瞳がそれをさせない。恐怖でクジャルの瞳孔が開く。次第に、クジャルの瞳は焦点が合わなくなり白目を向いて気絶した。
軽めの殺意を込めた目で見てやったのだが、まさか気絶するとは思わなかった。残りの生徒の方を向くと、ビクッ!と身体を震わせた。
ここまで怯えてしまっては、攻撃するのも心が痛む。その場に設置された宝玉の方に向かっていく。そして魔力を送ると、パリンッ!と音を立てて宝玉は粉々に破壊された。
「模擬戦第二試合目。セリナ班の勝利です」
声が響くと、≪転移≫の魔法が発動した。




