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新入生潰し

 ゼイスたちは、古代遺跡にいた。既に半壊している古代遺跡だが、≪復元(ライジェ)≫を使うことにより、元通りの古代遺跡へと形を変えた。その上から魔法障壁を何重にも展開する。

 宝玉を設置して、ゼイスは言った。


「二年生の僕らに対する態度。気に食わなかったですね。教えてやりましょう。僕たち一年生の実力を」


「「はい!」」


 ゼイスの言葉に、彼らは想いを一つする。


「ただいまより、模擬戦第一試合を開始します。魔法祭を想定した試合のため、どちらかの宝玉が破壊されるまで試合は続行することとします。それでは、試合開始!」


 転移した空間から、ローゼの声が響く。


「ひとまず、様子を窺いましょう。先輩方の陣地には障害物がほとんどないため、宝玉を隠すということはできない。僕らが宝玉の位置を把握する前に、勝負を決めにくるはずです。攻め急いで来たところを全員で抑え込み、確実に相手を減らしていきます。陣地に≪魔力感知(ジアミ)≫を行使てください」


 生徒たちが≪魔力感知(ジアミ)≫の包囲網を敷く。ほんの僅かな魔力の反応すら見逃さないためだろう。


「念のため、古代遺跡の前で監視役を付けましょう。≪千里眼(セルネフ)≫で、向こうの陣地に動きがないか確認。何か動きがあれば報告をお願いします」


「承知しました」


 ゼイスの指示を受けた生徒数人が古代遺跡の外に向かった。

 ゼイスたちにとって二年生は未知の領域に近い。攻撃魔法、支援魔法といった全ての魔法を自分たちより一年間長く学んでいるのだ。人数的な有利があるとはいえ、下手に動けば返り討ちに遭うのは明らか。まずは防御を固め、相手の力量がどれほどかを確認する。それがゼイスのとった選択だ。初手の動きとしては、限りなく正解に近いだろう。


「……まだ動きはないんですか?」


 時間だけが経過していく中で、一向に動きがなく、ゼイスが≪思想共有(イナライズ)≫で監視役の生徒に問う。しかし、返答は返って来ない。


「……様子を見てきてください」


「は、はい」


 思い通りに事が運ばず、言葉に苛立ちを含ませながら言った。生徒は慌てて古代遺跡の外へと向かった。


「くっ。何故攻めて来ない?膠着状態で痺れを切らしたこちらが攻めてくるのを待っているのか?」


 相手の考えが分からず、ゼイスは頭を抱えながら脳を回転させる。


「ゼイス様っ!!」


 先ほど、様子を見てこいと命じた生徒が慌てた様子でゼイスの元に駆け寄ってきた。


「監視役の二人が眠らされています!」


「なに!?」


 ゼイスは驚愕の表情を浮かべて、外へと向かった。そこには、気持ちよさそうに眠っている生徒二人の姿があった。魔法障壁を抜けて、二人の元に駆け寄る。


「起きてくださいっ!聞こえていますか!?」


 肩を揺らしながら大声を発するが、起きる気配はない。


「っ!!なんですか……?この匂いは……」


 この空間に漂う甘ったるい匂いに、ゼイスは反魔法を展開しつつ、二人を引っ張り遺跡の中へと戻る。


「っ……。先ほどの匂いはしない……。なるほど、魔法障壁が展開されているこの古代遺跡にはあの匂いは入って来ないというわけですか」


 そう言って、ゼイスは唇を噛んだ。


「なるほどな」


「ねぇ。二年生はどんな魔法を使ったの?相手を眠らせる魔法なんて……」


 セリナはテレビジョンに流れる光景に戸惑いながらそう言った。

 ≪睡朧甘香(アルマトリア)≫。魔法陣より発せられた匂いが対象者の嗅覚と脳を刺激して、急激な眠気を誘う魔法だ。

 このような形での使用方法を見るのは初めてだな。


「そんな魔法陣を陣地で展開したら、二年生たちの方が……」


「あの程度の魔法なら反魔法で防げる。警戒心が弱いやつにほど効く魔法なんだ」


 おそらく、ゼイスたちが古代遺跡に入ったのを≪千里眼(セルネフ)≫で確認した時点で≪睡朧甘香(アルマトリア)≫の魔法を行使したのだろう。監視役の二人が外に出た時点で、既に香りが充満しており意識を失ってしまったのだろう。ゼイスに連絡が来なかったのもそのためだ。


 いついかなる時も警戒しろと、実践訓練の経験がない一年生に求めるのは実に酷なことなのだ。


「それに魔法障壁を展開しているとはいえ、魔法結界に比べると効果は薄い。≪睡朧甘香(アルマトリア)≫が魔法障壁をすり抜けるのも時間の問題だ」


 ゼイスはじっと考えていた。そして、覚悟を決めたように前を見た。


「≪紫竜舞突(ジルグラウノ)≫を使います。皆さん、力を貸してください」


 生徒たちに迷いはなかった。ゼイスの言葉に無言で頷いた。ゼイスが魔法陣を描く。その魔法陣に彼らもありったけの魔力を注いだ。


 古代遺跡に紫電を纏った雷が現れる。八人分の魔力が加わった≪紫竜舞突(ジルグラウノ)≫は、対抗戦の威力の比ではなかった。


「まぁーそうくるよね」


 天を舞う紫竜を見て、クジャルは呟いた。


「みんな」


 一糸乱れぬ動きで魔法陣を展開する。燃え上がるようなに輝く魔法陣にクジャルが魔力を注ぐと、深紅の獅子が出現した。


「≪紫竜舞突(ジルグラウノ)≫っ!!」


 ゼイスの声と共に、紫竜がクジャル班の元へと向かった。


「≪赤獅舞炎(レイヴシェルスタ)≫」


 紫竜を迎え撃たんとばかりに、深紅の獅子が立ち塞がる。衝突した瞬間、ゼイスたちが放った渾身の≪紫竜舞突(ジルグラウノ)≫は力なく消滅した。≪赤獅舞炎(レイヴシェルスタ)≫は、尚もゼイスたちのいる古代遺跡へと向かった。魔法障壁に凄まじい衝撃が走り、軋みをあげる。


 ゼイスたちは魔法障壁に魔力を注ぐが、威力が違いすぎる。まるで紙切れのように魔法障壁が破壊され、古代遺跡は粉々に破壊された。


「ぐわああああぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!」


 悲鳴をあげながら吹き飛ばされ、ゼイスたちは砂場に叩きつけられた。


「ほ、宝玉は!?」


 幸い、宝玉は破壊されてはいなかったが、剥き出しの状態でポツンと建っていた。≪赤獅舞炎(レイヴシェルスタ)≫の衝撃波によってか、≪睡朧甘香(アルマトリア)≫の匂いはなかった。


「みんな、大丈夫?」


 温厚な声が響く。ゆっくりと歩きながら、クジャルはゼイスの前に止まった。


「足元。掬ってくれるんじゃなかったの?」


 ゼイスは顔を上げなかった。いや、上げることができなかったのだ。どんな顔で自分を見てるのか怖かったからだろう。


「早く……宝玉を破壊してください……」


 消え入りそうな声でゼイスが言った。一刻も早くこの場から離れたい。その想いしか今のゼイスにはなかった。


「この模擬戦は毎年行われている。先生たちは魔法祭に向けての予行練習と言っているけど、生徒の間ではなんて言われてるか知ってる?」


 クジャルはゼイスの耳元に口を近づけて、


「新入生潰し」


 氷のように冷たい声でそう言った。ゼイスは戦慄する。


「新入生の中にいるんだよ。自分たちが一番強いっていう考えのやつが。同じ貴族とはいえ、上下関係ってものをこの模擬戦を機に、先輩が教えてあげるんだよ。僕らも去年、メタメタにされたからね。『四帝』は別だったけど」


 クジャルはゼイスの首根っこを掴み、無理やり立たせ、鳩尾に一発入れた。


「ぐぅ……」


 ゼイスは堪らず膝をついた。


「フェルシルザ家だかなんだか知らないけどさ。頭も力もない青二才が、調子のらないほうがいいよ」


 クジャルは何撃もゼイスに拳を入れた。


「先輩に偉そうな口を聞いてごめんなさいって言えば、許してあげるよ」


 瞬間、ローゼの声が響く。


「クジャルくん。やりすぎです。彼はもう戦えない。早く宝玉を破壊しなさい」


「よかったね。先生が助けてくれて」


 クジャルは宝玉の方へと歩き、触れた。宝玉が破壊された瞬間、その世界は崩壊して第一修練場に転移された。


「ゼイスくんっ!大丈夫ですか!?」


 リエルがゼイスに声をかける。どうやら意識はあるようだ。他の生徒もダメージは負っているが意識ははっきりとしているようだ。


「クジャルくん」


 ローゼが呼ぶ。


「なぜあそこまで痛めつける必要があったのですか?」


 どうやらローゼも貴族出身のようだが、叱るべき時は同じ貴族にも厳しく接する。貴族ではまともな教員のようだ。


「すみません。思ったよりも彼らが弱かったので。次からは気をつけます」


 口ではそう言うが、態度はまるで反省していない。


「とりあえず保健室に……」


「そこまでする必要はない」


 俺は観客席から飛び降り、ゼイスの元に向かった。


「笑いに……来たんですか……?」


 俺は右手を伸ばし、≪聖治癒(シ・エリエル)≫でゼイスの傷を治す。


「いや、よく戦った。相手の方が何枚も上手だったとしか言えん」


「なぜ……笑わない?僕は、君らを貶し……挙句の果てには殺そうとすらしたんですよ……?」


「そんな過去のことなど気にしては生きていけない。もし気に病んでいるのなら、これからの彼らに対する接し方を改めることだ」


 やってしまったことを消すことはできないが、それを取り返すことはできる。そう分かっていたとしても、心残りがあったからゼイスは俺に言ってきたのだろう。


「……くそっ……」


 ゼイスが悔しそうに言う。


「馬鹿にされたことが悔しいか?」


 目元を覆っているゼイスを見て、俺は尋ねる。彼は無言で頷いた。


「俺もクラスメイトが馬鹿にされたのは、少々腹がたってな」


 仲間を馬鹿にされるのは二つ星だろうと、一つ星だろうと関係なく悔しいのだ。

 その様子をノアは、ジッと見つめていた。


「おや、次は君が相手してくれるのかな?」


 舐めたような目でクジャルが俺を見る。


「ああ、今度は思い通りに行くと思うなよ」

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