シヴァの家
その後は、主に体力強化の授業となった。
俺とシヴァを先頭に、セリナ、そして一つ星の生徒たちが懸命に食らいついていた。二つ星を見返すと言い切っただけあって、見上げた根性だ。
授業が終わり、生徒たちの顔は死んでいた。
「き……きつかった……」
「こんなのやってたら死ぬだろ……」
と、泣き言を言っていた。
「お疲れ」
俺はセリナに声をかけた。頬から伝う汗を拭う。
「慣れればなんとかなるものね」
他の生徒に比べ、余裕がある様子だ。魔法に対しての適応能力が高いのだろう。シヴァはセリナの先を行っているがな。シヴァは依然として爽やかな表情を浮かべており、汗一つかいていない様子だった。
レンナは一歩前に出る。
「体力はないが、根性はあるみたいだな。これからは、体力強化中心の授業になるから全員覚悟しておくように」
ポケットから新しい棒飴を取り出し、それを口に含む。そして第一修練場から姿を消した。
レンナの授業が終わってから、リエルの魔法学の授業が行われたが、ほとんどの生徒は先程の授業の影響か、意識が飛んでいたようだった。
「アムルくん。ちょっといい?」
放課後、シヴァが声をかけてきた。
「どうした?」
「このあと暇?ちょっと付き合って欲しいんだけど」
「ああ、いいぞ」
俺とシヴァは学院を出た。
「どこに行くんだ?」
「俺の家」
シヴァは≪飛翔≫を使う。俺もシヴァのあとを追った。向かったのは、王都フェルメイトの遥か先、深い森に囲まれながら建てられている一軒の家だった。木造式の家で、周りには畑が広がっていた。
「ただいまー」
シヴァはドアを開く。
「アムルくんも中に入ってよ」
シヴァに促され、俺も家の中に入った。そこには二人の人物がいた。年齢は七十◯歳を超えている老夫婦だ。二人は座りながらこちらを見ると、優しく微笑んだ。
「おかえり。その子は……?」
「おじいちゃん、おばあちゃん。紹介するよ。僕の友達、アムルくん」
シヴァは嬉しそうに俺を紹介する。
「……この子が……シヴァの言ってた?」
「うん。面白いやつ」
「そうか……そうか……」
お爺さんはゆっくりと立ち上がりこちらに向かってくる。そして細く、シワシワな手で俺の肩に置いた。
「これからもシヴァと仲良くしてやってくれ」
力強くそう言った。
「ああ、分かった」
老夫婦と軽く会話を交わした後、シヴァと俺は縁側で休んでいた。
「おじいちゃんとおばあちゃんにとって、俺は本当の孫じゃないんだ」
シヴァが話を切り出す。
「おじいちゃんが、一人山で歩いていると赤ん坊の俺がいたんだって」
我が子を捨てるというのは、珍しいケースではない。本来、子供というのは父と母の力を半々、どちらかの力をそのまま受け継ぎ生まれるというケースがほとんどだ。
しかし、例外がある。それは父と母の力を全く受け継かず、力を持たない状態というケース。両親の力をそれ以上に受け継ぐという二つのケースだ。
前者は両親にとって、その子供は恥さらしと同義だ。後者は子供のあまりの強大な力に、両親が嫉妬、もしくは恐怖を抱いてしまうことがあり、捨ててしまうことがあるようだ。
俺の両親は、お互い魔力をほとんど持たないにも関わらず、俺が生まれたことに対して、恐怖どころか愛情を持って育ててくれた。その点に関して、俺は恵まれていたというべきだろう。
「襲われても怪我を負わないよう、魔法で保護されてたらしいんだけどね。最後の親心みたいなものだったのかな。それと、こんなものも置かれていたんだって。ちょっと取ってくるよ」
シヴァは立ち上がり、どこかへと向かった。しばらくするとシヴァは一本の剣を持ってきた。黒い鞘に収まっている。
「僕自身、この剣を抜いたことはない。なんか抜いたらいけないような気がしてね」
シヴァは苦笑いしながら言った。
この剣は確か……。
「アムルくん?」
剣をじっと見つめたまま動かない俺を見て、シヴァは尋ねてくる。
「すまない。どこかで見覚えのある剣だと思ったんだがな」
「もしかしたら、どこかで見ているのかもしれないね」
シヴァは持ってきた剣を置く。
「シヴァは昔から剣が得意なのか?」
「得意っていうか、師匠の剣技を見よう見まねでやってるだけなんだ。師匠っていうのも俺が勝手に言ってるだけなんだけど」
「その師匠が、直接指導してくれるわけじゃないのか?」
「うん。僕はただ、ずっと見ているだけだったよ。当時は話したこともなかったから」
見るだけで師匠の剣技を模倣できるシヴァも凄いが。なるほど、シヴァの強さは師匠のおかげというわけか。一度手合わせをしてみたいものだ。
「師匠が今どうしているのかは知らないのか?」
「そうだね。昔の出来事だったたし、もしかしたら死んじゃってるかもしれないね」
シヴァはそう言いながら、立ち上がり、畑の方に向かっていく。収穫にはまだ少し早いくらいの野菜たちが実っていた。シヴァは畑を近くにある倉庫を開き、何かを取り出した。木製の剣だ。見た目は粗く、手作り感が漂っていた。
「おじいちゃんが作ってくれたんだ。それで師匠の剣技を思い出しながら、剣を振ってた」
シヴァは剣を軽く振る。ヒュン!っと鋭く空気を切り裂く音が響き、風圧がこちらまで届いた。
「ほら、アムルくんも」
シヴァは木製の剣を俺に手渡す。
「アムルくんって……剣使うの上手い方?」
「まあな」
伊達に剣聖と呼ばれてきていないからな。カリュエヴァマに選ばれるには、相当な剣技も必要とされるのだ。
「へぇ。ならいずれ、君と手合わせをしてみたいよ」
「そうだな。することがあるなら、本気でやらないとやられてしまうな」
俺はシヴァに手渡された木剣を握り、振った。




