一つ星の反論
リエルと別れ、俺は学院を出ようと階段を降りようとする。
あ、やべ。教科書忘れた。踵を返し、俺は教室へと向かった。何やら教室が騒がしいな。教室内に響く音に耳を立てる。
「お前らマジで調子乗ってんじゃねぇよ!」
「一度、本気で痛い目を見ないと分からないようだな!!」
「うるせぇな!二つ星だからってそんなに偉いのかよ!」
ゼノンが反論する。
「偉ぇよ!お前ら凡人とは違うんだよ!」
「ちょっと!!みんな落ち着いて!!」
二つ星と一つ星が、それぞれひと固まりになって言い争いをしている。その真ん中には、セリナがそれを止めようと、一人奮闘していた。
「お前らなんてカスだよ!カス!存在する価値なんてないんだよ!!」
「へぇ。俺たちはカスか」
口論が白熱するなか、シヴァは一人そう言った。読んでいた本を閉じて、立ち上がる。
「俺たちがカスなら、君たちは一体なんだろう?ゴミか、塵か……。あ、カスな俺らに負けたわけだから、君たちの方こそ存在する価値なんてないんじゃない?」
爽やかな声で、毒舌を言い放つ。
「それは、あの一つ星がいたからだろうが!あいつがいなきゃ、お前らは……」
「今の発言からして、君はアムルくんに対して、負けを認めたっていうことでいいよね?」
二つ星の生徒の苦し紛れの発言を、シヴァは笑顔を崩さず言い返す。生徒は掌を強く握りしめ、奥歯を噛み締める。
「仕方がないよ。対抗戦でアムルくんの作戦の前に手も足も出ず、魔法結界の授業ではアムルくんに見事に返り討ちにあって、そう思うのも無理はないよ」
「この……黙って聞いてりゃ……」
二つ星の生徒は床を蹴る。強く握りしめた拳を振りかぶり、シヴァの方へと走り出す。
「くらえっ!!」
シヴァの顔めがけて飛ぶ拳を、シヴァは軽く受け流す。二つ星の生徒は勢い余って、その場で盛大に転んだ。
「大丈夫?」
「ヤロウ!」
続けて攻撃を仕掛けるが、シヴァはそれを全て捌きながら、後ろをチラッと見る。そこには一つ星の生徒が集まっている場所だ。
「そこ。ちょっと危ないからどいてて」
「余所見、してんじゃねぇ!!」
苛立ちを隠せない一つ星の生徒は、右拳を突き出した。シヴァは右腕を掴み、背負い投げた。
「ガハッ……!」
叩きつけられた衝撃で、投げられた生徒は、苦しそうな声を漏らした。
シヴァは掴んでいた腕から手を離し、顔を上げる。
「盗み聞きするなんて、趣味がいいとは言えないよ」
バレてたか。魔力は完全に消していたはずなんだがな。俺は教室のドアを開く。
「アムル……」
「アムルくん……」
二つ星からは、恨めしさを込めたような声で。
一つ星からは、今にも泣きそうな声で、俺の名を呼んでいた。
「何があった?」
俺は一つ星の生徒の元へと歩いた。
「盗み聞きしてたとおりよ。あなたがいないのをいいことに、彼らがこの子たちにいちゃもんをつけてきた。ただそれだけ」
セリナが言った。
「なるほど」
俺はゆっくりと二つ星の生徒の方に振り返る。
「文句があるのなら、直接俺に言え」
言葉に少し魔力を込める。
その魔力に当てられて、二つ星の生徒は後退りする。多少の反魔法を展開しなければ、言葉に当てられて気を失ってしまうだろう。
「一つ。忠告しよう」
俺は言う。
「俺の悪口なら、好きなだけ言うといい。だが、俺の友人の悪口を言ったり、手を出そうとしようものなら……二度目はないぞ。分かったな?」
言葉により一層の魔力を込め、怒気を含んだ声でただ立ち尽くす彼らに言い放った。さすがにこれだけ釘を刺しておけば大丈夫だろう。あの中にゼイスとノアの姿はない。あの二人は二つ星のリーダー的存在だ。あの二人がいなくても、自分の頭で物事の良し悪しが判断できるようにならなくてはな。
俺は、一つ星のみんなの方を見た。
「アムル。悪い。またお前の手を借りちまった」
ゼノンが悔しそうに言う。
「ゼノン。お前はさっき、二つ星の奴に言い返していたな。それだけでも十分な進歩だ」
俺はゼノンの肩に手を置いて、軽く叩く。
「よく言い返した」
「……おう」
俺はシヴァの方に向かった。シヴァはいつも通り、気持ちのいい笑顔を浮かべて俺を見た。
「たった一言で、この場を空気を変えてしまうなんて。さすがはアムルくんだ。こんなの、誰にも真似できないよ」
爽やかな声で言う。
「俺はただ、思ったことを言っただけだ。この場の雰囲気を変えたのはお前だよ」
「いやいや、アムルくんには敵わないよ」
シヴァは首を横に振る。俺はそれを見てフッと笑みを浮かべる。
「ていうか、最初から廊下にいたなら早く入ってきなさいよ」
セリナが白い髪を払い、溜息を吐きながら俺に言った。
「なかなか入れそうな雰囲気じゃなかったからな」
「まったく……」
などとやりとりをしていると……
「セリナさんとアムルくんって、凄く仲がいいよね」
「私たちといるときは、高貴な雰囲気だけど、アムルくんと一緒のときは、すごく楽しそうだよね」
何やらコソコソと話し声が聞こえるな。
「ちょっと!何を言っているのよ!そんなことないわ!」
「ほら、こうやって恥ずかしそうに言っている時点で……」
「もー!!」
セリナは一人ぷりぷりしていた。
セリナと彼らの距離が近づいたという証だろう。この調子で、仲良くなってほしいものだ。
「セリナ。俺はもう帰るが……」
「ちょっと待って。すぐに準備するから」
セリナは、そそくさと帰り支度を始めた。
「ほら、やっぱり!」
「絶対そうだよ!」
さっきまで殺伐としていた雰囲気とは一転して、一つ星の生徒らは楽しそうに話をしていた。
この場に居づらくなったのか、二つ星の生徒も帰り支度を始める。俺も忘れていた教科書をカバンに入れる。
「じゃあな」
「じゃあね」
俺とセリナは、教室を後にする。廊下に出ると、俺は立ち止まった。
「どうしたの?」
セリナが俺に尋ねる。
「……いや、なんでもない」
俺は首を横に振り、二人で長い廊下を歩いた。




