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魔法結界の授業

 午前の授業が終わり、俺たちは大食堂に来ていた。既に大勢の生徒が、大食堂に足を運んでおり大渋滞していた。

 この場にいるのは、俺とセリナ。そして一つ星の生徒八人だ。シヴァも誘おうとしていたようだが、どこかに行ってしまい、誘えなかったらしい。

 各々、学食を頼み空いている席を見つけ、そこに腰掛ける。半分の生徒は弁当を持ってきていたらしく、それをテーブルの上に広げていた。俺は、うどんを口にする。もちもちとした食感。飲み込んでときの喉越しの良さ。ここのうどんは絶品だ。セリナも弁当なのだが、なんともまあ豪華な弁当だ。


「アムルくん。セリナさん。昨日はありがとうございました」


 箸を置き、三つ編みの少女は口を開く。


「気にする必要はない」


「そうよ。私たちは、彼らを倒すために戦っただけなんだから。私も彼らのぞんぞいな態度、腹立ってたし」


 少女は首を横に振る。


「二人がいなかったら、私たちは彼らに黙って従うことしかできなかったはずです。だから、すごく感謝しているんです」


 一つ星の生徒らは頷く。


「本当にありがとうございました」


 少女は深々と頭を下げた。


「……全員の名前を聞いてもいいか?」


「へ?」


 俺の問いに少女は情けない声を漏らす。


「自己紹介のとき、二つ星の長くつまらない話が続いていたからな。あまり覚えていない」


 少女だけでなく、一つ星の生徒らも口をぽかんと開けていた。しかし、彼らはすぐに笑顔になった。


「確かに!あいつらの親の話聞いてたって、だからなんだよって感じだよな!アハハ!」


「昨日の対抗戦なんて、手も足もでてなかったし、口だけ達者だったよね!」


「それに一つ星の今日の顔見た!?あれは傑作だったよね!」


 今まで溜まっていた鬱憤をすべて吐き出すかのように、彼らは笑い愚痴を言った。


「それじゃあ改めて。私はジェシカ。ジェシカ・アルクトラム」


 三つ編みの少女が言った。

 各々順番に名を言っていく。


 スピカ・ナッシュ。

 イジェル・ベランデ。

 シルミー・ウンラ

 ミラ・エンレ

 ゼノン・アクラシュ

 カジム・ヘルトド

 メリア・ミレンス


「あ、そうだ。言い忘れてたけど……」


 セリナが言う。


「二つ星だからって、私に敬語を使う必要ないわ。私のことは、セリナって呼んでほしい」


 セリナは青い瞳を彼らに向けて、言った。セリナが望むのは彼らとの対等な関係。一度仲間として戦った者に、立場など関係ない。


「……いいんですか?」


 ジェシカが問う。一つ星の生徒も少し騒つく。二つ星の生徒が、ここまで歩み寄ってくるとは思ってもみなかったのだろう。


「敬語はなしって言ったでしょ?ジェシカ?」


 セリナは柔らかく微笑む。


「セリナは友達があまりいなくてな。仲良くしてやってくれると助かる」


「ちょ……なに言っているのよ!?友達ならたくさんいるわ!!」


 セリナは声を荒げて、否定する。


「たくさん……ねぇ……」


 セリナが誰かと一緒にいるところは、一度も見たことはない。わざわざ見栄を張る必要もないのだがな。そう思いながら、俺をうどんを啜った。

 俺とセリナのやりとりを見て、一つ星の生徒はクスッと笑う。


「分かった。これからよろしくね。セリナ」


 ジェシカは満面の笑みで言った。


「ええ、みんなもこれからよろしくね」


 セリナも文句の付けようがない笑顔を浮かべた。

 俺は時間を確認する。昼休みが終わるまで、あと二十◯分といったところ。俺はこの光景を眺めていた。誰かと他愛のない話をしながら、食事をする。三〇〇年前では、考えられなかった光景だ。みんなと食事をするのも悪くはないな。


* * * * * * * * * * * * * * * * * **


 昼休みが終わり、午後の講義。

 いつもはリエルが講義を行っていたのだが、今教壇に立っているのは、男の教員だった。

 年齢はおおよそ、四十代半ばといったところか。身長は百八十を超えている。男性とは思えないほど痩せこけており、黒色の瞳は狐のように鋭い。茶味がかった髪を肩ほどまで伸ばし、前髪は目にかかるぐらいまで伸びている。黒のズボンに、藍色のシャツは、彼の印象をより一層暗くさせた。

 リエルは教壇から少し離れたところに立っている。


「午後の授業は、魔法結界についての授業を行います。ベイラム先生。よろしくお願いします」


 リエルが言うと、ベイラムは目にかかる前髪をさっと払い、口を開いた。


「えー……ベイラム、グーズラです……。ご紹介に預かった通り、魔法結界についての講義を始めたいと思います……」


 気怠そうな声と共に、ベイラムは魔法結界の魔法陣を描いていく。その中心にある魔法式は、魔法障壁の基礎術式か。どうやらベイラムという男は、魔法結界を専門とする教員らしい。


「魔法結界というのは……簡単に言えば、魔法障壁の上位互換です。魔法障壁に比べ、広範囲で強固な結界を展開できます……。この学院内に張られているのも、魔法結界です……」


 一つ星の生徒は、魔法陣をノートに書いていく。

 上位互換である魔法が故に、複雑な魔法式や魔法文字が組み込まれている。ノートに書き込んだところで、理解できるか怪しいところだ。

 

「ではここで……そこのあなた……」


 ベイラムは一人の生徒を指名した。一つ星の女子生徒、イジェルだ。


「は、はい」


「この魔法結界の術式を完成させてください。これでは、完全なる魔法結界ではないため……展開してもすぐに破壊されてしまいます……」


「え、えーっと……」


 イジェルは口籠る。どうやら、他の一つ星の生徒も正解が分からない様子だ。対して、二つ星の生徒らはニヤニヤと笑っている。


「分からない……のですか?」


「……すみません……」


 呆れたように、ベイラムはハァっと溜息を吐く。


「この程度も分からないのでは……この先の授業は……ついていけませんよ……」


「こんなのも分からないのかよ」


「所詮は一つ星だな」


 二つ星の生徒が減らず口を叩く。


「それ、俺が答えてもいいか?」


 俺は立ち上がり、ベイラムに言った。


「……いいでしょう」


「ベイラムの言った通り、これではすぐに破壊されてしまう。魔法障壁の基礎術式に魔法式を掛け合わせているだけで、機能していない。これでは魔法障壁以下の役割だ」


 俺は教壇に上がり、黒板に魔法文字と魔法式を足していく。


「魔法障壁の基礎術式と魔法文字を結合させる。結合された基礎術式は、通常の魔法障壁よりも何十倍もの魔力で構築され、展開される。これが魔法結界の完成形だ」


 ベイラムはしばらく黙り込んだあと、


「正解です……」


「だが、不思議だな。≪結合術式(リヴェラ)≫は、先生の授業では習っていない。にも関わらず、お前ら二つ星は、前から知ってたような様子だったな。なんでだ?」


 俺は彼らに問い詰める。


「彼らは……いずれこの国を支える者だ……。常に上を目指し、努力を惜しまず、魔法の研究に時間を費やしている……。彼らを責めるのではない……。むしろこの程度も分からない自分たちを責めろ……」


「そうだ!無知な自分を恥じろ!」


「所詮は一つ星だな」


「たかが対抗戦に一回勝ったくらいで、調子乗ってんじゃねぇよ!」


 ベイラムは忌々しそうに一つ星の生徒らを睨み、二つ星の生徒もそれに便乗した。


「みんな静かに。ベイラム先生も、一つ星のみんなを責めないでください」


「フン……。リエル先生は……、あちら側の肩を持つというのだな……」


 ベイラムは完全に貴族側の人間か。俺たちは一つ星や、リエルを敵対視しているのだろう。

 そちらがそうなら、こちらもそうさせてもらうとしよう。


「魔法研究に時間を費やしているのなら、これも分かるな?」


 俺は魔法結界の魔法陣に、新たな術式を複数書き足した。


「なっ……!これは……。結界魔法の効力が……何倍にも増している……。治癒効果も付与されている。何故だ……?」


「さて、ベイラムも気がついたように、俺は術式を書き足したことで、新たな魔法結界を作り出した。どうやって完成させたのか当ててみろ」


 俺はベイラムと二つ星の連中に向けて言った。


「≪結合術式(リヴェラ)≫では、この数の術式は結合できない……」


「では、ヒントだ。≪結合術式(リヴェラ)≫の魔法は使用していない。ベイラム。お前も知っている魔法だ」


 ベイラムは唇を噛む。


「ほら、遠慮するな。お前なら分かるだろう?」


 俺は一つ星の生徒を指差す。


「い、いや。俺は……」


「なんだ?答えられないのか?魔法研究に時間を費やしているんだろう」


 二つ星の生徒は誰も答えられないようだ。ベイラムを唸りながら、答えを導き出そうとしているが、結論までには至らないようだ。


「仕方がない。正解を教えてやろう」


 そう言うと、二つ星の生徒は俺の方をジッと見つめていた。俺はフッと笑うと、


「スピカ、イジェル、シルミー、ミラ、ゼノン、カジム、メリア、ギール、セリナ、シヴァ、それと先生。正解を教えてやる。ノートを持って俺の席に来い」


「「え……?」」


 ベイラム、そして二つ星の生徒が声を漏らす。


「ちょ……俺たちには教えてくれないのか?」


 まさか本気で教えて貰えるとでも思っていたらしい。


「俺たち一つ星を散々馬鹿にしたんだ。これぐらいバチは当たらんだろう」


「そ、そんな……」


 俺が教壇を降りようとすると、ベイラムが目の前に立ち、俺の行く先を妨害する。


「頼む……。教えてくれ……」


「教員ともあろうものが、この程度も分からない

のか?」


 ベイラムが下唇を噛む。


「悪いな。席に戻ってくれ」


 俺の席に集まってくれた彼らに謝罪をし、教壇に戻った。


「これは≪結合術式(リヴェラ)≫でなく、≪融合術式(アルノバ)≫を用いた魔法だ。魔法式と魔法文字を結合させるのではなく、融合させることによって、新たな一つの魔法式を完成させる。あとはその魔法式に魔法を組み合わせることで、強固なだけでなく、複数の効果を持つ魔法結界を構築できる」


「あっ……」


 ベイラムは、気がついたように細い目をさらに細めて、魔法陣に目をやった。


「自分の知っていることが、全てだと思うな」


 俺は教壇を降りて、教室に戻る。

 ベイラムは、溢れる怒りを必死に抑えて、生徒に目を向ける。


「今日の授業は……ここまでにします……」


 授業終了のチャイムが鳴る前にも関わらず、ベイラムは逃げるように教室を出て行った。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 小説を読んでいたら、今回の 一つ星を指さした みたいに二つ星が一つ星になっている箇所がいくつかありました、一と二は似ているのでチェックのさい見落としやすいので、ワードの文字列置換を使っ…
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