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先生

 対抗戦が終わり、魔法学の講義が始まるーー。と思っていたが、今日の授業はここまでということになった。

 二つ星の生徒たちのダメージが思ったよりも大きく、授業を受けられるような状態ではないらしい。彼らは近くにある魔法病院で治療を受けているとのことだ。


「みなさん、気をつけて帰宅してくださいね」


 リエルがそう言うと、二つ星の生徒らは帰り自宅を始め続々と教室を出て行く。


「あ、アムル君、それとセリナさん。ちょっと残ってもらってもいいですか?」


 一つ星の生徒全員が帰宅し、教室に残っているのは俺とセリナ、そしてリエルだけとなった。一体なんの用だろうか。


「対抗戦、お疲れ様でした」


 リエルは優しく微笑みながら言った。


「正直、セリナさんが入ったとはいえ、一つ星のみんなが二つ星に勝つなんて思ってもみませんでした。今までそうでしたから」


「この学院が設立してからか?」


「ええ」


 セリナは頷く。


「一つ星のみんなは、肩身が狭い思いだったと思います。上級国民……貴族の血族である彼らの反感を買わないように、何かに怯えながら過ごしていたはずです」


「いつからそんな差別が起きたんだ?」


「フェルメイト王国、そしてフェルメイト魔法学院を設立されたルシェド・フェルメイト様が王国を去ってからと言われています。そこから、貴族は国のために働いている。だから国民は、貴族の言うことを聞け、などと言う考えが浸透していったと思われます」


 力を持つものが、力なきものを蹴落としているのか。分からんな。そんなことで王国が、人が育つとはとても思えない。いつからそんな差別が起きたのか知らんが、それだとあんな性根が腐った生徒が生まれるのも納得できる。

 だが、一つだけ引っかかる。ルシェドが消息を絶ったということだ。奴は一度決めたことはやり通す男で、俺の言うことを破ったことも一切ない。それはどんな命令だったとしてもだ。

 王国を設立したからには、自身の命が尽きるまで王国を守り通すはずだ。ルシェドはなぜ、王国を去ったのだ?


「でも、だからこそ今日、あなたたちが対抗戦に勝ってくれて良かったって思います」


 リエルは笑顔を浮かべていた。


「アムル君はリーダとして、セリナさんは二つ星の生徒ですが、副リーダーとして一つ星のみんなをまとめあげてくれました。二つ星のみんなにはなかった一体感を感じました」


「先生、失礼を承知で聞いてもいいですか?」


 俺の隣にいたセリナが口を開く。


「はい、なんでしょう」


「先生って、ニつ星のみんなみたいに差別とかされないんですか?普段から、誰とでも隔てなく接しておられるので……」


 おそるおそるセリナが確認する。


「そうですね。他の先生方はそういうのはっきりしていますからね」


 リエルは苦笑いを浮かべながら、髪をいじる。

 

「私、一般の家庭で育ったんです」


「え!?」


 セリナが驚いたように言葉を漏らした。

 この学院の、ほとんどの教員が貴族の血族であり、一般家庭で育った者が教団に立つというのは、稀なケースらしい。リエルが他の教員と話している姿をあまり見かけないのは、それが原因だったのかもしれない。

 中には、一つ星の生徒への罵詈雑言や暴力を振るう教員もいるそうだ。自分たちと同じ場所に立つ、一つ星の生徒らに虫唾が走るのだろう。


「私もここの卒業生なんですよ。ここを卒業して数年間、教員になるための勉強をして、教員になりました」


「なぜ教員になろうと思ったんだ?」


 一般の家庭ということは、学生時代は一つ星を付け授業を受けてきて、今の彼らと同様、馬鹿にされ続けてきたはずだ。教員になったということは、馬鹿にしてきた奴らと同じ血を引く、子供を教えなければいけないことになる。

 それに、教員たちにも標的の的になることもあるだろう。一つ星が教員になろうことなど、貴族の奴等の性格から考えたら、陰湿な嫌がらせをするはずだ。


「あの子たちに、一つ星だってやればできるっていうことを、私が道標になってあげたいって思ったからです」


「自分がどんな辛い目に遭ったとしてもか?」


「あの子たちにだって、この先楽しい人生があるはずです。私にとって、教員がそれですから。彼らの笑顔が私にとっての何よりの生き甲斐なんですよ。だから、今日彼らの歓声を聞いた時、本当に嬉しくなっちゃって……」


 自身を顧みず、教え子たちの光となろうと、リエルは日々、貴族たちの圧力に屈することなく教団に立ち続けていたのだ。並大抵の覚悟では、志半ばで倒れてしまうのだが、全く大したものだ。

 彼女のような者が、この先の王国を強くしていき、支えて行くのだ。


「それ、私に話しても大丈夫なんですか?」


 セリナは自分が二つ星の生徒であることを気にしているのだろう。


「セリナさんは、権力で人を差別しますか?」


 セリナは首を横に振った。


「なら大丈夫です。あ、でもこの話。他の二つ星の生徒には内緒っていうことにしておいてくださいね。私の首が飛んじゃいますから」


「もちろんです」


 先生が人差し指を口まで持っていき、軽くウインクした。セリナも笑顔でそれに応じる。


「長話になってしまいましたね。それじゃあ二人とも。気をつけて帰宅してください」


「先生もなにかあったら、私たちに言ってくださいね。いつでも相談にのりますから」


「それは頼もしいですね」


 リエルは笑顔でそう言ったあと、教室を出て職員室の方へと向かった。普段よりも彼女の足取りが軽やかなように感じた。


「先生、まさか一つ星の生徒だったなんてね」


 リエルが呟く。リエルの魔力はそこら辺の教員となんら遜色はない。センスはもちろんあったのだろうが、それ以上に相当な努力も重ねてきたのだろう。その努力こそが、リエルという存在を形作っているに違いない。


「先生、大丈夫かな」


「大丈夫だ。あれだけの魔力と覚悟。そして信念を持っている人間は負けない」


「なんか。実際の体験談聞かされている気がする」


「さぁ、どうだろうな」


 俺とリエルも帰り支度を始め、誰もいない教室を後にした。

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