氷 対 炎
冷気が漂う森の中で、ノアはフッと笑う。
「あの一つ星に随分と信頼されているそうね。でも、悔しくないのかしら?」
「悔しい?」
「一つ星の指示に従わされていることによ。あなたの実力は私たちと同等。あんな一つ星の言うことなんて聞く必要がないんじゃないかしら?」
ノアは挑発するように言った。
「あいにく、二つ星だから偉いとか私はそういうの興味ないの」
「そう。二つ星同士、仲の良い友達になれそうだと思ったのに」
「アムルを、一つ星のみんなを馬鹿にする人とは、仲良くなれないし、こっちから願い下げだわ」
「まあいいわ。だったら叩きのめす」
そう言ってノアは息を吐くと、魔法陣を描く。
「あなたは氷魔法が得意なようね。でも私は≪炎の妖精≫ノア・レーズネット。私とは相性最悪よ」
ノアは余裕な笑みを浮かべた。
「確かにそうね。でもだからって、もう勝ったつもり?」
「少しそのお喋りな口を黙らせる必要がありそうね」
ノアは≪舞炎≫を放つ。空を舞うように、炎がセリナに襲いかかるが反魔法で打ち消した。
「この程度?」
今度はセリナがノアに挑発した。ノアの頬が引き攣り、新たな魔法陣を描く。
「≪業炎烈火≫!」
≪業炎烈火≫は≪舞炎≫の上位互換の魔法。大地を焼き尽くさんとする勢いだが、それも反魔法で難なく防ぐ。セリナが立っている場所を除いて、大地は焼かれ真っ黒に焦げていた。一つ星の生徒らは、展開された魔法障壁で守られているため、被害はない。
「このっ!」
再び≪舞炎≫を放つも、先程の同じような光景が続くだけだった。≪舞炎≫は弾かれ、セリナの四方八方へと飛んでいった。
「≪炎の妖精≫だっけ?名前負けしているんじゃないかしら?」
ノアは歯軋りさせながら、悔しそうな表情を浮かべる。しかし、その表情は不気味な笑みへと変貌する。ノアは、制服に隠していたひし形のペンダントを取り出す。
「私の力がこんなものだと思って?」
そう言って、ペンダントを粉々に握りつぶす。
すると、ノアの魔力が急激に高まった。
「私の魔力を抑えるための魔道具よ。あまりに強大な魔力を制御できないから、普段はこのペンダントで力の半分を封じているの」
ノアが右手を前に出す。
すると、セリナの足元に、≪業炎烈火≫で焼き尽くした大地から魔法陣が出現する。さらに、セリナが反魔法で弾いた≪舞炎≫の魔力痕が≪業炎烈火≫の魔法陣に取り込まれ、魔法陣が業火の如く燃え上がる。
「同属性の魔法痕を魔法陣に組み合わせることで、威力は数十倍にも膨れ上がる。これがレーズネット家に代々伝えられる相伝秘術≪相乗複合式≫。その秘術によってできる相伝魔法≪灼滅獄炎乱爆≫。そして私は、≪炎の妖精≫と呼ばれるほどの炎の使い手。この意味が分かる?」
つまり、セリナに勝ち目はないと言いたいのだろう。セリナの表情は変わらない。
「怖くて声も出せない?仕方ないわよね。これだけの力の差を見せつけられたら」
「本当にそう思っているの?」
セリナは口を開く。
「だとしたらあなた、私には勝てないわ」
「その減らず口も、ここまでよ」
ノアは伸ばした右手をギュッと握りしめる。
「喰らいなさい!相伝魔法≪灼滅獄炎乱爆≫!!」
セリナの足元に展開する魔法陣は紅色の輝きを放つ。その瞬間、大爆発が起きた。氷に覆われた森は獄炎によって飲み込まれ、魔法障壁も軋みをあげる。黒煙が晴れていき、セリナの姿が映りだす。
「う、嘘よ……」
「嘘だとしたら、目の前に立つ私はなんなのかしらね?」
そう言いながら、セリナは制服に付いた汚れを手で払う。
「私は全力で、≪灼滅獄炎乱爆≫を放ったはず……。なんで傷一つ付いていないのよ!」
「足元、よく見てみなさい」
ノアはセリナの足元に目をやる。
「これは……反魔法……?ありえない!相伝魔法ほどの威力が反魔法程度で防げるはずがない!」
「ノアさん……でしたっけ?魔力を抑えているって言ってたけど、それは自分だけだと思った?」
セリナはノアに向け、魔力を放つ。
「っ……!この魔力!私以上の……」
「反魔法は術を打ち消すことに特化された魔法で、魔法本来の威力を打ち消すのには向いていない。でも、魔力に天と地ほどの差があれば、反魔法でも事足りるっていうこと」
セリナは魔法陣を展開する。セリナが放つ冷気は、先程のまでとは明らかに違った。獄炎は冷気によって鎮火され、全てを凍らさんという勢いだ。ノアの身体も足から徐々に凍らせていく。
「なんで!私の炎が……。あの女の氷に劣っているというの!?」
ノアの絶叫が響く。
「言ったでしょ。もう勝ったつもりなのかって。あなたの敗因は、己の力を過信しすぎていたことね」
「……私は名家レーズネット家に生まれたのよ。負けることなんて、あってはいけないのよ!」
ノアは手を前に出し、応戦しようとするが、一歩遅かった。
「残念だけど、勝負はここまでよ」
ノアの身体は凍りつき、身動き一つ取れないでいた。
「≪絶対零度(アンブレム・レノ≫」
森は再び真っ白に染まった。
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同時刻ーー
シヴァはノアの班の生徒らと対峙していた。シヴァ一人に対して、相手は一〇数人。にもかかわらず、シヴァは笑っていた。
「おい、何笑ってやがんだ」
「いや、なんでもない。さっさとやろうよ」
「このやろ!」
一人の生徒が魔法を放つ。シヴァはそれを軽やかに躱す。まるで、野生動物を思わせるほどのしなやかな動きだ。
シヴァは一気に間合いを詰め、生徒の懐に入る。
「まずは一人」
握られた白銀の剣をふるい、軽く吹き飛ばした。
「さて、次は誰が相手かな?」
シヴァは爽やかな笑顔で言う。
「ぜ、全員だ!全員襲い掛かれ!」
ノアの代役でリーダーを任された生徒が指示を出し、一斉にシヴァに襲いかかった。それをシヴァは柔かな表情で見ていた。
そして、一閃。
シヴァの前にいく手を阻む生徒は、地面に這いつくばっていた。




