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相伝の魔法

「な、なによあれ……」


 ノアは言葉にするのもやっとの様子でそう言葉を漏らした。彼女は氷の世界と変貌した森とは逆の位置にいたため、氷漬けにされずに済んだ。

 しかし、その冷気は彼女からも感じ取れるほどの凄まじいものであり、


「誰があんな広範囲魔法を……」


「ノア様!どうやらあの魔法はセリナ・アークネルドによるもののようです!こちら側の戦力の半数が彼女の魔法によって動けなくなり、その中にはゼイス様も含まれているようです!」


 生徒の一人がノアに伝える。


「そう、ゼイスもやられてしまったのね……」


 心配しているのか、と近くにいた生徒は思っていると、くくく、とノアは声を漏らしていた。


「ゼイスがやられてしまっもの。だとしたら、副リーダである私がリーダーということになるわね」


 彼女は氷の世界と化した森に目を向ける。

 

「いいじゃない。≪炎の妖精≫と呼ばれる私の実力を示す機会だわ。みんな、湖の方へ向かうわよ」


 ノアの指示が飛び、彼女の周りにいた生徒は≪飛翔(フレノア)≫で氷の世界と化した森へ向かった。


* * * * * * * * * * * * * * * * * *


「それで、この後はどうする?」


 セリナはこちらを見て、問いかける。


「ニつ星の生徒の半数は封じた。もう半数は、ゼイスたちとは反対方向で待機しているんだろう」


 この場にノアの姿はない。東にゼイス。西にノアとグループに分かれ、挟み込み倒す算段だったのだろうか。だが、今のこの状況は向こうにいる生徒たちも大体予想がつくはず。もしかすれば、こちらに向かっているかもしれないな。


「ちょっといいかな?」


 そこには深い青髪の少年、シヴァが爽やかな声で俺の元へ歩いていた。


「向こうに二つ星の生徒がいるんだよね?」


「ああ」


 シヴァは安堵したような表情を浮かべて、


「俺が行ってもいいかな?ちょっと退屈していたところだったんだよね」


 そう言いながら大きく伸びをして、肩を回す。

 

「一人でか?」


「俺一人でも十分だと思うんだけど」


 シヴァは一つ星ではあるが、魔力はセリナともいい勝負をする。そういえば、シヴァが誰かと戦うという姿を見たことは一度もなかったな。


「分かった。向こう側はお前に任せよう」


「ありがとう。その前に一つだけお願いがあるんだけど、いいかな?」


「俺が叶えられる範囲であればな」


 シヴァはフッと笑みを浮かべた。


「何か武器を貸してくれないか?魔法も使えないことはないんだけど、武器の方が戦いやすくてね」


「何がご所望だ?」


「武器だったらなんでもいいんだけど……そうだな。剣にしてもらえると助かるよ」


「いいだろう」


 ≪創造武具(ネギラム)≫で、俺は剣を作り出す。やがて、透き通るほど美しい白銀の刀身が、この場に姿を見せた。


「綺麗……」


 セリナは刀身を見て、うっとりしたように言う。


「……いい剣だ」


 シヴァはつかを握り、一度剣を振って感触を確かめる。


「どうだ?」


「この剣。今まで使っていたどんな剣よりも使いやすいね」


 俺はフッと笑みを浮かべる。


「≪創造武具(ネギラム)≫で作ったその剣は、シヴァの魔力に合わせて作ったものだ。即席で作ったものだが、十分に役に立つだろう」


 自分の魔力に近い武器ほど扱いやすく、その武器本来の力を引き出すことができる。シヴァにとって、今握っているその剣は、自分の手のように扱いやすいだろう。白銀の刀身は、シヴァが握ることによってより一層輝きを増した。


「それじゃあ、行ってくるよ」


「あぁ、頼む」


 シヴァが穏やかな声でそう言うと、≪飛翔(フレノア)≫で西の方に向け飛んで行った。


「……てない……」


 ゼイスが苦しそうに言葉を漏らす。


「僕は……負けるわけには……いかない……」


 ピシッと氷の割れる音がする。そのひび割れは徐々に大きくなっていき、


「ぐがああああぁぁぁぁっっっっ!!」


 絶叫ともとれる雄叫びとともに、ゼイスは≪氷結世界(イルムレイン)≫から抜け出した。


「みんな下がって!」


 セリナの指示で一つ星の生徒は、ゼイスから距離をとった。


「ごめんなさい。≪氷結世界(イルムレイン)≫が破られるなんて」


 気を落としたような表情でセリナは言った。


「気にするな。あれは広範囲の敵を足止めするための魔法だ。どうしても威力は半減されてしまう」


 だが、ゼイス以外の生徒は≪氷結世界(イルムレイン)≫からは抜け出せていない。ゼイスの何よりも俺たちに負けたくないという執念が、奴を動かしているのだ。


「はあ、はあ……」


 ゼイスは息づかいを荒くしながらも、目は死んでいない。


「あら、随分と派手にやられているじゃない」


 凛とした声が響くと同時に、ノアがスッと地面に足を付け、ゼイスに言い放つ。


「次期当主がそんな有様じゃ、フェルシルザ家もお終いね」


「黙っていろ」


こんな状況にも関わらず、二人は言い争いを繰り広げていた。全く仲が良いのやら悪いのやら。


「それより、お前が指揮をとってた班はどうなった?」


「剣を持った一つ星の生徒が来て、彼らはそれの対応中。まあ、すぐに駆けつけて来るわよ」


 シヴァだな。おそらく一〇人を一人で相手することになるのだろうが、心配は無用だろう。奴も強い。


「あの氷魔法を使ったのはあなた?」


「ええ」


「そう、かなりの魔力の持ち主なのだけれど、≪炎の精霊≫と呼ばれる私に勝てるものなんていないわ」


 強気な表情を浮かべて、セリナに言い放った。


「セリナ」


「分かってる。そっちは任せるわ。こっちは任せて」


 セリナの言う通り、ノアは任せるとしよう。

 さて、その前に、

 俺は、ひとかたまりに集まっている一つ星の生徒に向け、魔法障壁を展開する。これで彼らに飛び火することはない。


 俺はゼイスに向けて言う。


「ここはセリナのノアの戦場だ。場所を変えるぞ」


「何を言って……うおっ!」


 俺はゼイスを遥か上空へと吹き飛ばす。俺も≪飛翔(フレノア)≫ゼイスの後を追った。


「ガハッ!」


 受け身を取れず、空中から地面に叩きつけられたゼイスは苦しそうな声を漏らす。


「アムル……」


「彼らがいては、互いに力を発揮できないからな。これだけ距離があれば十分だろう」


「フッ……いいだろう。見せてやる。代々フェルシルザ家に伝わる相伝の魔法を」


 眼鏡を投げ捨て、魔法陣を描いた。膨大な魔力がゼイスの元へと集まっていく。あれだけ豊かだった森は集約する魔力の衝撃によって、更地へと姿を変える。


 尚も、ゼイスの魔力が高まっていき、それに伴って魔法陣は紫紺の輝きを放つ。


「くらえ!相伝魔法≪紫竜舞突(ジルグラウノ)≫!」


 魔法陣から、紫紺の竜が出現し天を舞う。そして、遥か上空から急降下。俺に直撃して、全てを吹き飛ばすほどの衝撃波が走った。


「はあ、はあ……」


「悪くない魔法だったぞ」


「なっ……!」


 ≪紫竜舞突(ジルグラウノ)≫を直撃したのにも関わらず、平然としている俺にゼイスは口をポカンと開き、呆然としていた。


 懐かしい魔法だな。転生前、≪紫竜舞突(ジルグラウノ)≫を得意とした魔導師がいた。おそらく魔導師が、後世にその魔法を伝えたのだろう。しかし、惜しいな。


「本来≪紫竜舞突(ジルグラウノ)≫は、魔法陣に三つの魔法式を同時展開、組み込むことで魔法式が共鳴し合い、真の威力を発揮する。だがお前は、魔法式を一つしか展開していない。それでは本来の威力とは程遠い」


「ば、バカな!魔法陣に加えて、三つの魔法式を

同時展開だと!そんなことできるわけがない!魔法式の処理に追いつかず不発、下手をすれば魔力の制御を誤って死ぬのが目に見えている!」


「よく見ておけ。お前からもう一度、フェルシルザ家に本物の≪紫竜舞突(ジルグラウノ)≫を後世に伝えていくんだ」


 俺は魔法陣を描き、そこに三つの魔法式を魔法陣に組み込んでいく。ゼイスのものとは比にならないくらいの魔力の高まりだ。


「そんなことが……」


 ゼイスは悔しそうに唇を噛む。


「≪紫竜舞突(ジルグラウノ)≫」


 魔法陣からは紫紺の輝きを放つ三体の竜が出現し、ゼイスに襲い掛かった。


「ぐあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」


 ゼイスは絶叫と共にその場に倒れ込んだ。

 一応、当たる直前で威力は最小限に抑えた。あとはゼイスの魔法障壁がどれだけ頑丈なのか次第だな。

 俺は踵を返し、セリナ達の元へと向かった。

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