対抗戦
翌日。
俺たちはとある森に来ていた。
背の高い木々が一面に広がっており、日の光を遮っている。風に揺らめく樹々の音だけが耳朶を打ち、薄気味悪さを感じさせる。しかし、この森のど真ん中には、広大な土地と湖が存在しており、そこだけ木々に遮られることなく、日の光が当たっていた。
どうやらこの森も学院の所有地らしく、人の姿どころか、魔物の姿さえ見当たらない。湖がある場所まで移動したところで、リエルは口を開いた。
「今日はここで対抗戦を行います。対抗戦のルールはシンプルで、相手全員が戦闘不能になった時点で勝利ということとします。皆さん、力の限りを尽くして頑張ってください」
森の雰囲気に似合わず、リエルは穏やかな声で言った。ゼイスが俺の元へと近づき、
「いい試合にしましょう。最も、人数的なハンデというものはありますが」
「構わないさ。実践の場において、数が多い方が必ず勝つというわけではないからな」
「ほう、数では負けていても、質でなら僕ら二つ星に勝っているということですか?」
ゼイスは頬を引き攣らせる。二つ星である自分たちが一つ星なんかに負けるわけがないと言いたそうだな。それを隠すかのようにゼイスは眼鏡をくいっとあげた。
「そう聞こえたか?」
「えぇ、あまり僕らの実力を舐めないでいただきたい。確かに君がどれほど優れているのかは、試験時に把握済みです。一つ星の彼らをまとめあげるリーダーシップもさすがと言えるでしょう。しかし、」
ゼイスはキッと俺を睨みつける。
「他の者の実力は僕らより劣っている。君がどれだけ強かろうと、一人では勝つことなどできない。この対抗戦。僕たちの圧勝で幕を閉じることとなるでしょう」
ほう、よく見ているな。確かに一つ星の生徒の実力は、二つ星の生徒たちと比べると劣っている。純粋な魔力勝負であれば、間違いなく負けてしまうだろう。だがしかし、
「力がないものは頭を使う。地形を生かし、環境を生かし、相手を追い込む。それが実践というものだ。安心しろ。お前が描いている未来予想図みたいなことにはならない」
ゼイスは微笑した。
「教えてあげますよ。二つ星である僕たちの実力を」
そう言って、二つ星の生徒たちの元へと去っていった。セリナはこちらに駆け寄ってきて、
「何を言われたの?」
「僕たちが圧勝するとそう言ってきた」
「随分と舐められたものね」
セリナが強気な表情を浮かべた。一つ星の生徒らも「やってやろう!」と言う覇気のようなものを感じる。戦いにおいて、魔力はもちろん必要だが、それ以前に心の持ちようが大切なのだ。
相手に気持ちで負けていては、本来の力を十分に発揮できず、勝てるものも勝てない。逆にいえば、強い気持ちを持っている限り何かが起こる。
実践とはそういうものなのだ。
「それでは十分後に対抗戦開始の合図を送ります。各チーム準備を始めてください」
リエルの声と共に二つ星の連中は、森に姿を消した。
「アムル。私たちはどうする?」
セリナが聞いてくる。他の生徒も、真剣な面持ちでこちらを見てきた。
「俺たちはこの湖を陣地として、二つ星の奴らを迎え撃つ」
彼らは驚いたような表情を浮かべていた。
「でも、ここじゃ相手から丸見えだし、どこから狙われるか分からないよ」
「そうだよ。ここは俺たちも森の中に入って、戦うべきなんじゃ」
「いや、あの森は薄暗く視界も悪い。動きが制限されるうえ、人数的なことも考えると、俺たちはこの場から動かず迎え撃つべきだ」
人数で決まるわけではないと言ったが、こちらも戦力は限られている。無闇に特攻させて失うわけにもいかない。
「じゃあ、どうすれば……」
「ゼイス達は、人数的にも戦力的にもこちらが勝っていると考えている。慎重になって俺たちから攻撃を仕掛けてくるはずがないと、少なからず油断しているはずだ。まずはそこを突いて、奴らを森の中から引きずり出す」
* * * * * * * * * * * * * * * * * *
「へっ。あいつらがボコボコにされて、俺たちに泣いて謝る姿が目に浮かぶぜ!」
「あのアムルとかいう奴も、偉そうな口は聞けなくなるだろうな」
「もうちゃっちゃと終わらせてしまおうぜ!」
二つ星の生徒たちは、もう勝利したような雰囲気で森の中を歩いていた。彼らにとって、これは自身の力を誇示する絶好の場だとしか考えていない。ここで力を見せつければ、後々自分がクラスで中心的人物になれると考えているからだ。
それはゼイスも同様。
「僕はこの対抗戦、圧倒的力で奴らをねじ伏せる。そして僕が、このクラスの頂点に立つんだ」
そしてノアも、
「あのアムルとかいう生徒。あれは危険だわ。あいつを倒して、ゼイスも完膚なきまでに叩きのめす。絶対に負けられない……」
各々の想いが交錯する中、リエルの声が森に響いた。
「それでは、対抗戦開始!」
その合図と共に、炎、水、風、雷、氷といった属性魔法が二つ星の生徒たちに襲いかかる。
「うお!」
余裕をかましていた彼らは驚愕の表情を浮かべる。始まりの合図と共に仕掛けてくるなどと思っていなかったのだろう。完全に虚をつかれた形となり、彼らは後手に回ることになった。
「なるほど、そう来たか。だが、所詮はその場凌ぎの奇策。その戦法を続けても、魔力が尽きてお終いだ」
ゼイスは視界の悪い森の中にも関わらず、巧みに魔法を避けながら駆け抜けていく。
「妙だな。この奇策はともかく、彼らも僕らと同じように、相手の隙を突くような作戦ではないのか?このままだと、僕らに居場所を教えるようなものだぞ」
見渡すが、相手の気配は特にない。なるほど、裏をかくのではなく、あくまで真っ向勝負で倒したいということかと、ゼイスは一人納得する。
「いいだろう。僕の圧倒的な力を見せてつけやる」
「方向は湖か」
ゼイスの視界に光が差し込む。湖はもうすぐだと思い、辿り着くと、白髪の美しい少女が足場を凍らせて、湖の上に立っていた。二つ星の生徒たちも、湖に辿り着きそこに立ち尽くす少女に向けて魔法を放つ準備をする。
少女はフッと笑みを浮かべながら、魔法陣を展開する。
「≪氷結世界≫」
瞬間、湖を中心として森の半分が氷の世界へと変貌した。その場にいた彼らは準備に凍りつき、動けなくなってしまった。
「な、んだと……?」
寒さに耐えながら、震えた声でゼイスは言う。
気がつけば、半数の生徒が氷漬けにされてしまったのだ。
「だが、これだけの広範囲魔法。味方も巻き添いに……」
「よう」
ゼイスが顔を上げると、一つ星の生徒は宙に浮いていた。俺は地に足を付け、ゼイスの前に立つ。
「アムル……」
「どうだ?お前が馬鹿にした一つ星に負けた気分は?」
ゼイスは歯軋りする。
「お前はおそらく、死角から俺たちに攻撃を仕掛けるつもりだったのだろう。だが、プライドの高いお前たちは、俺たちが真剣勝負を望んでいると思い、森から姿を見せた。そこをセリナの広範囲氷魔法で一網打尽にするという算段だ」
「ふん、だが結局は二つ星であるアークネルドさんの力がないと僕らに勝てないじゃないか。一つ星の連中なんて何の役にも……」
「それは違うわ」
ゼイスの言葉をセリナが遮る。セリナは白い髪をサラッと流して青い瞳を真っ直ぐゼイスに向ける。
「気づいてた?氷漬けにされたみんながある一定の場所に集まっていたことに」
ゼイスはハッとして、同じく動けない仲間を見る。彼らは自分とかなり離れた位置で待機していたはず。何故こんなにも密集しているんだとゼイスは思考を巡らせた。
セリナは続けて言う。
「みんなの魔法で、あなたたちをこの場所に誘導したのよ。まぁ、それが実現できたのはアムルの指示のおかげなんだけどね」
「そうだよ!まさか言った通りになるなんて!」
「指示も的確で分かりやすかったもんな!」
セリナは一つ星の生徒たちを見て、柔らかく微笑んだ。
「私の≪氷結世界≫は範囲が広がるほど、威力が弱まる。だとしたら貴方たちを動けなるほどの威力は出せなかった。彼らの陽動があったからこそ、私の魔法が活きたのよ」
ゼイスは悔しそうに俯いた。
俺は一歩前に出て、ゼイスに言う。
「もう一度聞こう。どうだ?お前が馬鹿にした一つ星に負けた気分は?」
※悪役っぽい雰囲気出てますが、彼は主人公です。




