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リーダー決め

 翌朝ーー。

 歩いていると、アパートの前でセリナが小さな手鏡を手にして、前髪を直していた。次に制服の乱れがないかを最終チェック。「よしっ」と可愛い小声を漏らしながら、手鏡をしまった。

 セリナは顔を右に向けると、俺がすぐ近くにいることを知り、顔を赤くしながら、

 

「お、おはよう」


「あぁ、おはよう。顔が赤いぞ。熱か?」


「そういうわけじゃないわ。ほら、最近暑いじゃない?多分そのせいで、顔が赤くなっているんだわ」


 そう言いながら、手を自身に向けて仰ぐ。

 そんなに暑いか?むしろまだ肌寒さを感じる季節だと思うが。


「そ、そんなことより早く学院に行きましょう。遅刻してしまうわ」


「そうだな」


 入学して二日で遅刻で遅れるなどしたくはないからな。俺とセリナは学院へと足を向けた。


 教室のドアを開け、俺は席に座る。

 すると、二つ星を付けた生徒たちが俺の席を囲い込むように並び、腕を組んで俺を忌々しそうな目で睨みつけていた。


「おい。まさかとは思うが、調子にのってないだろうな?」


「一つ星のやつらがなんと言おうと、一つ星だ。二つ星を持つ俺たち上級国民には、従わなくてはいけないからな」


「一つ星同士で何やら騒いでいたが、二つ星にはかなわねぇだろうよ」

 

 などと舐めた口調で薄気味悪い笑みを浮かべるやつらだ。


「……悪い」


「へっ。楽しい学院生活を送りたいのなら、俺たちに歯向かうような態度は取らないほうがいいぜ。一つ星の英雄さんよ」


「お前ら、誰だ?」


「「「なっ……」」」


 予想外の言葉を聞き、彼らは固まった。

 一つ星の生徒たちも、会話を聞いて何ならあたふためいている。


「き、貴様。一つ星の分際で、俺たち二つ星の名を覚えていないだと!?」


「悪気はない。ただ一度で覚えられるほどの印象ではなかったからな。もう少しインパクトのある自己紹介であったら、覚えられていたかもな」


「偉そうに減らず口を叩きやがって……」


「では、一つ聞こう。お前ら二つ星は、自分が優秀な血族に生まれ、親の自慢話を大層に語ってはいたが、それが王都フェルメイトにどのような利益を与えた?国はほんの少しでも良い方向に進んだか?」


 俺は冷めた目を向ける。奴らは視線を逸らしながら、言葉を探していた。

 上級国民というだけで威張る奴らは、所詮その程度の人間だ。その立場に立った者は、その立場に合った役割を果たさなければいけない。その場の立場と名前だけで満足して胡座をかき、国民を見下す上級国民などいる意味もないのだ。


「答えることができないのか?」


「っ……」


「だったらお前らは、俺たち一つ星となんら変わりない存在だ。親の力を自分の物と勘違いするほど、痛い奴はいないぞ」


「このやろ……」


 一人が俺に殴りかかろうと、身を乗り出そうとしていた。


「その辺までにしておけ」


 乾いた声が聞こえる。ゼイスがこちらに近づき、二つ星の生徒たちに冷たい視線を向ける。


「上級国民が冷静さを欠いたような姿を見せるな。見苦しい。僕たちは常に皆の手本となるような立ち振る舞いをしなければならないんだぞ。自覚はあるのか?」


「す、すみません」


「分かればいい。次からはこのようなことがないように」


 凛とした立ち姿から放たれる強い言葉は、さっきまで騒がしかった彼らを黙らせた。

 さすがは二大名家。リーダーシップも持ち合わせている。

 ゼイスは俺の方を見た。


「すまなかった。彼らもプライドが傷つけられついカッとなってしまったようだ。今回は、僕に免じて許して欲しい」


「気にするな。大した問題ではない」


「だが、ある程度は態度をわきまえてもらえると助かる。こちらも立場というものがあるのでね」


 ゼイスは眼鏡をあげ、俺に言う。

 

「考えておこう」


 俺がそう言うと、ゼイスは自分の席に向かった

。それに続いて、俺の席にいた生徒たちも席に戻っていく。


 チャイムが鳴り、リエルが入ってきた。


「おはようございます。早速、授業を始めましょう、とその前に……」


 リエルは黒板に文字を書く。


「対抗戦?」


 一人の生徒が呟くと、リエルが頷いた。


「この魔法学院では、まず初めに皆さんの力量を測るべく、対抗戦を行っています。チーム分けは毎年決まっていて、二つ星対一つ星の対抗戦という風に分けられているんです。明日、その対抗戦を行おうと思っています」


 クラスの人数は四十人。一つ星は九人に対して、二つ星は三十一人。明らかにこちら側が不利だな。学院にも、上級国民の息がかかっているのだろうか。


「これを機に、一つ星の鼻っ柱をへし折ってやるとするか」


「ボロボロに負けたあいつらの泣き顔を見るのが楽しみだ」


 さっきの奴らがそう言った。


「先生」


 セリナが手を挙げる。


「私が一つ星のチームに入ることってできますか?」


「構いませんよ。むしろ、誰かに頼もうと思っていたので、言っていただいて助かります」


 セリナはこちらを見て、笑った。


「ですが、それでも人数的にかなりの差がありますが……」


「問題ない」


 俺はリエルに言った。

 セリナは、一つ星と二つ星の差別ということはしない。一つ星の彼らとも上手いこと連携はとれることはできるだろう。

 しかし、他の二つ星の生徒が連携が取れるかと言われたら、おそらく無理だろう。このメンバーでどのように立ち回るかを考えるべきだ。


「分かりました。それでは一つ星と二つ星の中から、リーダーと副リーダーを一人ずつ決めてください。三十分時間を設けるので、チーム同士で話し合って決めてください」


 そこから話し合いが始まった。

 

「リーダーはアムル君でいいんじゃないのかな?」


 一つ星のメンバーの一人が意見を言った。

 

「俺もそれがいいと思う。アムルならチームをまとめてくれると思うんだ」


「異議なーし」


「じゃあ、副リーダーはセリナさんでいいじゃん。二人仲良いから、コミュニケーションも上手くとれそうだし」


 などと話が進んでいた。

 すると、一人の生徒がセリナに話を振る。


「セリナさんって二つ星なのに、なんで私たちを庇ってくれるの?」


 セリナはクスッと笑みを浮かべて、


「だって、家柄だけでどちらが優れていて、劣っているかなんて間違っているじゃない。それに、今は同じ魔法学院の生徒でしょ。そこにどこも優劣なんてないわ。みんな力を合わせて、二つ星に勝ちましょう」


 その言葉を聞いた生徒たちは、


「そうだな。家柄で強さが決まるわけじゃないもんな!」


「やってやろうぜ!」


 一つ星の生徒たちの士気が上がった。セリナの穏やかでありながらも、みんなの心を奮い立たせるその声は、天性の才能とも言えるだろう。


 結局、一つ星のリーダは俺。副リーダーはセリナというのが満場一致で決まった。

 一方で二つ星の方は、ゼイスとノアでどちらがリーダーをやるかという言い争いが勃発していた。結局、多数決で決めることとなり、一票差でリーダーはゼイス。副リーダーはノアということになった。


「決まりましたね。それでは明日、対抗戦を行います。準備を怠らないようにしてください。それでは、今日の授業はーー」


 対抗戦か。楽しみにしておくこととしよう。

 リエルが授業を聞きながら、俺はぼんやりと考えていた。

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