視線
学院を出て、俺たちは商店街に来ていた。
太陽は夕日が沈み始めており、空は茜色に染め上げられていた。商店街は仕事終わりの人、買い物袋を持った人などが往来していた。
「えっと、今日はお肉とジャガイモとニンジンとー。こっちの方がいいかしら?」
セリナはボソボソと呟きながら、目の前に並ぶ野菜たちの睨めっこを繰り広げている。野菜を手に取って品定めをやっているようだ。
「夕飯の食材選びか?」
「そうよ。王国にいたときは、家にいるだけで食材はあったから料理するだけで良かったけど、ここに来てからは、自分で物を品定めしないと」
セリナは一人暮らしだ。身の回りのことだって一人で行わなければいけないからな。「料理するんだったら、いい食材を使いたいわよねー」と言っていたし、この様子だともうしばらくかかりそうだな。
俺は少し離れたところまで移動し、設置されたベンチに腰掛け、今日起きた出来事をぼんやりと思い出していた。
初日で、もう変なやつに絡まれてしまったからな。二つ星の連中全員があんなやつばかりだったら、まともな学校生活が送れるか心配にもなる。
あと、ゼイスとノア。彼らはフェルメイト王国を支える名家の御子息と御息女だ。本来であれば、国をより良くするために、互いが力を合わせてやっていかなければいけないというのに、まるであいつらは火と油だ。
この王都を作ったのは、我が戦友ルシェド・フェルメイトだ。推測だが、ルシェドがこの世を去ったあと、フェルシルザ家とレーズネット家がフェルメイトを支えていたのだが、何らかの問題が発生し、仲が悪くなった。
国が機能しているだけマシではあるが、それを今も時代まで引っ張ってくるとはどれだけの問題を起こしたというのか。まさか、一つ星と二つ星の差別問題では飽き足らず、二つ星同士での争いもあったとは。
あともう一人、気になるやつがいたな。
「お待たせ」
セリナの両手は袋で塞がっており、野菜だの肉だのが詰められていた。少し重そうにしていたので、俺は立ち上がり右手を伸ばした。セリナは首を横に傾げている。
「重いだろ?片方持ってやる」
「いいわよ。私の買い物だもの。これぐらい大したことないわ」
「嘘つけ。こういうときは遠慮なく頼ればいい」
「……分かった。じゃあお願いするわ」
しばらく考えたあと、セリナは右手に持っていた袋を差し出した。俺はそれを受け取る。
「とりあえず、買い物はこれで終わりか?」
「そうね。夕食分とある程度の欲しいものは買えたわ」
セリナは満足げな表情を浮かべていた。
そこで、俺は一〇時の方向を振り返った。そこは裏路地に繋がる細い道があり、近くには捨てられた箱などが積まれていた。
「どうしたの?」
セリナは俺が振り返ったことが気になって尋ねてきた。
「いや、なんでもない。帰るか」
「えぇ」
俺たちは商店街を後にした。
* * * * * * * * * * * * * * * * * *
夕日の光に当てられながら、俺たちはセリナの自宅に向かっていた。この通りは、子供たちが多く見かけられる。よく見ると、一軒家が多く立ち並んでおり、その近くで元気よく遊んでいる。
その様子を見て、セリナは薄く笑みを浮かべていた。
「どうした?」
「子供たちがあんなに楽しそうに遊んでいる姿を見ると、こっちまで楽しくならない?」
セリナが同意を求めてくるかのような目で尋ねてくる。その気持ちは分からなくもない。子供が無邪気に走り回っている姿は、平和そのものを表している象徴すら感じさせる。
「そうだな」
「アムルの子供時代ってどんな感じだったの?」
「別に面白くも何もないぞ。学校に行っていないからこれといった思い出もないしな。魔法の勉強や、歴史の勉強だったりとかそれぐらいしかやってなかったな」
「独学で?」
「あぁ」
セリナは言葉も出ないようだった。それしかやることがなかったのだし、ましてや前世の記憶だってあるんだ。俺が死んでからの歴史も気になってはいたので、一週間は本に張り付くように読み漁っていたのを思い出す。
「セリナの幼少期はどんな感じだったんだ?」
「べ、別に普通よ。小さい頃から学校で魔法の勉強をしていたわ」
セリナは淡々と答えた。
そのあとも、色々と過去の話などで盛り上がっていると、セリナが住むアパートに着いた。俺は持っていた袋をセリナに渡す。
「ありがとう。助かったわ」
「気にするな。あれぐらいの荷物は持った内には入らない」
「さすが男子ね」
セリナは笑って言った。
空を茜色に染め上げていた夕日は、西の空に沈んで王都フェルメイトは、街灯の光で照らされた。さて、腹も減ったことだし帰るとするか。
「それじゃあな」
「うん、また明日」
セリナがアパートに入ったのを確認して、≪飛翔≫で両親が待つ小さな町へと帰った。




