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入学生たちの自己紹介

 セリナは、ひとまず安心したような表情を浮かべながらも、心配そうに言った。


「大丈夫?」


「見ての通りだ。問題ない。むしろあいつを気遣ってやったらどうだ?」


「いやよ。だって、あいつが勝手にいちゃもんつけてきてたんだから。擁護のしようがないわ」


 先ほどまで威勢良く突っかかってきた生徒は、今は席に座って大人しくしている。ときどき、恨めしそうな目でこちらを睨んできているのだが、構ってやる必要もないので、スルーしている。


「上級国民というのは、俺たちのような一般国民を嫌っているのか?」


「嫌っている人もいればそうでない人もいる。私の王国でも、そう言った風潮がなかったとは言えない。でも、ここまであからさまな人を見たのは初めてよ」


 俺がいない間に、そう言った差別のようなものができたのか。強いものが弱いものを守る。手を差し伸べて、弱いものを強くし、そして国は強くなる。それが、俺が望んだ国のあるべき姿だった。

 だが、今の現状を見るからに、強いものが弱いものを見下し蔑んでいる。国の在り方からしてどうなのだろうか。まぁ、もう少し様子を見ることにしよう。


 気がつけば、四十人全ての生徒が教室に集まっていた。一つ星の生徒、ここで言うところの一般国民は俺を合わせて九人。上級国民と呼ばれる生徒は三十一人だ。

 予鈴のチャイムが鳴り響き、一人の女性が教室に入ってきた。腰ほどまでに伸ばした金色の髪をおろし、大きく赤いその瞳は理知的で、大人の雰囲気を醸し出している。だからといって、近寄り難い雰囲気は全くない。

 その女性は、咳払いを一つ入れて、


「おはようございます。リエル・セルヴェアと言います。今日から皆さんの担任を務めることとなりました。よろしくお願いします」


 そう言って、黒板に慣れた手つきで文字を書いていった。名前を書き終えると、リエルは俺たちの方へと振り返り、手を叩いた。


「そうですね。まずは皆さんに自己紹介をしていただきましょうか。では貴方から」


 そう言って、リエルは一人の生徒を指した。そこから、自身の自己紹介を時間となった。

 しかし、一人一人長々と喋るな。名前を言って、一言だけ述べればよいものを。

 自分がどの血族に生まれ、親の役職、自身の輝かしい実績などを話し続けており、しかもすべて似たようなものだから眠気が襲ってきて仕方がない。

 しかし、これほど血族のことを話されては、自分も話さなくてはいけないという考えに陥ってしまうな。特に上級国民でないものは、笑い者にされるのではないかと考えてしまう者もいるだろう。


 自己紹介が進んでいくと、試験後に気になっていた者の一人が教壇に立っていた。黒髪を短く切り揃え、眼鏡をかけた男子生徒だ。彼は、眼鏡をくいっとあげて、言った。


「ゼイス・フェルシルザです。どうぞよろしく」


 男が軽く会釈をすると、教室が騒めく。


「フェルシルザって言ったよな!?」


「あぁ、王都ができた当初からずっとこの王都を支えている二大名家の一つだ」


 二大名家か。確かにこの中では魔力はある方だ。ゼイスは席につくと、続いて一人の女子生徒が立ち上がる。そして、ゼイスの方を軽く睨んだ後、教壇に向かった。


 身長は百五十もない。栗色の髪をショートカットに切り揃えており、幼い顔立ちは可愛らしさを感じさせる。


「ノア・レーズネットと申します。以後お見知り置きを」


 そう言って、美しき所作でお辞儀をした。

 再び、教室が騒めきだした。


「レーズネットって、あのレーズネットか!?」


「あぁ、王都を支えるニ大名家の一つだ」


 ほう、次世代を支える人物が同い年とはな。

 魔力もゼイスに遅れを取らぬほどの持ち主だ。

 だが気になるのは、ゼイスとノアの関係性である。ノアはゼイスを睨んでおり、ゼイスもまたノアを睨みつけていた。仲でも悪いのだろうか。


 その後も、自己紹介は進んでいった。一つ星を付けた生徒も自己紹介を済ませているが、名前を言うだけ言って、そそくさと自分の席に戻っていく。


 次にセリナの番となった。


「はじめまして。セリナ・アークネルドと言います。ここから少し離れた王国から、留学という形で来ました。よろしくお願いします」


 セリナは笑顔を浮かべて言った。今思えば、セリナの胸元には二つ星が付けられている。と言うことは上級国民と言うことだ。確かに一般の家庭が、娘を一人で留学させるわけもないか。


 ほどなくして、俺の順番になった。

 さっきの生徒のやつはまだ俺を睨んでいた。

 さて、前世でこういうのはよくやってたが、この時代で挨拶をするのは初めてだな。


「アムル・シルフィルクです。父は建築の仕事をしており、母は専業主婦です。至って普通の家庭で過ごしています」


 上級国民の生徒が騒めき出した。さっきとは違った騒めきではある。一つ星の生徒が自己紹介で、自分の家庭事情をここまで晒したいた者がいなかったからだ。


「ですが、俺はそれを幸せだと思っています。上級国民でないからといって、俺はそれを恥ずべきこととは思っていません。両親と笑い、過ごす日々はとても楽しいと感じています。長くなりましたが、よろしくお願いします」


 俺がここまで言ったのは、一つ星の生徒も胸を張ってほしいと思ったからだ。彼らだって試験を受け、それを合格してフェルメイト魔法学院に入学してきたのだ。生い立ちなど気にせず、学校生活を送ってほしいと願って、俺はそう言った。

 しかし、敬語で話すというのも難しいものだな。前世でも敬語で話すことなんてなかったが、上手く話せていただろうか。

 俺は席に座り、次の生徒が歩いていく。俺と同じ一つ星の女子生徒だ。彼女は、前を向き自己紹介をしていた。一つ星であることは、恥ずかしいことではないと、自信を持って言っていた。


 その後も自己紹介は進んでいき、最後の一人になった。一つ星を付けた男子生徒だ。

 深海のように青い髪。その下は、髪と同じ穏やかな青い双眸。整った顔立ちは、女子生徒を虜にしてしまうほどに美しいものだ。


 彼は教室を一通り見渡すと、優しく微笑んだ。


「シヴァ・コルエマ。よろしくね」


 そう言って彼は席に戻っていった。

 全員の自己紹介が終わったのを確認して、リエルは口を開いた。


「これから三年間、同じ釜の飯を食べるクラスメイトだから、みんな仲良くしてくださいね。今日はこれで終わりです。授業は明日から始まるので、そのつもりで準備してきてください」


 なんだ。今日はこれで帰宅か。どんな授業をするのか楽しみにしていたのに。


 後ろからポンポンと柔らかい手に肩を叩かれた。振り返ると、さきほどの女子生徒だ。


「あ、アムルくん。さっきはありがとう。お陰で勇気を持って言うことができた」


「気にするな。別に大したことはしていない」


「いやいや、君は一つ星の僕らに勇気をくれた人だよ」


 気づけば、一つ星の生徒たちがこちらに寄ってきた。大袈裟すぎやしないか?そんなに感謝されるようなことはしていないのだがな。


 セリナの様子を見ると、複数の男子生徒たちがセリナの席の前にいたのだ。


「アークネルドさんって留学生だったの?どこから来たの?」


「もしかして一人で?」


「もし今日暇だったらさ……」


 などと絡まれていた。一人に関しては、もう口説きにいっているではないか。肝心のセリナは、苦笑いを浮かべながら、どのようにして帰ろうかと思考を巡らせているようだ。目が完全に泳いでいる。

 俺と視線が合うと、男子生徒たちに「ごめん」と小さく手で合図をして、こちらに寄ってきた。


「アムル。この後はどうするの?」


「いや、特にすることはないな」


「なら帰りましょう。正直、今この教室には居たくないわ」


 深い溜息を吐いて、疲労困憊の様子を見せた。


「あぁ、それじゃあな」


 セリナの言葉に頷き、一つ星を付けた生徒に挨拶をする。


「ねぇ、あの二人って付き合ってるのかな?」


「いや、まだ出会って初日だぞ」


「でもあの二人、試験のときも一緒にいたらしいぞ」


 一つ星の生徒は何やら勝手な妄想をしていた。


 俺たちが帰るその様子を、青髪の少年はただ見つめていた。

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