試験後の出来事
遅くなってしまいすみません!
「ーー以上です。今日はお疲れ様でした。次はフェルメイト魔法学院の生徒の自覚を持って、ここに来てください」
あの後、俺たち合格者は試験官の女性から、今後の日程について説明を受けた。俺たちが今度、このフェルメイト魔法学院に来るのは二日後。いろいろと準備があるからだそうだ。その二日間の間に、魔法学院の制服なども各自に贈られるらしい。
女性が修練場を後にすると、受験生たちも続々と修練場から姿を消していく。
「アムル。この後はどうするの?」
セリナは大きい瞳をこちらに向けて、尋ねてくる。
「このまま帰るつもりだ。両親もこの王国に来ていてな。迎えに行かないといけない」
そういえば、どこで待ち合わせをするかという話をしていなかったな。まぁ、二人の魔力の気配は把握しているので、探せばすぐに見つかるだろう。
「そうなんだ」とセリナは呟いて、白い髪を指に絡ませ、何かを考え込むかのように下を向いて黙った。しばらくすると顔を上げて、
「もし良かったら、一緒に帰らない?もちろん、ご両親がいらっしゃるところまででいいから。それに、あなたのことをもっと知りたいし」
「あぁ、構わないぞ」
別に断る理由もないしな。セリナは嬉しそうに微笑みながら、
「じゃあ、帰ろっか」
「おう」
俺とセリナはフェルメイト魔法学院を後にした。
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俺とセリナは賑わいを見せる商店街を歩いていた。日は既に沈んでいるのだが、さすがは王都。あちこちに街灯が設置されており、それが王都を照らしている。セリナは手を後ろに組んで、辺りを見渡しながら俺の横を歩いていた。
すると突然、セリナの歩みが止まった。俺もそれに合わせる。
「アムルって、なんでフェルメイト魔法学院に入学しようと思ったの?やっぱりお金?ここの魔法学院を上位の成績で卒業できたら、魔導師団からも声はかけられるし、そうすれば人生安泰って言われてるもんね」
「……そうなのか?」
「知らなかったの?」
セリナは驚いたように、こちらを見つめる。
魔導師団という言葉も初めて耳にした。おそらく、この王都を守るために結成されたものなのだろう。
「この魔法学院に入学してくる生徒って、魔導師団か、優れた魔法医療院や魔道具師を目指している人たちばかりなのよ。もちろん、私もね」
セリナは言葉を強く言う。彼女からはただならぬ覚悟というのが伝わってくる。
「もう一度聞くわ。なんであなたは、このフェルメイト魔法学院に入学しようと思ったの?」
セリナの青い瞳が、俺を真っ直ぐ見つめる。
「ここの魔法学院は、魔法に優れたものだけが入学できると聞いた。ということは、強いやつがここに来るということだ。俺の力がどれほど通用するのかを知りたいというのが理由の一つだ」
平和となった今ではあるが、生きていた時代が時代だ。常に強くあり続けなければ、やられてしまう。そういった時代を俺は生き抜いてきたのだ。だからこそ、『強さ』というものを追い求めてしまう。そういう性なのだ。
セリナはそれで納得したのか、「ふーん」と言い、白髪を指で絡める。
「理由の一つだって言っていたけど、まだ他に理由があるの?」
俺の発言に疑問を持ったセリナが、再度問いかけてくる。
「あぁ。勉学に励み、友と魔法の高みを目指していく。それが学院というものだろう?」
「まぁ、そうね」
セリナは頷く。
「一度、そういう場に足を踏み入れたいと思っていたんだ。皆が何を想い、何のために魔法の勉強をするのかを知りたくてな」
「……もしかして、学校に入学するのって、今回が初めて?」
「あぁ」
俺の迷いのない返事にセリナは絶句する。
そもそも、学校というもの教育の場は俺たちの時代ではなかった。あったのは、最低限の剣と魔法の扱い方のみで、とても教育とはいえないほどの酷いものだった。だから、そういった場に興味を持ったのだ。
「学校に行ったことないって、どうやって魔法の勉強したの?せいぜい独学で覚えられるのは、簡単な初級魔法くらいで、複雑な魔法式なんて構築できないはずよ。ましてや、さっきの魔法なんてどうやって……」
セリナは理解できないと言わんばかりの表情を浮かべていた。
さっきの魔法というのは、古代魔法のことだろうな。魔法に関していえば、知識もあったし実際に転生後も苦労したことはなかった。さっき行われた試験でも、危なげなく合格したことだしな。最も両親、(特にお母さん)が心配だからといって、学校に行くことを許してくれなかったのだ。少しは子離れをしてほしいものなんだがな。
「逆にセリナはなんで、ここの魔法学院に入学してきたんだ?」
セリナがぶつけてきた質問を、今度は俺が投げかけた。
「女だからって舐められたくないからよ。入学式前の男だってそうだったでしょ?あのときは、アムルが倒してくれたから、スカッとしたんだけどね」
女だから……か。セリナは続ける。
「女は弱いと舐められる。ときには女であることすら恨んだときはだってあるの。舐められないように、私は強くなりたい。だからここに来たの。それが私の理由の一つ」
力強く、セリナは言った。
「そうか。まぁ、お互い頑張ろうぜ」
「えぇ」
そうして、俺たちは再び歩き始めた。
しばらく歩くと、何やらいい匂いが鼻をくすぐった。それはどうやらセリナもらしく、匂いがする方へと視線を向けていた。そこには、肉を小さく切り串で刺して焼いた食べ物が並べられていた。
セリナはその匂いのする方へ軽い足取りで向かっていく。俺もそれについていく。
「すみません。それ二本ください」
セリナが言うと、厳つい面持ちの男性が笑みを浮かべながら、
「あいよ。お嬢ちゃん、隣にいるのはボーイフレンドか?若いっていいなー!ガハハ!」
「違います!ただの友達ですから!」
男性の発言をセリナは否定した。男性はそう言いながらも、慣れた手つきで串焼きを俺とセリナに一本ずつ渡してくれた。セリナは硬貨を置いて、笑顔を浮かべていた。
「ありがとうございます」
「あいよ!またいつでも来な!」
俺たちはその場を後にする。
「セリナ。これは俺の分か?だとしたら出してくれた分は、返さないとな」
「いいわよ。今回は私の奢り。気にしないで食べて」
セリナはそう言って串焼きを口にする。お言葉に甘えて、俺もそれを頬張った。肉は柔らかく焼かれており、ほんのりと塩気が効いていて美味いな。セリナも思っていたことは同じなようだ。
串焼きも食べ終えて、またしばらく歩くと、
「アムルーー!!」
お母さんが俺を読んでいた。隣にはお父さんもいて、大きな袋を抱えていた。初めての王都でかなり奮発したな。
「あそこにいるのが、アムルの?」
「どうしても王都に行きたいと言ってな。連れてきたんだ」
「それじゃあ、ここでお別れね」
「おう、じゃあな」
そう言って、互いに帰ろうとする。そこで俺はあることを思い出して、彼女の名を呼ぶ。
「セリナ」
名を呼ばれて、彼女も振り返る。
「さっき言ってたな。女であることを恨んでたって」
「えぇ、そう言ったわね」
「そんなこと心配しなくても、お前は十分強い。女であろうとなくてもな。それに女のお前は、とても美しくて魅力的だ。だからそんなくだらんことで悩むな。女に生まれてきたことを誇りに思っていいと思うぞ。じゃあな」
言いたいことだけ言って、今度こそ俺は両親のいる場所へと歩いて行った。
「……え?」
突然の出来事に、セリナはただ困惑して、身動き一つ取れないでいた。




