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異世界人で勇者で神の御使い?!

 俺達は朝食を取り終わると、それぞれが宿屋を後にする。

 宿を出る時に、リンダに自分も一緒に行ったら駄目かと問われ、俺は丁重に……けれど断固として断らせてもらった。

 正直、これ以上一緒に居て周りに誤解されるなど、真っ平御免だった。

 キムも俺の気持ちを察して、笑いを噛み殺しながらではあったが、俺に合わせてリンダに何とか諦めるように説得してくれた。

 俺達と別れる時、リンダがチラチラと何か言いたそうにこちらを見てきてたのには気付いてたが、俺は素知らぬ顔をする。


「いや~。それにしても、朝から意外なものが見れたな~」


 城下町を歩きながら、キムが感慨そうにそんなことを言ってきた。完全に面白がっているのが見て取れる。

 それでも、根掘り葉掘り聞いてこない辺り、キムなりに気を使ってくれてるのだろう。


「へいへい。そうですか」


 俺は軽く遇うように、適当に相槌を打つ。

 そもそも、リンダはいったい何を考えてるんだろうか?

 昨日のアレは冗談じゃなかったのか。

 本気で俺のことが好きなのか?

 それにしたって、変わり身が早すぎたろう。

 いくら元彼貴族に裏切られて捨てられたと言っても、昨日の今日だぞ?

 女の考えてることは良く分からん。

 俺は頭を抱える他なかった。


「はは。まあ何はともあれ、今は王都観光を楽しんだらいいんじゃないかな?」


 キムが、俺が悩んでるのを見るに見かねて、そんなことを言ってきてくれた。

 俺はキムの言葉に従い、頭を切り替えることにする。分からないことをあれこれ考えても仕方ない。


「だな。んじゃ、まずは何処から案内してくれるんだ?」


 俺がそう聞くと、キムが初っ端から爆弾発言をかましてくれたのだった。


「そうだね…………それなら、異世界人御用達の店は?」

「ぶっ!!」


 俺はその言葉に、おもいっきし吹き出す。


「は?異世界人?!」

「そ!異世界人。あれ?もしかして知らなかった?結構有名だと思うけど?」

「えっと……あまり詳しくは……」


 俺は、しどろもどろで目を泳がせながら答える。

 まさかこの世界の人達に、それ程異世界人のことが知れ渡ってるなど思いもよらなかった。

 異世界人と言うなら、当然〈アカシックレコードオンライン〉プレイヤーに違いない。

 俺は、キムからこの世界での異世界人の待遇について、詳しく聞く必要があると思ったので聞くことにした。


「その……出来れば、もっと教えてくれないかな?異世界人のこと」

「ん?別に構わないよ?」


 キムはそれを快く承諾してくれ、異世界人について簡単に説明をしてくれた。


【異世界人】ーーまたは【勇者】や【神の御使い】とも呼ばれているらしい。

 その理由は、神の命により魔王討伐の為にこの世界に呼ばれたからだ。

 確かに嘘ではない……嘘ではないが、俺としては勇者は兎も角、神の御使いなどどうかと思ってしまう。

 俺なら、恥ずかし過ぎて悶絶してしまうだろう。

 そして、十二人の異世界人がこの世界には居て、四ヶ国の国に、それぞれ三人ずつ居住しているようだ。

 それは、各国の首脳の話し合いの元、どちらか一方に戦力が偏り、戦争の引き金になることを危惧しての措置であったらしい。

 勿論、本人達の希望を最優先としてのことだ。

 最も俺が驚かされたのが、


「はあ?!五十年前?!」


 その有り得ない内容に、俺は目を見開く。


「うん。最初の異世界人がこの世界に来たのが五十年前」


 キムが真顔で、さも当然のように言う。冗談を言ってるようには見えなかった。

 これに驚かない筈がない。

 何故なら、〈アカシックレコードオンライン〉が発売されたのが十年前なのだから、当然十年より前など有り得ないのだ。

 ならば、この世界と俺達の世界の時間軸が、大きく異なっていると言うことに他ならない。

 そして、もう一つ気になっていること……それは…………。


「じゃ、じゃあ、その異世界人第一号は、もう結構いい歳なんじゃ…………?」


 俺が、当たり前のことを聞くと、キムは軽く頭を振ってそれを否定した。


「いや。それがどうやら、異世界人は歳を取らないみたいなんだよ」

「はあ?!」


 歳を取らない?!そんな馬鹿な?!


「なんでも、神の加護だとか恩恵だとかで?らしいよ?それもまた、特別視されてる理由の一つだね」


 俺は最早、開いた口が塞がらなかった。

 そんな話は、まさに寝耳に水である。


 あんのクサレ神!!そんな話聞いてないぞ?!


 俺は、今ここに居ない男神に悪態をつく。

 あの男の笑った顔が目に浮かぶようだ。

 それから、まだ疑問が残っていた。


「でも、それならもう魔王は倒されてたりするんじゃ?五十年前から勇者が来てたなら……」


 そう。この世界にとって、五十年前に最初の勇者が転移されたのが事実なら、そんな長い年月があるのだから既に魔王が討伐されていてもおかしくはない。

 けれど、そうなると俺が転移された理由が無くなる。

 神の言い回しからすると、魔王はまだ生きている口ぶりだった。

 案の定、キムは再び頭を振って、俺の考えていた通りの答えを口にする。


「ううん。魔王は未だに健在だよ」


 やっぱりか……。

 何やってるんだよ、先輩(俺より前に転移されたから)達は……。


「思いの外、魔王の戦力が高かったらしくて、何回か戦いをしてみたけど、勇者でさえも歯が立たなかったみたい」

「なるほど……」


 これは、想像以上に厄介そうだな。


「それでも、勇者の力はこの世界にとっての希望なんだよ。やっぱり、この世界の人達よりも、遥かに強い力を持ってるからね。だから、それぞれの国々は、今でも彼らを国賓級な扱いでもてなしてるんだ」


 けれど、そう話すキムの顔が少し険しくなる。


「……キム?」


 俺が訝しんでキムに声をかけると、キムは一つ大きな溜め息を吐いてから、勇者に関しての真情を吐露した。


「そのせいか、あまりいい噂を聞かないんだよ」

「そうなのか?」

「うん。異世界人は我が物顔であちこちで好き放題やってるらしい。周りも、国お抱えの勇者だから、表立って文句も言えないし……ほとほと困ってるみたいだよ?」

「うわぁ……」


 実際、どんなことをやらかしているのかは分からないが、キムの顔を見る限り、確実に碌なことをしてないのが見て取れる。

 キムは、どうやら異世界人のことを、あまり良く思っていないようだった。

 お陰で、余計俺が異世界人だと言うことを話しずらくなってしまった。


 お互い暗い顔になってしまい、沈黙が流れる。

 すると、キムが努めて明るく振る舞うようにポンと手を打つと、話を切り替えた。


「さて!この話はここまでにして、お店に行こうか?折角の楽しい王都観光が台無しになっちゃうよ」

「……そうだな」


 俺も、キムの提案に、笑顔で同意する。

 それにしても、同じ異世界人としてはいたたまれない気持ちだ。

 この世界の人達に、申し訳ない思いで一杯になる。

 もしかしたら、他の者達も最初は本気で魔王討伐を目指していたのかもしれない。

 けれど、周りから【勇者】だとか【神の御使い】だとか持て囃され、特別扱いされたあまり、天狗になってしまったのかもしれないな。

 もし、俺が異世界人だとバレて、各国から誘いが来たとしても、俺はどの国にも属さないのだとキッパリ断ろう。

 そう、心に決めた瞬間であった。

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