勇者は詐欺師?!
それから、俺達はキムの案内の元、異世界人御用達と言うアイテム屋に向かった。
何でも、異世界人自らが、アイデアを提供して作られた代物もあるのだとか。
なので、一部の人達には、絶大な人気を誇る店らしい。
だが、俺はその品物を見て、次に値段を見て絶句する。
今俺の目の前には、厚さが五センチメートル、大きさが五.二インチ程の、まるでスマホのような形の物が置かれていた。
その名札にはこう書かれている。
【テレビデンワ】ーー白金貨一枚ーー。
下の説明書きを見ると、『五キロメートル圏内なら、遠方に居る誰とでも顔を見ながら話が出来ます!当店イチ押し!』…………。
って!これまるっきりスマホのパクリじゃねぇーか?!
しかも【テレビデンワ】って!!
それに白金貨一枚なんてぼったくりもいい所だろ?!
これって売れてるのか?!
俺が、色々と心の中でツッコミを入れていると、キムがひょっこりと後ろから顔を覗かせてきた。
「ああ。テレビデンワね。貴族達には結構売れてるみたいだよ?」
キムが、俺が疑問に思ってたことに答えてくれる。
「成程ね……」
そう言うことか。
『異世界人御用達の店』と言うキャッチフレーズは、それだけでかなりの注目を集められる。
特に貴族のように金に余裕がある連中にとっては、物珍しい物を金に糸目もつけずにどうにかして手にしたい欲求も出てくるのだろう。
だが、流石にこれはいただけない。
俺はキムの言葉を聞いて、ざっと店内を見渡す。
並んである商品は、お手軽価格の物から、庶民が手の届かない物まで……それこそピンからキリまでの品物があった。
けれど、その殆どが粗悪品と言っても過言ではない。
俺のステータスを見る能力は、何も人だけに限らない。物などにもそれは適用される。
つまりは、ここにある商品の殆どが、品質と価格が釣り合っていないのだ。
こんなのは、詐欺以外の何ものでもない。
専門家には【鑑定】能力があるが、一般人にこれらを見抜くことは不可能だろう。
ここの経営者の性格の悪さが伺える。
そう思い、俺は店の奥のカウンターを横目でチラリと見る。
そこには、フードを目深まで被った、いかにも怪しそうな男が一人座っていた。
俺は、その男に気付かれないように、こっそりとステータスを覗き見る。
案の定、そのステータスにはこう表示されていた。
ジェームス・ブラインーー異世界人ーー。
俺はそっと溜め息を吐く。
同じ異世界人として、恥ずかしいことこの上ない。
これは、少々痛い目を見て貰う必要がありそうだ。
「アスカ?どうかしたの?」
俺が険しい顔で黙っているのを不審に思い、キムが声を掛ける。
「いや……ちょっとな」
俺はキムにそれだけを返すと、近くに居たテンを呼び寄せた。
「テン、ちょっといいか?」
「ん?なになに?」
そうして、俺は耳打ちでテンにある頼み事をする。
テンはそれを聞くと、にぱっと笑って「任せてよ!」と言ってから、てくてくとカウンターの方へと歩いていった。
「ねえねえ。お兄さん」
「うん?何だい?お嬢ちゃん」
テンが徐に男に話し掛け、男がテンに視線を向けたその瞬間、テンの額にある宝玉が、突如眩い光を発したのだった。
「へ~、そう言うことか」
俺達が店を後にすると、俺はキムに事の経緯を大まかに説明した。
俺がテンに頼んだのは、俺が店の大半を買い占めると、あの男に幻覚で見せるようにと言うことだった。
実際に俺は買った。ただし、提示されていた金額の半額以下で、だ。
つまりは、相場に見合った金額をちゃんと支払ったわけだ。
まあ、それでもそれなりの額ではあったが……。
けれど、あの男の目には、俺が店の提示額をしっかりと支払った幻覚が見えた筈だ。
その証拠に、男はホクホク顔で「毎度あり~」なんて言ながら手を振って、俺達を見送ってくれた。
だから、あの男にとっては大損もいい所だろう。
因みに、キムには俺が鑑定能力があると伝えてある。
別に嘘は言っていない。似たようなものだからな。
「けど、結局はその場凌ぎにしかならないんだよな。在庫はきっとあるだろうし、またアイテムを作り直せば良いだけの話だしな」
そう。俺が危惧してる所は、まさにここにある。
ああ言う輩は、この程度では懲りずに、何度でも同じことを繰り返すのだ。
こんなのは、何の解決策にもならないのは分かっていた。
けれど、あの時はあれくらいしか思いつかなかった。
俺は、この先も王都に留まるつもりは無い。
まだこの世界を、何も見ていないのだから……。
本来なら、俺がこれ以上口出しをするする筋合いは無いとも思うが、あんな愚行を見てしまった以上、同じ異世界人として見て見ぬ振りも出来なかった。
俺が今後の対策をどうするか頭を悩ませていると、キムが人の悪い笑みを浮かべて言った。
「まあ、そのことなら僕に任せてくれるかな?」
意味深な言葉だったが、キムは結局最後までどうするのか教えてはくれなかったのだった。
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一ヶ月後ーーー。
「ねえねえ?聞いた?」
「聞いた聞いた!何でも、あの店って悪い商品を高額で販売してたみたいね」
「どうりで……私、一週間保温が効く鍋を買ったことあるんだけど、一日でダメになったことあるのよ。その時は、使い方が悪いからだって、逆に私が怒られたんだけど……」
「え~?何それ。最悪じゃん!!」
「あ!あと、鑑定士も買収してたみたいだぞ?鑑定書付きも、如何にも安全です!って客に信用させるためだったみたいだ!」
「何かショックね……あの店って、本当は勇者様が裏で手を引いてたって噂だし……」
「やっぱり、異世界人なんて信用するもんじゃないよな……所詮は別の世界の人間なんだし」
王都では、この話で持ち切りだった。
「一体全体!!何がどうなってるんだよ?!」
ジェームスは憤慨していた。
ここら辺一帯の鑑定士は買収していた筈だ。
彼らも、こんな話が出回れば、自分達にも不利益になることは分かっている。なら、噂の出処は何処になるのか。
この噂のせいで、貴族も最早ジェームスの店に足を運ぶことはなくなった。
実質的に、ジェームスの店は廃業に追い込まれてしまったのだ。
例えこの先、別口で店を出したとしても、最早『異世界人の店』と言う謳い文句では、この王都で店を持つこともままならないだろう。
「誰か知らないが覚えてろよ!!この借りはきっちり返させて貰うかなら!!」
ジェームスは、歯をギリギリさせながら、唸るように、顔も名も知らぬ者に恨みの言葉を投げ捨てる。
アスカがこの事実を知るのは、更に先の話であった。




