前の恋は忘れ、新しい恋に走れ!!
「は?つまりは何か?あの金髪男は何処ぞの貴族の長男で、社会勉強の一貫に三年前に冒険者になって、その時に一緒にパーティーを組んで、何だかんだでリンダと付き合うようになって、けど、家の事情とかで実家に戻されて、その時にAランクに昇格したら結婚する約束をしたと?」
「うっ…………はい」
「んで、王都に折角来たのだから、一目でも愛しの彼を見ようと会いに行ったら、あの女とイチャコラしてる場面を見てしまい、男に問い質してみた所、何故かあの女と戦って勝てたら結婚してやると言われて、そのままなし崩しに女と決闘するハメになった、と……」
「そ、そうよ…………」
宿屋に着いて正気を取り戻したリンダが、今回の件について詳しい説明をした。椅子の上で正座をして。
リンダの長たらしい話を、俺が簡潔に纏めたのがこう言うことである。
貴族が冒険者になるのは良くある話らしい。
特に次男坊以下は、家督を継ぐことがないので、冒険者ギルドや商業ギルドに入って、自らの力で生計を立てなくては行けない。
異世界での王道ネタの一つだろう。
それはさて置き、リンダの話を終えて、俺が最初に感じたことはこうだ。
「……………………馬鹿?」
「な?!」
俺は率直な感想を述べた。
まさか、Bランク試験を焦ってた理由が、男だとは思わなかった。
本人にしてみれば重要なことだろうが、巻き込まれる方はたまったものじゃない。
それは俺のことでなく、チョウもデラムもいい迷惑だろう。
リンダは俺の言葉を聞いて絶句するが、すぐにいつもの調子に戻ると喚き散らす。
「そ、そんなこと言われなくても分かってるわよ!!まさかあんな奴だったなんて思わなかったんだから、しょうがないでしょ!!でも、最初は本当に優しかったのよ?私のことをとても大事にしてくれたし……」
けれど、最初の勢いはどこえやら。徐々に声が萎んでいく。
リンダは、まだ未練がありそうに見える。
だが、あの金髪男は完全にリンダを利用してただけなのだろう。
哀しいかな。それが現実である。
まあ、どちらにしろ、俺には関係無い話だった。
「へぇー……そうかよ」
俺は気のない返事をする。
「くっ!わ、笑いたければ笑えばいいでしょ?!馬鹿な女だって!!」
リンダはヤケクソ気味に、キレながらそんなことを言ってくる。
そう言われたなら遠慮無く、
「わはははは」
「んな?!」
俺は笑ってやった。真顔で。
「何本当に笑ってるのよ?!」
「笑えって言ったのはそっちだろ?」
俺は言われた通り笑ってやったのに、リンダは俺の胸ぐらを掴んで怒り出した。理不尽だ。
「た、確かにそうだけど!!普通、傷心の乙女に追い討ちをかけるようなことする?!」
「乙女って……」
普通自分で言うか?
俺は開いた口が塞がらなかった。
「な、何よ……」
俺達は暫し睨み合う。
デラムとチョウは、傍で事の成り行きを黙って見守っていた。
因みに、俺の従魔達は部屋の外で待機させてある。
そして、この沈黙を先に破ったのは………………俺の方だった。
「ふっ……」
「……え?」
俺は堪えきれずに声を漏らす。
リンダは、突然俺が笑い出すもんだから、キョトンと言う顔をする。
その顔さえも、俺の笑いを誘うだけだ。
「やっとらしくなってきたじゃん」
「は?」
「お前は、そっちの方がしょうに合ってるよ。しおらしいのは似合わないんだから、怒ってろ」
「な、何よそれ……それじゃまるで、私がいつも怒ってるみたいじゃない……」
「あれ?違ったか?」
「うぐっ!!」
俺が確認するように聞くと、リンダは言葉に詰まる。
どうやら自分でも自覚はあるみたいだ。
「はは」
俺は自然と笑いが零れた。
やはり俺はこっちのリンダの方が好きだ。
怒った顔に慣れるのも変な話だが、その方が落ち着く。
今も、リンダは真っ赤な顔で俺を睨んでいた。
「ま、過ぎた恋はさっさと忘れることだな」
「他人事だと思って……」
「実際他人事だろ?」
「うっ!あ、あんた、そんなにズケズケものを言うタイプだったかしら?性格変わったんじゃない?しかも悪い方に!」
「そうか?俺は元からこんな性格だが?」
けれど、リンダに言われて俺もふと思った。
これ程自分の感情を表に出したのはいつぶりだろうか。
そう言えば旅の間も、日を追うごとに自分の考えを口にする機会が多かった気がする。
“ある日”を境に、俺は心を閉ざしてしまったから……。
この世界では俺を知る者は居ない。
それが返って、気持ちを楽にさせてくれてるのかもしれなかった。
これは、リンダの言うような悪い方ではなく、俺にとっては良い方に向かってるように感じた。
「それは兎も角、俺は人を好きになることが悪いことだとは思わないから、めげずに新しい恋でも見つければ?良く言うだろ?失恋したら新しい恋で忘れろってさ」
「新しい…………恋」
ゾクリーー。
ん?あれ?今何か悪寒が……。
そろりとリンダを見遣ると、何故かリンダは俺の顔をジッと見ていた。
嫌な予感がして、俺の背中を冷たい汗が流れる。
「ねえ……」
「な、何かな?」
俺の声が無意識に裏返る。
「あんたって、当然彼女居ないわよね?」
「……当然ってどう言う意味だよ」
藪から棒の失礼な質問に、俺は若干ムッとする。
「じゃあ、居るの?」
「……………………居ません」
ここで見栄を張った所で、すぐに嘘がバレるのは分かっていたので、俺は素直に答えた。
それを聞いたリンダの顔が、パァと明るくなる
「そ、それなら私と「無理です!!」っ?!」
俺はリンダの台詞を被せるように、速攻お断りを入れた。
「ちょ?!まだ最後まで言ってないじゃない!!」
「いやいやいや!!言わなくても分かるし!!怖いよお前!!確かに俺は、新しい恋をしろとは言ったけど、だからって手近に俺が居たから俺に乗り換えるって、流石に安直過ぎないか?!」
「べ、別に……近くに居るからってわけじゃないわよ?」
「じゃあ、何だよ」
俺達は、今度は違う意味で見詰め合う。
暫くして、リンダが軽く溜め息を吐く。
「私さ、正直な所しんどかったのよ。彼のことは本気で好きだったけど、彼に良く見られたくって無理してたのね」
「………………」
「言い方は悪いけど、自分を偽ってたって言うか…………今思うと、例えこのまま結婚したとしても、きっと上手く行きっこなかったのよ。その点、あんたなら大丈夫そうだし?」
「それ、どう言う意味だ?」
「だからね、あんたと居ると素の自分でいられるのよ。変に背伸びする必要も無いしさ、楽なのよね~。てなわけで、私と結婚しなさい!!」
「いきなり命令口調かよ!!つか、俺まだ結婚出来る歳じゃねーから!!」
「え?アスカって十五歳じゃないの?」
「……へ?あ、ああ!そ、そうだよ?今のはつい勢い込んで言っただけで、深い意味は無い!!」
あ、あぶねえー…………この世界じゃ、十五歳は成人なんだっけ?
それに、結婚も出来る歳なんだっけか。
俺は慌てて誤魔化すが、リンダは「ふ~ん」と言って、胡散臭そうに見てきた。
俺の額から脂汗が滲み出る。
「ま、いっか」
俺はホッと胸を撫で下ろした。
「で、話を戻すけど、私と結婚は……」
「いや、しないからな」
「む~……何でよ。私のこと嫌いなわけ?」
リンダは上目遣いで、不安そうに瞳を揺らしていた。
そう言う顔は反則だ。
捨てられた子犬のような目で見られると、放っとけなくなってしまう。
だから、俺は溜め息を吐くと、正直に自分の気持ちを話すことにした。
「はあ~……別に嫌いじゃないよ」
「じゃあ!!」
「だけど!!第一に、俺はギャルが苦手だ。第二に、まだ結婚を考えてないから無理!!以上!!」
俺はハッキリと、結婚をする気がないと伝えたつもりだった。
リンダも、ぶつくさ言いながらも、最終的には「分かった」と言って納得してくれたので、ちゃんと伝わった筈だ。
なのに何故だろう…………まだ不安が拭いきれてないこの感覚は……。
俺は気のせいだと無理矢理自分を納得させて、少し遅めの昼飯を食べに、食堂へと降りていくのだった。
リンダは惚れっぽいです 笑
ですが、意外に純情で一途な所があるので、一度好きになったら、とことん尽くすタイプです 笑笑




