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見届ける者達

 俺達は、そこから慎重に歩を進める。

 御者と馬車には、ありったけの結界石や【魔除けのお香】を渡し、暫くは木影で身を潜めるように言ってある。

 アルさん達もそっちに回すべきか迷ったが、この襲撃が誰を狙ったものか未だ判別出来ない以上、ある意味、俺達の傍に居た方が安全だと判断した。


 程なくして、キラリが目で合図を送ってきた。

 俺は皆に手を挙げて、静止を促す。

 この曲がり角の先に、ビーの大群が待ち構えている。

 俺は高鳴る鼓動を抑えながら、心を落ち着かせるように一度瞑目し、ゆっくりと目を開ける。


「……始めるぞ?まずは、先手必勝で……キム、頼む」

「……分かった」


 キムは、俺の言葉を聞くと、弓を上空に向けて構えた。

 弓に、水の矢が形成されていく。

 そして、ビーがいるであろう場所目掛けて解き放つ。

 水の矢は、上空で一瞬停止するも、すぐに拡散して雨あられとなってビーに襲い掛かった。


「「「「「キィィィィィィィィ!!」」」」」


 直後、一帯に甲高い声が響き渡る。

 本来なら、弓士であるキムは、目視してから矢を放つのが定石だが、今回はあくまでビー達を撹乱させ、連携を乱す目的があった。

 それと、一匹でもビーを減らす意味もある。


「行くぞ!!」


 俺達は一斉に角を曲がると、ビー達の前に躍り出た。


「うっ!」


 ビー達の複眼が、きらりと光って俺達を一斉に見遣る、

 俺は、その圧倒的な数と迫力に一瞬後退るも、すぐに自分自身を叱咤して踏みとどまった。

 本当なら、俺も後方で待機していたい気分だったが、万が一に備えて、前衛に回ると自分で言ったのだ。

 いざと言う時に、皆に指揮をする者が傍に居なければ話にならない。


 根性見せろよ!!俺!!


 俺は歯を食いしばって、皆に向かって叫んだ。


「キムはそのまま後方で矢を放ち続けてくれ!!他の皆は、出来るだけポイズンビーの数を減らすように!!分かってると思うが、ビーの毒針には絶対触れるなよ?!最悪即死するからな!!」


 ポイズンビーは、名前の通り毒を持っている。

 例え毒に、ある程度の耐性を持っていたとしても、完全な耐性でなければ、無事では済まないのは確実だ。


 その間も、ビー達は俺達目掛けて攻撃を仕掛けてくる。

 キムは水の矢を放ちながら、チョウは水球でビーを狙い撃ち、ヤハムさんは水で幾つも槍を形成して、ビーに突き立てる。

 俺は、従魔達に守られながら、指示を続けていた。


「狙うはクイーンビーだ!!クイーンが居なくなればビー達は自然と散り散りになる筈だ!!例えそうならなくても、上手く連携が取れなくなる!!そうなればこっちのもんだ!!」


 俺は喉がカラカラになるまで叫び続けた。

 俺は、皆のように身体能力に自信があるわけでもなければ、各属性に優れてるわけでもない。

 俺に出来ることなんて、たかが知れている。

 けれど、だからこそ今俺に出来ることを精一杯やるだけだ。


 この異世界に来る時に、心に決めた筈だ。今度こそ逃げないと。

 例え無様でもいい。格好悪くてもいい。

 大事なのは、生き延びてこの場を切り抜けることだ。


 すると、俺達の間を三匹のポイズンビーが突破する。


「しまっ……!!」


 その素早さに、リンダとデラムとイーダムは身動きが取れない。

 けれど、ヴィンセントさんは流石と言うべきか。

 それにすぐ対応し、一匹を難無く切り捨てる。

 そして、後二匹を仕留めようと振り向くが、その必要は無かった。

 俺は、三匹のビーが突破した瞬間、目配せしてテンに合図を送っていたのだ。

 テンは、それだけで意味を理解してくれ、素早く行動に移す。

 テンが二匹のビーの前に先回りすると、テンの額の宝石が突如眩く光りだした。

 すると、二匹が唐突に動きを止め、直後に甲高い咆哮と共に悶え苦しみ出した。


「「キィィィィィィィィ!!」」


 そうして、そのまま地面に落下して絶命する。


 テンの能力は【幻術】だ。

 プラシーボ効果と言う言葉を一度は聞いたことがあるかもしれない。

 これは本来、特に有効成分の入ってない薬を、患者に「とても病気に良く効く薬だから」とか何とか言って薬を投与させると、医者を信じた患者が、思い込みで病が治ってしまうと言うのものだ。

 心理的要因により、患者の体に影響を及ぼすらしいが、未だに詳しいことは解明されていないとか。

 そして、その思い込みを利用して、昔にある実験がなされた。

 被験者に目隠しをして、「今からアイロンを腕に当てる」と耳で囁き、腕に何の変哲もないペンを押し当てた。

 すると、不思議なことに、その被験者は痛みと熱さを感じ、ペンを押し当てた腕の箇所だけが、まるで火傷を負ったかのように赤く腫れ上がってしまったと言うのだ。


 これらの信憑性は兎も角、テンが見せる幻覚は、プラシーボ効果の作用に似ていた。

 どんな幻覚を見せられているのかは、見せられた本人にしか分からないが、それが決して良いもので無いことは確かだった。

 テン曰く、直に相手の脳に【死】を植え付けるのだとか……。

 俺もゲームの中で、何度もその経験をしたことはあるが、ハッキリ言って記憶が曖昧であまり良く覚えていない。

 ただ覚えていることは、心にこびり付いて離れない【恐怖】だけだった。

 よっぽど精神力が強い者でなければ、テンの幻術から逃れることは出来ないだろう。

 その幻術に一度でも囚われれば、直接脳に【死】を体験させられ、心臓発作みたいな形で命を落とすのである。


 そうこうしている内に、ポイズンビーの群れが左右に割れ道が開かれる。

 その先には、当然クイーンビーの姿があった。

 俺はその瞬間を見逃さなく、ポイズンビー達が再び態勢を立て直す前に即座に指示を出す。


「今だ!!クイーンビーを狙え!!」


 俺の言葉と共に、ヤハムさんが瞬時に動く。


「水よ 激流の如く迸れ 我が前の敵を嚥下(えんげ)せよ【(みずち)】」


 ヤハムさんの右手に水が集まり出したかと思うと、それが巨大な蛇?龍?のような形になり、右手から解き放たれ、クイーンビー目掛けて、左右にうねりながら向かって行った。

 何匹かのポイズンビーが、クイーンビーを守ろうと前に出ようとするが、その威力は計り知れず、数匹のポイズンビーを巻き込みながら、水の蛇がクイーンビーを飲み込むと、空高く舞い上がり上空で霧散して、一帯に大粒の雨が降り注いだ。


「すっげ……」


 語彙力が無さすぎて悲しいが、まさにその一言に限る。

 ヤハムさんは魔導士なのだが、、これ程までの力があったとは完全に想像以上だった。

 俺は、呆然とヤハムさんの背中を見詰める。

 ポイズンビー達も、最初何が起こったのか分からず、辺りをキョロキョロ見回していたが、傍にクイーンビーが居ないことに気付くと、慌てたようにその場を飛び去って行ってしまった。


 こうして俺達は、何とか難関を突破出来たようだった。

 俺は緊張の糸が切れ、その場に崩れそうになった。

 それを、キムが支えてくれる。


「お疲れ様」


 キムの顔も、流石に疲弊しきっていた。


「そっちもな」


 俺は苦笑しながら、何とか足に力を入れて自力で立つ。


「皆、良く頑張った!」

「うむ。見事じゃった!」

「上出来だ!!」


 ヤハムさんとアルさんとヴィンセントさんが、それぞれ俺達を褒めてくれた。

 その言葉だけで、頑張ったかいがあると言うものだ。

 けれど、イーダムとリンダとデラムは、何故か浮かない顔をしていた。


「ん?どうしたんだ?三人とも」

「……俺達は、結局何も出来なかった」

「そう、ね。ビーが迫って来た時、手も足も出なかったわ」

「うん…………全然ダメダメだった」


 三人が肩を落とす。


「何だ、そんなことか」

「そ、そんなことって!!」


 俺が事も無げにそう言うと、三人が衝撃を受けたような顔をする。

 俺はそんな三人に苦笑しながらも、努めて優しく諭すように話す。


「いいか?相手には必ず相性がある。属性の相性にしろ、近距離・遠距離の相性にしろ……今回はたまたまお前達の相性に合わない魔物だっただけだろ?」

「それは…………そうかもしれないけど……」


 それでも、まだ三人は納得していないようだった。

 だから俺は続けた。


「それに、だ。お前達が、後ろでアルさん達を守ってくれてると分かってたから、俺達は戦いに集中出来たんだぜ?な?」


 俺はキムに同意を求める。

 キムは俺の意図を理解し、笑顔で頷いて言った。


「うん。そうだね。とても安心出来たよ」


 それを聞いて、まだぎこちなかったが、三人は笑顔になる。

 何はともあれ、王都までの残りの五日間、これ以上の邪魔が入らないことを願うばかりだ。


 俺がそんなことを考えてると、キラリがスっと俺の横に来て、耳打ちで“あること”を知らせる。

 俺は、キラリが示した方角に目をやった。


「……顔は認識出来たか?」


 極力周りに聞こえないように、俺は小声でキラリに聞く。


「残念だけど、距離が遠すぎるわ。私の百目鏡の範囲外で…………辛うじて人影がこちらを見てるってことしか分からなかったわ」

「……そうか。いや、ありがとう。それだけでも充分な収穫だよ」


 申し訳なさそうに言うキラリに、俺は笑顔を向けて礼を言う。

 これで、いくつかハッキリしたことがある。

 一つは、やはりこの襲撃が何者かの手によるものだと言うこと。

 杞憂で済めば良かったが、その望みも儚く崩れ去ったわけだ。

 二つ目が、狙いがアルさん達…………と言うか、おそらくアルさんだろう。

 ビー達は、間違いなくアルさん達に一直線に向かって行った。

 俺達が相手をしていたにも関わらず、ビーの目は完全にアルさんを捉えていたのだ。

 アルさん達が何者なのかは俺には分からない。

 アルさんも、もしかしたら狙われる理由に心当たりがあるのかもしれない。

 けど、俺はそれを聞かない。

 今、それを問い質すことは簡単だろうが、それをしてしまえば、何か俺達の関係が崩れそうな気がしたからだ。

 それに、いずれ正体が明らかになる。そんな予感めいたものもあった。


「ま、取り敢えずは、これで一件落着と言うことで、先に進もうか!」


 俺の言葉に、皆が頷いてくれた。

 馬車に戻ると、俺達は再び王都に向けて出発したのだった。


・-・-・-・-・-・-・-・-・-

「ねえ?あの子、ウチらのこと見てなかった?」

「んー?見てたかもなー?」


 ピンクの髪にポニーテールをした少女が、可愛らしく小首を傾げる。

 黒髪で無精髭を生やした男は、気だるげに答えた。


「まあ、それより…………あの子達って従魔かな?魔人?」

「んにゃ、あれはおそらくただの魔獣だ」

「はあ?!魔獣?!」


 少女が目を剥いて、男を見遣る。


「ああ。ガキの額に宝石があったろ?あれは、間違いなくカーバンクルだ」

「で、でも!!人型だよ?!そんなこと有りうるの?!」


 少女は、何故男がそんなに冷静なのか理解出来なかった。

 少女にとっても、人型に変身する魔獣など聞いたことがなかった。


「んなこと俺に聞くなよ。もしかしたら、“あの男”が絡んでるかもしれないな」

「……てことは、アタイらの【敵】だね」


 少女と男から、僅かに殺気が放たれる。

 それだけで、周囲に居た魔物達が一斉に逃げ惑う。


「ま、その内分かるだろ。兎に角、今回の件を我らが“ボス”に報告しに戻るぞ?」

「ん!了解」


 そうして、二つの影が忽然とその場から消えたのだった。


〈補足〉


【魔除けのお香】は、結界石同様に魔物を寄せ付けません。

ただし、弱い魔物にしか効果は無く、一度袋を開けてしまえば、あまり長い時間持続することが出来ません。

その為、安価で売られています。

それでも、駆け出しの冒険者などには重宝されています。

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