キムがとうとうキレちゃった?!
十日目の夜、俺達は各自テントで休息を取っていた。
俺のテントには、焰華達は勿論のこと、キムやアルさん、それからヴィンセントさんやヤハルさんが寛いでいた。
このテントは、キムと一緒に買いに行った物なのだが、その時に流石異世界だと驚いたものだ。
外から見ただけだと、普通に二人用のテントと言った感じだが、中の広さが全く違うのだ。
何でも〈拡張魔法〉が施されてるとかで、広さによって値段がかなり異なってくる。
俺が買ったテントは、どうせだからと、その店では最大の十人用を購入してみた。
なので、初日からアルさん達も誘って、俺のテントで一緒に寝泊まりすることにしたのだった。
アルさんは、一応護衛対象と言うことなのだから、傍に置いておく必要があると判断したのもある。
俺は、気付かれないように、そっとマップを表示して、現在地と王都までの距離を測る。
見た所、漸く3分の2まで来たと言う所か。
「キム。ここから王都まで予測としてどれくらいかかりそうだ?」
「そうだね……何事も無ければギリギリ期間内の三週間までには間に合うと思うけど……」
「それは、逆に言えば何かあれば間に合わないってことか?」
「まあ、ね」
「そうか…………」
俺はそれだけを呟くと、瞑目して思索する。
この十日間で、リンダ達との確執は深まる一方だ。
何かある事に衝突が絶えなくなっている。
俺にはリンダが、何かに追い立てられている感じがしてならなかった。
何をそんなに焦ってるのかは知らないが、その都度進行が遅れるのは頂けない。
それに、問題はそれだけではなかった。
俺達は、態々比較的安全なルートを選んで、王都を目指してる筈だった。
今回の試験の目的は、あくまでアルさんを王都に送り届けることなのだから、いちいち他のことに時間を割くつもりなんかない。
だと言うのに、ここまで来るのに魔物と何回遭遇したか分からない。
しかも、本来その土地にいない筈の魔物に、だ。
これは、明らかに意図的に仕向けられていると思ってしまうのは、俺の考えすぎだろうか。
本来なら、例え遠回りだったとしても、魔物の遭遇率が少なかったら、三週間以内に王都に着ける予定だったのだ。
だから俺は頭を働かせる。
このまま、最初に決めた安全ルートで行くか否か……。
キムが言った通り、安全ルートで行っても、おそらくは三週間以内には着くだろう。
けれど、それは魔物に遭遇しなければの話だ。
この先更に魔物の襲来がないとは限らない。
なら、賭けに出てみるか?
皆が、俺の決定を待っているかのように、視線を向けてきているのには気付いていた。
俺はある一つの覚悟を以て、ゆっくりと閉じていた瞼を上げる。
「………………よし!決めた。皆をここに集めてくれ」
「畏まりました」
俺の言葉に、焰華が即座に腰を上げて、皆を呼びに行ってくれた。
「……何か策でも思いついたの?」
「策……と言うか、まあ、皆が集まってから話すよ」
「分かった」
程なくして、リンダ達がテントに入って来た。
リンダ達は、俺のテントに来るのは初めてだったので、一瞬驚いた顔をした。
リンダだけは、何故か苦虫を噛み潰したような、悔しそうな顔をしていたが、気にしないでおこう。
「さて、これからのことだが…………急遽ルートを変更しようと思う」
「ルートを?」
「ああ。明日からは、最短距離で王都を目指す」
「最初からそうすれば良かったじゃない。何で態と遠回りする必要があるか分からないわ!」
リンダが「ふん!」と鼻を鳴らしながら、偉そうに口を挟む。
「………………それは、意味が分かって言ってるのか?」
俺が目を細めて、少し声を低めて言うと、リンダの顔が引き攣る。
「ど、どう言うことよ」
「俺達が明日から向かう道は…………おそらくレベル百の魔物がうじゃうじゃ居る地帯だぞ?」
「「「「っ?!」」」」
俺の言葉に、リンダ達が息を飲む。
「な、なら!別にここここここのままでいいんじゃないか?!」
イーダムが、動揺しまくりで進言してくる。
いや……どもり過ぎだろう。
本当に見掛け倒しの男だな。
「駄目だ。このままじゃ、間違いなく期限内には王都に着けないだろう」
「……その根拠は?」
「お前も薄々気付いてるんじゃないのか?キム」
キムはそれを聞くと苦笑する。
リンダ達は気付いてないようだったが、やはりアルさん達も俺と同じことを考えていたようで、微妙な顔をしていた。
「この道中、何度も魔物に襲われた。一回や二回なら……まあ、偶然だと片付ければ良かったんだが、三回四回とくると、流石に偶然では済まなくなる。しかも、魔物は明らかに俺達に向かって襲ってきていた。これらを鑑みても…………おそらく、何者かが俺達を狙ってると見て、間違いないと思う」
「な、何者かって誰よ?!」
「そんなの、俺が知るわけないだろう?」
「何よ!偉そうなこと言って、結局何も分かってないじゃない!」
イラッ。
リンダが侮蔑の目で俺を見てくる。
別にそれだけなら問題は無いが、いちいち突っかかってこられると、苛々してしょうがない。
落ち着け…………こいつは一応俺より年下だぞ?
俺はこめかみを指で押さえて、自分自身に言い聞かせた。
リンダは二十一歳で、俺の実年齢は二十五歳だ。
例え現在年齢が逆転していても、俺の方が年上であることには代わりない。
感情的になったら負けだ。
こちらが冷静に、大人の対応で接しなければ、結局何も変わらないままだ。
俺は一度大きく息を吸いこみ、口を開きかけたが、それをキムの声により阻まれる。
その声音はとても静かであったが、何処と無く有無を言わせない迫力があった。
「…………あのさあ?そろそろいい加減にしたら?」
「はあ?!」
「リンダが何を焦ってるのか、僕は知ってるよ?」
「っ?!」
キムの言葉に、リンダが驚きに目を見開く。
何でそんなことまで知ってるんだよ。
流石は情報通だな、とどうでも良い所に感心してしまう俺。
「けど、今はそれ関係無いよね?本当は薄々気付いてるんでしょ?ここまで来れたのは誰のお陰か……アスカが居なければ、皆は確実にここまで来れなかった筈だ」
「あ、いや……俺はそんなことは……」
「アスカは少し黙ってて」
「あ、はい……」
キムの今迄に無い強い口調に俺はたじろぎ、押し黙るしかなかった。
「君は召喚士だってことでアスカを馬鹿にしてるようだけど……アスカはレベルで言うなら君より上だよ?」
「な?!」
リンダだけでなく、皆が一斉に俺を見遣る。
何でそんなこと知ってるんだよ?と言う突っ込みは、今はしない。
てか、突っ込む雰囲気でもなさそうだった。
「正確なレベルまでは知らないけど、百を超えてる筈だ。けど、君も知っての通り、冒険者はレベルじゃない。ましてや、職業も関係無い。必要なのは、経験をどれだけ積んでるかだ」
「…………」
「ハッキリ言って、この中で一番経験を積んでるのは、間違いなくアスカだろう」
まあ、嘘ではないよな。
ゲームの中での話しだけど。
「確かに、アスカは冒険者になりたてで、それなのに何で?って思うかもしれないけど、今大事なのは、アスカの助言が無ければ、今僕達が生きてここまで来ることは無かったってことだ」
「……っ」
リンダが唇を噛んで、悔しそうにする。
「リンダがプライドが高いのは分かってる。けど、本気でBランクに上がりたいなら、今はそんなちっぽけなプライドなんか捨てて、今は素直にアスカに従った方が賢明だと思うけど?」
「「「「………………」」」」
リンダは、最早何も言わなかった。否、言えなかった。
キムの目が、それを許さなかったからだ。
他の皆も、ただ黙ってキムの言葉に耳を傾けていた。
皆が何を考えてるかは知らないが、各々思う所があるのかもしれない。
それにしても、キムがここまで怒るとは思わなかった。
キムの意外な一面を垣間見てしまい、少々予想外な展開になってしまったが、兎にも角にも、これを機に、皆が協力しあって無事に試験を乗り越えられることを切に願うばかりだ。
そう思いながら、ここで話し合いは一旦お開きとなったのだった。




