初めての冒険
アージン辺境区を旅立ってから一週間が過ぎた。
アルさんと共に付いてきた二人の名は、熊男の方がヴィンセント、優男の方はヤハルと言うらしい。
ヤハルさんは兎も角、ヴィンセントさんも意外と気さくで、二人共常に俺達のことを気にかけてくれた。
ただ、リンダは初対面の時の印象が悪かったのか、ヴィンセントさんには極力近付かないようにしてるようだった。
それから、出発前に言っていたキラリの能力だが、キラリの能力の一つに、〈百目鏡〉と言うのがある。
これは、キラリの腰に巻いてる無数の鏡の破片を宙に転回させ、キラリはその鏡を通して、四方八方を直視することが出来るのだ。
これにより、一定の距離までなら周囲を見渡すことができ、逸早く魔物を見付けることが可能なのだった。
お陰で、魔物の奇襲を受けなくて済む。
魔物だが、アージン辺境区から離れるにつれ、やはり徐々に強くなっていった。
図書館で魔物の生息地の分布図などが載ってる本もあったが、実は、やはりここら辺もゲームとほぼ一緒だったのだ。
俺のメニューの中には、ゲームの中でだが、今迄に出会った魔物のデータの一覧を閲覧出来る機能もあったりする。
そこには、その魔物の弱点や情報などが事細かに記されているのだ。
ただし、強さがゲームと違っていた。
アージン辺境区では、強くても二十程度迄の魔物しか出てこなかったが、今では五十以上などザラである。
ゲームでも、もう少し弱かった気がする。
そして何より、実践ともなるとやはり勝手が違う。
当然現実であるこの世界では、負けはそのまま【死】に直結する。
なので、瞬時に最善の戦略を組み立てなくてはいけない。
特に、チームで動くとなると、一人が勝手なことをすれば、それだけで連携が崩れてしまい、本来なら簡単に倒せる筈の敵にさえ、思いの外手こずる。
ぶっちゃけ、俺の不安は的中してしまったのだ。
今もまさに、そんな時であった。
「おい!リンダ!前に出過ぎだ!!そんなやり方じゃ、そいつは倒せないぞ!!」
目の前には、【ハーデンライノセラス】と言う魔物が、俺達の目の前に立ち塞がっていた。
こいつは、見た目はクロサイのようで、巨大なツノが槍のように鋭く真っ直ぐ突き出ていた。
「だ、大丈夫よ!こんな奴私一人で問題無い、わ!!」
ガキンーー。
「きゃっ!!」
俺の忠告を無視して、リンダはハーデンライノセラスに切り掛る。
だが案の定、リンダの剣は難無くハーデンライノセラスに弾かれてしまった。
「ちっ!」
俺は舌打ちする。
この魔物は、レベル七十五程度で、本来ならこれだけ人数が居れば、それ程手こずる相手でもない。
ただ厄介なのは、こいつには〈硬化〉能力があり、それをしている間は、並大抵の武器や魔法は通用しない。
ただし、技や魔法には【インターバル】と言うものがあり、一度使った技などは、一定時間発動出来ないのだった。
このハーデンライノセラスのインターバルは十秒だ。
その隙を突けば、簡単に攻撃が通り、倒せない敵ではないのである。
けれど、これをどう説明すれば良いのか、それが至難の業だった。
ここに居る殆ど……と言うか、俺以外は間違いなく相手のステータスを見ることは出来ないだろう。
俺がステータスを覗き見ることが出来るなど、誰も知らないのだから…………。
それにこの魔物は、本来なら川辺に生息しているので、こんな街道に出てくること事態有り得ないのだ。
キラリのお陰で、充分態勢を整えることは出来た筈だったが、皆もかなり動揺していたみたいで、策もなくただ突っ込むだけで、それが今の現状に繋がる。
「はあ~……キム、俺が合図したら弓で攻撃頼む。属性は風で、狙うはこめかみ辺りだ」
「分かった」
キムは短くそう答えると、【旋風の弓】をアイテムバッグから取り出す。
キムにも勿論、俺のことは話していない。
けれど、キムはそれでも何も聞かずに、俺の指示に素直に応じてくれる。
この旅の道中、極力焰華達の力は借りないつもりだ。
これは俺とキムが決めたことで、元々今回は俺達のランクアップの為の試験なのだから、焰華達の力を借りてしまえば意味を成さないと判断したからだ。
ただし、俺は戦力としてはあまり期待するなと言ってある。
すると、キムは笑って「なら、戦力以外で期待してるよ」なんて、軽々しく言ってくれたのだ。
キムにも何も話していないにも関わらず、どうして会って間も無いこんな俺をそこまで信用してくれるのか、俺には理解出来なかった。
けれど、期待してくれているのなら、その期待に出来るだけ答えたいとも思ってる。
キムが旋風の弓の弦を引き構えると、そこに風が集まりだし、矢の形を成す。
そして、ハーデンライノセラスに狙いを定める。
俺はじっとハーデンライノセラスを見据え、タイミングを計った。
その間も、リンダとイーダムがハーデンライノセラスに何度も攻撃し続けていた。
当然ハーデンライノセラス本人は、全くの無傷である。
だが、そろそろ硬化能力も切れる筈だ。
ハーデンライノセラスもそれが分かっていたのか、一旦二人と距離を取る。
瞬間、ハーデンライノセラスの硬化能力が切れたのを、俺は見逃さなかった。
「今だ!!」
俺の号令と同時に、キムが風の矢を放つ。
風の矢は、綺麗に魔物のこめかみへと吸い込まれるように突き刺さった。
「グアァァァァァ!!」
ハーデンライノセラスは、一声咆哮を上げると一瞬動きを止める。
ズドーンーー。
そして、そのまま土煙を巻き起こしながら地に倒れ伏し、二度と起き上がることはなかった。
「ふう~……」
俺は額の汗を拭う。
「お疲れ」
キムがすかさず労いの言葉を掛けてくれる。
「おう。そっちもお疲れ。やっぱ何度見ても、お前の弓の腕前は凄いよな」
俺は素直にキムを賞賛した。
「あはは。それはどうも。一応これでも弓士なもんでね」
キムは、僅かに照れながら、悪戯っぽくニヤリと笑って言った。
すると、リンダがそんな俺達の元にツカツカと、肩を怒らせながら近付いてきた。
「何勝手なことしてんのよ!!あんな魔物なんて、私だけで充分だったんだからね!!」
「「………………」」
俺達は呆れて物も言えなかった。
明らかに苦戦していたように見受けられたのに、現実が直視出来ないのか?
この自信はいったい何処から来るんだ?
ただの馬鹿なのか?
初日にキムが言った意味が、この一週間で身に染みて分かった。
こいつらが何故Bランクに上がれないのか…………。
まず、協調性が無さすぎる。
チームワークなど皆無と言った感じだ。
それに、デラムとチョウは、リンダの腰巾着みたいに、リンダの命令無くして行動することはない。
後、度胸も無さそうだった。
今迄の戦闘を見てみても、リンダがある程度弱らした魔物を、残り物を頂くように最後に攻撃をするだけなのだ。
因みに、パーティーを組むと、経験値は公平に分配される。
ただし、それには戦闘に参加しなくてはいけないと言う条件が付くが。
それから、判断力にも掛ける。
大体一撃当てれば、相手が自分と相性が良いか悪いかの判断くらい、すぐに出来そうなものである。
それを、ただがむしゃらに突っ込んで行くだけで、特に何も考えていなさそうだった。
良くそれで今迄生き残れて来れたものだと、逆に感心してしまう。
それにイーダムも同類のようだった。
イーダムは、「どりあぁぁぁ!!」とか掛け声だけは良いが、それだけだった。
気合いだけは充分伝わってくるのだが、いつもそれが空回りする感じだ。
それに、見かけによらず弱腰で、にも関わらず敵にただ突っ込んで行くだけで、ここ迄まだ一匹もまともに仕留められていなかった。
今迄ソロで活動してたと言うが、それも本当なのか怪しい所だ。
「…………あのな、あのままじゃお前死んでたぞ?」
俺は軽く溜め息を吐きながらも忠告してやるが、リンダは全く聞き耳を持とうとしない。
これは、もう何度もやったやり取りだった。
「うっさい!!たかが召喚士のくせに!!あんたなんか何もしてないじゃない!!」
「「「「………………」」」」
「ひっ?!」
そして、この展開もお馴染みとなっていた。
リンダが俺を罵倒する度に、俺の背後に控えてる俺の従魔達が、リンダに殺気を向ける。
けれど、それを制止する人物もお決まりとなっていた。
「……そろそろ良いかの?このままでは、三週間でヴァートス王国には着かんぞ?」
アルさんが馬車の幌から顔を出すと、やんわりと告げる。
「ふ、ふん!!」
それを聞くと、リンダはそっぽを向いていそいそと馬車に乗り込んだ。
これが、最近の俺達のパターンだった。
「はあ~」
俺は頭を抱えながら、大きな溜め息を吐く。
正直言って、残り二週間をこのメンバーで上手くやっていける自信はない。
元々俺は、人付き合いはあまり得意ではないのだ。
それなのに、いきなりチームリーダーに抜擢されるわ…………俺にはぶっちゃけ荷が重過ぎる。
キムも一応リーダーで、お互い良く話し合ったりするが、本気で裏方に徹するつもりなのか、基本俺が主導権を持つこととなってしまっていた。
「まあまあ。適当にやり過ごすしかないよ」
「…………お前な」
キムが、肩をポンと叩いて他人事のように言ってくるので、俺はキムを半眼で睨む。
キムは、そんな俺の反応にもどこ吹く風で、肩を竦めるだけだ。
俺はまた頭を抱えたくなってくる。
すると、背後から不穏な空気が漂ってきた。
「…………殺す?」
「へ?」
あれ~?今何やら物騒な言葉が聞こえた気が…………。
俺は、恐る恐る後ろを振り返ると、陸がリンダ達の乗った馬車を、無表情に殺気を込めた瞳で見ていた。
他の三人の目も全く笑ってなくて、俺の額に今度は別の嫌な汗が吹き出る。
「い、いやいやいや!別にそこまでしなくていいから!!」
俺は慌てて首を振って、皆の気持ちを落ち着かせる。
これは、完全に冗談では済まなくなりそうな雰囲気だ。
「と、取り敢えず!俺達も馬車に乗ろうか!これ以上皆を待たせるのもアレだしな!!」
四人は納得していない様子だったが、それでも俺の指示には素直に従ってくれて、胸を撫で下ろす。
最悪な事態にならなくて、本当に良かった。
キムはそんな俺達を見て、苦笑しながら同情の言葉を投げ掛けてきた。
「アスカも大変だよな」
お前が言うなよ!!
と心の中で叫びながら、馬車は再び王都への道を走るのだった。




