表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/28

初めての冒険

 アージン辺境区を旅立ってから一週間が過ぎた。


 アルさんと共に付いてきた二人の名は、熊男の方がヴィンセント、優男の方はヤハルと言うらしい。

 ヤハルさんは兎も角、ヴィンセントさんも意外と気さくで、二人共常に俺達のことを気にかけてくれた。

 ただ、リンダは初対面の時の印象が悪かったのか、ヴィンセントさんには極力近付かないようにしてるようだった。


 それから、出発前に言っていたキラリの能力だが、キラリの能力の一つに、〈百目鏡〉と言うのがある。

 これは、キラリの腰に巻いてる無数の鏡の破片を宙に転回させ、キラリはその鏡を通して、四方八方を直視することが出来るのだ。

 これにより、一定の距離までなら周囲を見渡すことができ、逸早く魔物を見付けることが可能なのだった。

 お陰で、魔物の奇襲を受けなくて済む。


 魔物だが、アージン辺境区から離れるにつれ、やはり徐々に強くなっていった。

 図書館で魔物の生息地の分布図などが載ってる本もあったが、実は、やはりここら辺もゲームとほぼ一緒だったのだ。

 俺のメニューの中には、ゲームの中でだが、今迄に出会った魔物のデータの一覧を閲覧出来る機能もあったりする。

 そこには、その魔物の弱点や情報などが事細かに記されているのだ。

 ただし、強さがゲームと違っていた。

 アージン辺境区では、強くても二十程度迄の魔物しか出てこなかったが、今では五十以上などザラである。

 ゲームでも、もう少し弱かった気がする。

 そして何より、実践ともなるとやはり勝手が違う。

 当然現実であるこの世界では、負けはそのまま【死】に直結する。

 なので、瞬時に最善の戦略を組み立てなくてはいけない。

 特に、チームで動くとなると、一人が勝手なことをすれば、それだけで連携が崩れてしまい、本来なら簡単に倒せる筈の敵にさえ、思いの外手こずる。

 ぶっちゃけ、俺の不安は的中してしまったのだ。


 今もまさに、そんな時であった。


「おい!リンダ!前に出過ぎだ!!そんなやり方じゃ、そいつは倒せないぞ!!」


 目の前には、【ハーデンライノセラス】と言う魔物が、俺達の目の前に立ち塞がっていた。

 こいつは、見た目はクロサイのようで、巨大なツノが槍のように鋭く真っ直ぐ突き出ていた。


「だ、大丈夫よ!こんな奴私一人で問題無い、わ!!」

 ガキンーー。

「きゃっ!!」


 俺の忠告を無視して、リンダはハーデンライノセラスに切り掛る。

 だが案の定、リンダの剣は難無くハーデンライノセラスに弾かれてしまった。


「ちっ!」


 俺は舌打ちする。

 この魔物は、レベル七十五程度で、本来ならこれだけ人数が居れば、それ程手こずる相手でもない。

 ただ厄介なのは、こいつには〈硬化〉能力があり、それをしている間は、並大抵の武器や魔法は通用しない。

 ただし、技や魔法には【インターバル】と言うものがあり、一度使った技などは、一定時間発動出来ないのだった。

 このハーデンライノセラスのインターバルは十秒だ。

 その隙を突けば、簡単に攻撃が通り、倒せない敵ではないのである。

 けれど、これをどう説明すれば良いのか、それが至難の業だった。

 ここに居る殆ど……と言うか、俺以外は間違いなく相手のステータスを見ることは出来ないだろう。

 俺がステータスを覗き見ることが出来るなど、誰も知らないのだから…………。

 それにこの魔物は、本来なら川辺に生息しているので、こんな街道に出てくること事態有り得ないのだ。

 キラリのお陰で、充分態勢を整えることは出来た筈だったが、皆もかなり動揺していたみたいで、策もなくただ突っ込むだけで、それが今の現状に繋がる。


「はあ~……キム、俺が合図したら弓で攻撃頼む。属性は風で、狙うはこめかみ辺りだ」

「分かった」


 キムは短くそう答えると、【旋風の弓】をアイテムバッグから取り出す。

 キムにも勿論、俺のことは話していない。

 けれど、キムはそれでも何も聞かずに、俺の指示に素直に応じてくれる。


 この旅の道中、極力焰華達の力は借りないつもりだ。

 これは俺とキムが決めたことで、元々今回は俺達のランクアップの為の試験なのだから、焰華達の力を借りてしまえば意味を成さないと判断したからだ。

 ただし、俺は戦力としてはあまり期待するなと言ってある。

 すると、キムは笑って「なら、戦力以外で期待してるよ」なんて、軽々しく言ってくれたのだ。

 キムにも何も話していないにも関わらず、どうして会って間も無いこんな俺をそこまで信用してくれるのか、俺には理解出来なかった。

 けれど、期待してくれているのなら、その期待に出来るだけ答えたいとも思ってる。


 キムが旋風の弓の弦を引き構えると、そこに風が集まりだし、矢の形を成す。

 そして、ハーデンライノセラスに狙いを定める。

 俺はじっとハーデンライノセラスを見据え、タイミングを計った。

 その間も、リンダとイーダムがハーデンライノセラスに何度も攻撃し続けていた。

 当然ハーデンライノセラス本人は、全くの無傷である。

 だが、そろそろ硬化能力も切れる筈だ。

 ハーデンライノセラスもそれが分かっていたのか、一旦二人と距離を取る。

 瞬間、ハーデンライノセラスの硬化能力が切れたのを、俺は見逃さなかった。


「今だ!!」


 俺の号令と同時に、キムが風の矢を放つ。

 風の矢は、綺麗に魔物のこめかみへと吸い込まれるように突き刺さった。


「グアァァァァァ!!」


 ハーデンライノセラスは、一声咆哮を上げると一瞬動きを止める。


 ズドーンーー。


 そして、そのまま土煙を巻き起こしながら地に倒れ伏し、二度と起き上がることはなかった。


「ふう~……」


 俺は額の汗を拭う。


「お疲れ」


 キムがすかさず労いの言葉を掛けてくれる。


「おう。そっちもお疲れ。やっぱ何度見ても、お前の弓の腕前は凄いよな」


 俺は素直にキムを賞賛した。


「あはは。それはどうも。一応これでも弓士なもんでね」


 キムは、僅かに照れながら、悪戯っぽくニヤリと笑って言った。

 すると、リンダがそんな俺達の元にツカツカと、肩を怒らせながら近付いてきた。


「何勝手なことしてんのよ!!あんな魔物なんて、私だけで充分だったんだからね!!」

「「………………」」


 俺達は呆れて物も言えなかった。

 明らかに苦戦していたように見受けられたのに、現実が直視出来ないのか?

 この自信はいったい何処から来るんだ?

 ただの馬鹿なのか?


 初日にキムが言った意味が、この一週間で身に染みて分かった。

 こいつらが何故Bランクに上がれないのか…………。

 まず、協調性が無さすぎる。

 チームワークなど皆無と言った感じだ。

 それに、デラムとチョウは、リンダの腰巾着みたいに、リンダの命令無くして行動することはない。

 後、度胸も無さそうだった。

 今迄の戦闘を見てみても、リンダがある程度弱らした魔物を、残り物を頂くように最後に攻撃をするだけなのだ。


 因みに、パーティーを組むと、経験値は公平に分配される。

 ただし、それには戦闘に参加しなくてはいけないと言う条件が付くが。


 それから、判断力にも掛ける。

 大体一撃当てれば、相手が自分と相性が良いか悪いかの判断くらい、すぐに出来そうなものである。

 それを、ただがむしゃらに突っ込んで行くだけで、特に何も考えていなさそうだった。

 良くそれで今迄生き残れて来れたものだと、逆に感心してしまう。


 それにイーダムも同類のようだった。

 イーダムは、「どりあぁぁぁ!!」とか掛け声だけは良いが、それだけだった。

 気合いだけは充分伝わってくるのだが、いつもそれが空回りする感じだ。

 それに、見かけによらず弱腰で、にも関わらず敵にただ突っ込んで行くだけで、ここ迄まだ一匹もまともに仕留められていなかった。

 今迄ソロで活動してたと言うが、それも本当なのか怪しい所だ。


「…………あのな、あのままじゃお前死んでたぞ?」


 俺は軽く溜め息を吐きながらも忠告してやるが、リンダは全く聞き耳を持とうとしない。

 これは、もう何度もやったやり取りだった。


「うっさい!!たかが召喚士のくせに!!あんたなんか何もしてないじゃない!!」

「「「「………………」」」」

「ひっ?!」


 そして、この展開もお馴染みとなっていた。

 リンダが俺を罵倒する度に、俺の背後に控えてる俺の従魔達が、リンダに殺気を向ける。

 けれど、それを制止する人物もお決まりとなっていた。


「……そろそろ良いかの?このままでは、三週間でヴァートス王国には着かんぞ?」


 アルさんが馬車の幌から顔を出すと、やんわりと告げる。


「ふ、ふん!!」


 それを聞くと、リンダはそっぽを向いていそいそと馬車に乗り込んだ。

 これが、最近の俺達のパターンだった。


「はあ~」


 俺は頭を抱えながら、大きな溜め息を吐く。

 正直言って、残り二週間をこのメンバーで上手くやっていける自信はない。

 元々俺は、人付き合いはあまり得意ではないのだ。

 それなのに、いきなりチームリーダーに抜擢されるわ…………俺にはぶっちゃけ荷が重過ぎる。

 キムも一応リーダーで、お互い良く話し合ったりするが、本気で裏方に徹するつもりなのか、基本俺が主導権を持つこととなってしまっていた。


「まあまあ。適当にやり過ごすしかないよ」

「…………お前な」


 キムが、肩をポンと叩いて他人事のように言ってくるので、俺はキムを半眼で睨む。

 キムは、そんな俺の反応にもどこ吹く風で、肩を竦めるだけだ。

 俺はまた頭を抱えたくなってくる。

 すると、背後から不穏な空気が漂ってきた。


「…………殺す?」

「へ?」


 あれ~?今何やら物騒な言葉が聞こえた気が…………。


 俺は、恐る恐る後ろを振り返ると、陸がリンダ達の乗った馬車を、無表情に殺気を込めた瞳で見ていた。

 他の三人の目も全く笑ってなくて、俺の額に今度は別の嫌な汗が吹き出る。


「い、いやいやいや!別にそこまでしなくていいから!!」


 俺は慌てて首を振って、皆の気持ちを落ち着かせる。

 これは、完全に冗談では済まなくなりそうな雰囲気だ。


「と、取り敢えず!俺達も馬車に乗ろうか!これ以上皆を待たせるのもアレだしな!!」


 四人は納得していない様子だったが、それでも俺の指示には素直に従ってくれて、胸を撫で下ろす。

 最悪な事態にならなくて、本当に良かった。

 キムはそんな俺達を見て、苦笑しながら同情の言葉を投げ掛けてきた。


「アスカも大変だよな」


 お前が言うなよ!!


 と心の中で叫びながら、馬車は再び王都への道を走るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ