出発前からこんなんで大丈夫か?
帰宅後、ウトウトしてしまって、いつもより遅い時間となってしまいました。
俺が入り口まで急いで行くと、キムが俺の様子がおかしいのに気付き、あれこれ聞いてきたが何とか誤魔化して買い出しへと出掛ける。
一度四葉亭にも戻り、約二ヶ月程留守にする旨を伝え、それまでの宿泊代を纏めて払う。
俺がそれだけの大金を何気無く出してしまった為、逆に皆にドン引かれてしまった。
俺としては、ゲームで稼いだ金なので、痛くも痒くもないんだが……。
それから二時間程経ってから、俺達は正門へと着く。
そこには、アルさんと知らない男の人が二人、アルさんを挟んで立っていた。
一人は百八十センチメートルの熊みたいな大男で強面の、一見カタギには見えそうもない男だ。
もう一人は、百七十二センチメートルの笑顔が似合う優男で、女ウケしそうなイケメンだった。
「ほう……時間前集合とは、良い心掛けだな」
熊みたいな男が、俺達を見て感心したように言った。
どうやら、俺達以外はまだ誰も来ていないようで、俺達が十五分前に着いたのがよっぽどお気に召したのか、熊男はご機嫌でうんうんと何度も頷いていた。
けれど、逆に優男の方は軽いノリで、熊男に駄目出しをする。
「もう!先輩は相変わらず堅いっすね。時間は丁度でいいんすよ」
「む?だが、早いに越したことはないだろ?」
「そうかもしれませんが、早く着いたって早く出発するわけじゃないでしょ?」
「確かに……だが、やはり早いに越したことは……」
「あー……はいはい!本当に石頭なんだから」
「むむむ?」
俺達そっちのけで、軽口を言い合う二人。
真逆な二人に見えるが、それが返ってバランスが取れているように俺は感じた。
それに、二人の言ってることは、結局はどちらも同じ意味なのだ。
要は、遅刻さえしなければ良いと言ってるのだから。
「…………マスター、ちょっといいかしら?」
俺が二人のやり取りを、ただぼーっと眺めていると、キラリが珍しく険しい口調で声を掛けてきた。
「うん?」
俺が振り返ると、キラリは“ある事”を耳打ちで俺に知らせてきた。
「ふ~ん…………なるほど、ね」
それを聞いた俺は、アルさん、熊男、優男、キムを見て、それからまたアルさんを見た。
キラリ達は、既に臨戦態勢に入っていた。
「……ま、大丈夫だろ?問題無いと思うぞ?」
俺は少し思案してから、特に気にすることもないと皆に伝える。
四人はそれを聞くと、臨戦態勢を解いた。
「これこれ、止めんか。皆が困っとるぞ?」
「「は!」」
アルさんが見るに見兼ねて、未だに言い合いをしてる二人を止める。
アルさんの制止の言葉に、二人がビシッと姿勢を正す。
それから少し経つと、イーダムが正門に到着する。
イーダムは、熊男と優男に軽く会釈をしただけで、それからは一言も喋らなかった。
こいつの性格がいまいち掴めない。
見た目は、ある意味熊男よりもヤバそうに見えるが、それ程悪い男とも思えなかった。
この三週間の旅の間に、少しは打ち解けることが出来るだろうか?
そして、更に時間が経ち…………正午の鐘の音が街に響き渡った。
「…………すみません。やっぱり俺が間違ってました」
「そうだな。やはり時間は早いに越したことはないだろう?」
「はい。そうですね」
鐘の音が鳴り終わると、優男がすぐ様自分が間違いであったと謝罪する。
いくら軽そうに見えても、やはり時間厳守でないのは許せないのだろう。
見る見る内に笑顔が消え、眉間に皺が寄っていく。
それから、三分程過ぎた頃、リンダが後ろの二人を引き連れて、漸く集合場所に来た。
その姿は悠々としており、遅刻してきたと言うのに、全く焦ってる様子はなかった。
「あら?もう集まってたの。なら、早速行きましょうか?」
「………………おい。他に言うことはないのか?」
「な、何よ!あなた!」
遅れてきたわりに、リンダはまるでそれが当然だと言わんばかりに、来て早々仕切り出す。
それに苦言を呈したのは、熊男だった。
その熊男のあまりの迫力に、リンダの顔が強張る。
「遅れて来たんだから、まずは頭を下げるのがスジじゃないかな?」
優男も、相手が女性だからか、再び笑顔を戻して優しく忠言してやる。
けれど、そんな優男にも、リンダは全く反省の色を見せようとはしない。
あろうことか、逆ギレまでする始末だった。
「はあ?!ちょっと数分遅れただけじゃない!!男が細かいこと気にしてんじゃないわよ!!小さい男ね!!」
ピクーー。
優男の眉が、僅かに動いたのを、俺は見過ごさなかった。
既に一触即発の雰囲気が辺りを包む。
このままではマズいと思い、俺が口を開きかけると、別の所から先にやんわりと声が掛かった。
「ほっほっほ。まあ、良いではないか。そう目くじらを立てるものじゃないぞ?」
アルさんが、リンダの態度をも笑って寛容に許す。
熊男と優男は、納得は行かなかったが、アルさんの言葉には素直に従い、リンダから視線を外す。
だが、それを何を勘違いしたのか、リンダがすぐにまた高慢な態度で胸を反る。
「でしょ?だったら……」
「じゃがな……」
けれど、アルさんはリンダの言葉を遮ると、目を細めて何故か俺達の方に視線を向けた。
「ん?」
「何だろうね?」
俺とキムは、揃って首を傾げる。
「指揮を取るのは其方ではないよ?この旅のリーダーは…………そこにおる、二人のどちらかに頼みたい」
「は?」
「え?」
思い掛けないご指名に、俺とキムは驚きに目を見開き絶句した。
そして、当然それに納得出来ないリンダが、アルさんに食ってかかった。
「ちょ!ちょっと待ちなさいよ!!何で私ではなく、その二人なわけ?!しかも一人なんて、冒険者なりたてだし、それにたかが召喚士風情じゃない!!」
その言葉を聞いて、背後からゆらりと殺気が立ち上る。
俺が慌てて振り返ると、俺の従魔達が、殺気の篭った瞳でリンダを睥睨していた。
今にも飛び掛りそうな雰囲気だ。
「ひっ?!」
その四人の様子に気付き、リンダが情けない声を出す。
俺の為に怒ってくれるのは嬉しいが、これ以上時間を無駄にしたくなかった俺は、苦笑しながらも何とか四人を宥めると、アルさんに向き直って言った。
「彼女の言い方は兎も角、俺も自分がリーダーになるのは不服です。まだ冒険者になって一ヶ月のペーペーですし」
「ほら!だから私が……「だから!!」?!」
俺は、リンダがこれ以上余計なことを口走らないように、言葉を被せて続ける。
「キムがリーダーになるのが良いと思います」
「えー?」
キムは、俺がキムを推薦すると微妙な顔をした。
「「えー?」って、この中では一番キムが最適だと思うけど?」
「いやいや、ないわ~。僕はどちらかと言うと、裏で暗躍する方が性に合ってるし」
「それこそ「えー?」だわ!普通自分で言うか?」
「本当のことだし?僕としては、アスカがリーダーになってくれた方が有り難いけど?」
「何で有り難いんだよ?」
「その方が、僕が暗躍しやすいから」
「おい!」
俺達がお互いリーダーを押し付け合ってると(若干脱線してる気もするが)、アルさんが再び驚きの提案をしてきた。
「ふむ……それなら、二人でしたらどうじゃ?」
「「………………」」
俺達は、お互い目を見合わせる。
どうあっても、アルさんは俺達にリーダーを務めて貰いたいようだった。
確かに、このメンバーなら真っ当な配役だとも思う。
それに、これ以上あーだこーだ言えば、更に時間を無駄にしそうだった為、俺達は渋々ではあったがそれを了承することにした。
「……まあ、そう言うことなら」
「そうだね。それなら、僕はアスカの後ろで暗躍すればいいし」
「まだ言うか!」
「ほっほっほ。これで決まりじゃな。さて、最初の仕事じゃが、まずはどう言う割り当て方をするつもりじゃ?」
そう問われ、俺とキムは話し合う。
「そうだな……リンダの三人組とイーダムは前方の馬車に。リンダ達はパーティーだから分けない方がいいだろう。イーダムは槍使いらしいから、前衛に置いとくべきだと思う」
「うん。僕も同じ意見だ。けど、側面はどうしようか?歩兵組も居た方がいいかな?」
「いや、それなら問題無い」
俺はキラリをちらりと見遣る。
「キラリの能力に、三六〇度見渡すことが出来る能力がある。必要なら、遠見も可能だ」
「そうなの?」
「ああ。当面はそれで大丈夫だろう。けど、ずっとってわけにも行かないだろうから、その時はまた考えれば……」
「その必要はないわ。大丈夫だから私に任せて頂戴」
俺がキラリの体調を心配してそう言うが、キラリは胸を叩いて自信満々に言ってくれた。
「そうか?それなら頼む。けど、無理はするなよ?」
「ええ」
キラリが、力強く笑顔で頷く。
「では、出発するかの?大分時間を食ってしまったが」
リンダは未だに不服そうな顔でブツブツ文句を言いながら、イーダムは我関せずと言った感じではあったが、漸く皆がそれぞれ馬車に乗り込む。
既に、集合時間から二十分が経過していた。
出発前から少々予想外な展開ではあったが、これで何とか出立することが出来て一安心だ。
俺としては、初めての旅に僅かに浮き足立っていた。
メンバーに一抹の不安があったが、それでも、現実の旅に緊張しながらも、これからの旅に大きな期待もあり、俺達はアージン辺境区を旅立つのだった。




